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経済効果5300億円、「お祭り大国・日本」が目指すべき持続可能なお祭りの姿

2023.04.18(火) 09:55
経済効果5300億円、「お祭り大国・日本」が目指すべき持続可能なお祭りの姿

青森ねぶた祭や京都祇園祭をはじめ、日本国内に約30万件あるお祭り。コロナ禍以前は全国で年間約5,300億円*もの経済効果を生み出していたと言われている一方、資金難や人手不足、集客不足で存続が危ぶまれるお祭りも多い。

*出所:日本経済新聞『データで読む地域再生

では、地域はどのようにお祭りの持続化をはかり、地域経済の活性に繋げていくべきなのだろうか。全国のお祭り運営者のサポートを行う株式会社オマツリジャパン 代表取締役・加藤優子氏に話を伺った。

加藤優子(かとう・ゆうこ)
株式会社オマツリジャパン代表取締役

1987年生まれ。練馬区出身。武蔵野美術⼤学油絵科卒業後、(株)ピックルスコーポレーションに⼊社。商品開発とデザインを担当。震災直後の⻘森ねぶた祭に⾏った際、地元の⼈が⼼の底から楽しんでいる様⼦を⾒てお祭りの持つ⼒に気付く。同時に多くのお祭りが課題を抱えていることを知り、2014年に全国のお祭りを多面的にサポートする団体「オマツリジャパン」を創業。2児の母。

青森県のGDPの1%を生む、「お祭り」の経済効果

──お祭りが地域にもたらす経済効果について、どのようにお考えでしょうか。

そもそもお祭りはお金を儲けるためにやるものではなく、祈祷や地域の親睦を深めるなど、さまざまな意義のあるものです。

ただ、各地から参加者や観客が訪れる大規模なお祭りの場合、地域経済の一端を担うこともあります。遠方からの観光客は飛行機や新幹線で訪れ、現地では宿泊、食事、お土産を購入したりしますよね。

たとえば青森ねぶた祭には、コロナ禍以前は280万人以上もの観光客が訪れ、県のGDPの1%弱を稼ぐほどの大きな経済効果をもたらしています。

──県のGDP1%とは、大きなインパクトですね。それだけの規模のお祭りをどのように運営しているのでしょうか。

お祭りの運営組織にもたくさんパターンがあり、地域の神社が運営していたり、商店街や小学校が運営していることもあります。ただ、大規模なお祭りになると実行委員会形式になっていることが多いですね。映画でも「●●フィルム製作実行委員会」ってありますよね。それと近いイメージです。

青森ねぶた祭りの場合も、実行委員会形式で行っています。青森市長が名誉大会長になり、委員には青森観光コンベンション協会や商工会議所、地銀など地元の名士が名を連ねています。

──お祭りの担い手は地域のボランティアも多いと思いますが、それでも運営資金は必要になりますよね。

実はすべての資金をお祭りで稼ぎ出している、というケースは多くありません。青森ねぶた祭も有料観覧席などの事業収入はあるものの、一部は行政の負担金で賄われています。

町内会などが運営する地域密着型の小さなお祭りも、地域住民や企業からの協賛金・寄付金などの収入のほか、市の補助金や町内会費などがあてられているケースもあります。協賛金・寄付金というのは、お祭りでよく目にする、提灯(ちょうちん)に「●●株式会社」と書かれているようなものですね。

ニッポンのお祭りの裏側にある「財政難」

──これだけの経済効果をもたらすものであれば、地域活性化のためにはお祭りをどんどんやっていくべきですね。

ただ、そこまで単純な話ではありません。ねぶた祭りは「GDPの1%を稼ぐ」といえど、青森観光コンベンション協会によると、コロナの影響もあり昨年の来場者数は2019年から約4割減少。収支は過去最大の約960万円もの赤字になったそうです。

地域密着型のお祭りも、1口数千円の提灯を購入してもらうために、運営側は毎年決められたルートを回りながら集金していくことが通例ですが、地域で協賛金を支援してきた商店などが閉業することも多くなりました。徐々に使える予算は縮小の一途を辿っていき、存続が難しくなるお祭りもあるんです。

──なるほど。お祭りでは具体的に、どういった支出が発生するのでしょうか。

会場費や広報費、露店の管理費などのほか、お祭りで使用する神輿や山車の管理費に割かれることもあります。神輿を保管する倉庫や山車の修繕費用で、数千万円もの修理費が発生することもあるんです。赤字の状況では修繕費を捻出することは厳しいですよね。

青森ねぶた祭のように、有料観覧席を用意しているところもありますが、世の中のお祭りの多くは参加者や観客は無料を前提としたものです。その一方で「お祭りの開催は無料ではできない」ということは、皆さんにも知っていただきたいですね。

“知られざるお祭り”をネットワーク化して企業とつなげる

──オマツリジャパンでは「祭りで日本を盛り上げる」ことをミッションに掲げていますが、具体的にはどのように事業を展開しているのでしょうか?

オマツリジャパンの事業アイデアはメディア運営からスタートしました。その背景としては、地域のお祭りの情報発信が、お祭りの存続に重要だと感じたからです。

お祭りの運営は少子高齢化が進んでいます。より多くの人に訪れてもらいたくても、効果的な情報発信の術を運営者が知らないこともある。

特に町の小さなお祭りなどは掲示板での告知に留まることが多く、近所のお祭りですら「いつやるか」が把握できないことがあります。国内に約30万件ものお祭りがあるなかでも、運営主体がオンライン上で情報発信をしているのは約5,000件程度なんです。

そこで全国のお祭り情報を発信するメディアを2015年に開設しました。現在月間で約500万PVを獲得し、日本最大級の地域文化メディアとして機能しています。

海外から訪れる観光客の中にも日本のお祭りに興味をもつ人は多い。「日本一のお祭り」とはいかなくとも、地域の小さなお祭りをのぞくだけで、感動してもらえることはあります。しかし日本人の私たちですら、お祭りの情報を把握しきれていない。まずは情報をしっかり収集・整理し、発信することが私たちの役割だと思います。

そのうえで、お祭りの「財政難」も我々がクリアしたい課題のひとつです。「人手が足りない」という問題も、お金があれば解決できる場合がある。そこで、我々は「協賛を希望する企業」と「協賛が欲しいお祭り」をマッチングさせるようなプランの提案を行う「法人事業」に着手しています。

写真提供:オマツリジャパン

一度に数万〜10万人にアプローチできるため、大きなお祭りへ協賛が集中しがち。でも私たちは小規模なお祭りへのサポートも行いたいからこそ、例えば合計◯万人にリーチする大小のお祭りをパッケージ化したプランなどを企業に提案したいと考えています。

小さなお祭り1件では大きな金額にならなかったとしても、47都道府県全部のお祭りを横断してパッケージ化すれば数百〜数千万円台の仕事にもなる可能性があります。オマツリジャパンも事業を継続でき、企業側もポジティブな場所でPRができ、お祭り側も資金を確保できる。

従来の資金調達だと限界があるからこそ、企業も運営もWin-Winになる方法やアイディアを、常に模索し、提示していきたいです。

お祭りの継続に不可欠なのは「柔軟性」と「ハート」

──お祭りの資金調達の課題を解決するにはどうすれば良いでしょうか?

「柔軟性」が1つのキーワードになるでしょう。資金集めのやり方も「ずっとそうだったから」と過去の慣習に囚われていると、段々運営を維持するのが苦しくなってしまうこともあります。クラウドファンディングや協賛営業、グッズ制作など、柔軟性をもって運営費用を集められることが理想です。

写真提供:オマツリジャパン

例えば2022年、弊社では青森県庁と共に、青森ねぶた祭で1組20万円と100万円の「プレミアム観覧席」を企画、設置しました。地酒と食のペアリングを楽しめるほか、待ち時間にはねぶたを制作するねぶた師の解説を聞けるなどのコンテンツを用意したんです。

結果「祭りには興味があるし応援したいが、人混みや快適に見ることができないのが嫌」という富裕層に注目され、席は完売しました。このように新たな資金の獲得方法を模索することも、黒字化の重要な鍵になると思います。

また、自分たちのお祭りに相性の良い消費財を模索することも、企業協賛への新たなアプローチになります。お祭りを訪れる層やお祭り自体の魅力を捉え直しながら「企業側のメリット」を考えることが、協賛集めのヒントになるかもしれません。

──お祭りを継続していくためには、時代に合わせてアップデートしていくことも必要だ、と。

「神様のため」「楽しむため」「地域のため」など、お祭りによって目的はさまざま。ただ、結局は「人」ありきで開催されるものだからこそ、参加者に応じてルールは変化しても良いと思うんです。

実際、毎年日付固定で開催していたのを「平日だと社会人が参加できないから」と週末固定に変更したり、女人禁制を取り払ったり、とルール変更しているお祭りもあるんです。秋田県の「男鹿のナマハゲ」も、従来では未婚の男性しかなれませんでした。でも既婚者や、4歳の男の子や外国人がやってもいい、と敷居を下げた地区も一部あります。ほかに獅子舞なども、従来は男性しか獅子の中に入って舞ってはいけないとされていたルールを、近年では女性が舞ってもよいと変更した地域もあります。

その一方で、「担い手がいなくなったとしても伝統を守る」という選択肢も正しいです。極論ですが「お祭りがなくなってしまう」ということも一概に悪いことだと言い切ることはできません。コロナ禍をきっかけに全国各地のお祭りがなくなってしまいましたが、その中には80代以上のおじいちゃんだけで運営していて「辞めどき」が分からず苦しんでいたお祭りもありました。

「お祭りを続けたい」という判断に至った時、「なぜやるのか?」と目的を改めて考え直すことはが大事。会社の運営と一緒で「子どもたちを喜ばせたい」「地域出身者が帰ってきてくれるような場所にしたい」のように、明確なビジョンを決めることが重要だと思います。

──それぞれの地域であらためてお祭りをする理由を考えてみることが大切なんですね。

お祭りの成功に必要なのは、熱い想いをもった人が1人でもいることなんです。もちろんお金も重要ではあるのですが、どちらかといえば心(ハート)の方が重要。

ただお祭りって、開催されるのが当たり前になってしまっていることが多く、運営者に「開催してくれてありがとう」っていう感想があまりこないんですよ(笑)。クレームやトラブルも少なくなくて、心の折れた主催者も全国にいっぱいいらっしゃいます。

お祭りをやりたい人がいなくなったらもう終わり。オマツリジャパンでは人手不足やアイデア不足、運営資金や整備などのサポートを行うことで、発起人のハートを支援しながら「お祭り大国」である日本を盛り上げていきたいです。

(編集:野垣映二 執筆:高木望 撮影:小池大介)