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「群馬の勝ちモデル」「大義に資金が追いついてきた」、起業家が生まれる地域とは?

2024.03.07(木) 16:14
「群馬の勝ちモデル」「大義に資金が追いついてきた」、起業家が生まれる地域とは?

2023年12月15日、16日に、群馬県庁主催のイベント「湯けむりフォーラム」が開催されました。本イベントは、各界のトップリーダーが胸襟を開いて熱い議論と交流を交わすことで、群馬から新たな価値を生み出し、発信するもの。

トークセッション「起業家が生まれ飛躍できる地域とは~collaborated with 上毛新聞 and NewsPicks~」には、地域でイノベーションを起こしている3名の起業家が登壇し、Potluck Yaesuプロデューサーの山本の進行のもと、起業家と地域のこれからの関係が語られました。

登壇者プロフィール

福嶋 誠 氏(有限会社きたもっく 代表取締役)

齋藤 潤一 氏(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構代表理事)

矢野 健太 氏(株式会社パンフォーユー 代表取締役)

山本 雄生 (NewsPicks/ビジネスプロデューサー)

地域に根差したそれぞれの事業

セッションは登壇者3名の事業の内容をひも解くところからスタートしました。

「きたもっく」福嶋氏は、40歳の頃に出身地である群馬県北軽井沢にUターンして起業。「北軽井沢スウィートグラス」を運営し、キャンプを通じたコミュニティー・家族再生の場を提供しています。

また「TAKIVIVA」事業では、学校や企業と言った組織に活力を吹き込む場づくりも行っています。その他に、「百∞蜜」という養蜂事業や、その蜂蜜を原料としたお酒などの製品づくり、「二度上山」という自社山林の木を使った製材加工事業も。

まさに昨今注目されている循環社会を実現するための、サーキュラー的な事業を展開しているのが福嶋氏の会社です。

続いて、自己紹介した株式会社パンフォーユーの代表の矢野氏も群馬県出身です。同社は「マスオペレーションのシステムを提供し、忙しいパン屋さんが製造に集中できるようサポートしている」と話します。

同社は独自技術で全国のパン屋のパンを冷凍し、販売。販売先は多様で、個人宅・オフィス向けの他、ホテルやレストランに卸すことも。矢野氏は「地元群馬にいたからこそ見えた事業。現在は僕自身の稼働の割合は東京が多いが、本社を桐生市に置くことによる恩恵をかなり受けている」と話します。

最後に、「ビジネスで地域の課題を解決する」というテーマで活動している起業家の齋藤氏が挨拶しました。

同氏は宮崎県で一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構」の代表として1粒1000円のライチを開発するなど、地域経済振興に尽力。

また、農業の自動収穫ロボットを開発・提供するスタートアップ、AGRIST株式会社を立ち上げ、農業の人手不足を解消しようと試みています。齋藤氏は「今日はロボットを使ったキュウリの農業を群馬でやろうと、農地を探しに来ました」と話し、群馬での展開を見込んでいるそう。

なぜ地域を起点に事業を伸ばすのか?地域ならではのアセット

最初のトークテーマは、「都市部ではなく地域を起点に事業を伸ばすこと」。地域にはどんなアセットがあるのか、語られました。

矢野氏は2011年に社会人になり、地元の同級生が東日本大震災の影響で職を失っている様を目の当たりにしました。地元に雇用創出の面で貢献したい想いから、群馬での起業を選んだそうです。

東京は物価も高く、地場の実勢価格のものはほとんどありません。また、東京では人気でも地方では知られていない商品も多い。そういった現状から、矢野氏は「『東京だとこうだけど、地方だとこうじゃない?』というギャップに、ビジネスチャンスがある」と語ります。

矢野氏の会社、パンフォーユーはまさにそこを狙ったビジネスです。店頭ビジネスのため売り上げが安定しないパン屋に、個人やオフィス向けのサブスクサービスの販路を提供。デジタルの力を使って、地元の商圏ではない販路を拡大しています。それに対してエンドユーザーは、周りにパン屋がない地域の人。多様なパンと出会える楽しさを提供しています。

地元愛から群馬で起業した矢野氏に対して、齋藤氏は出身地ではない宮崎を拠点に選びました。

齋藤氏は、「地域のビジネスは今チャンス」だと話し、第1次産業とテクノロジーを掛け合わせることに圧倒的優位性があると強調します。特に海外からの視線は熱く、展示会では「アグリとロボット」というキーワードに惹かれ、齋藤氏のブースに人だかりができるそうです。

「日本の第1次産業は強い。群馬なら群馬にしかないものを、テクノロジーを活用して課題解決に適用していくことが、地域で事業を伸ばすヒントですね」(齋藤氏)

地域ビジネスの大義名分に、資金が追いついてきている

ローカル×ビジネスの機運が上がっていることを、矢野氏も肌で実感しているそうです。2017年の創業時に比べて、ローカル発スタートアップに対するエクイティー(出資)の金額が明らかに上がっていると、矢野氏は話します。

「地方発の、アグリやフードビジネスに対してしっかりお金出しましょうという流れが、特に地銀さんで表れている」(矢野氏)

従来のITを中心としたスタートアップビジネスには圧倒的なスピード感がありました。地域ビジネスにもスタートアップ並みのスピードがないと、地域経済が沈んでしまうという危機感が、矢野氏にはあります。

「地方でやる大義名分に資金が追いついてきている今が、起業のチャンスではないか」と矢野氏は語ります。

一方で、地方に足りない要素として、「風呂敷を広げてやる頭数が少ない」と矢野氏は指摘します。群馬には経営能力のある人材が多いにもかかわらず、堅実な経営に親しんできたゆえに、わざわざ出資を集めて赤字を掘りながら事業成長を目指す経営に慣れていないのだとか。

「無借金黒字経営と銀行融資だけでは、地域経済の衰退にスピードが追いつかない。エクイティーの力を活用して、今までにないスピードでシェアを取っていく事例が出てくると、景色が変わるのではないか」(矢野氏)

起業家に選ばれる地域の条件

次に「起業家に選ばれる地域」について議論が交わされました。山本は「挑戦者が増えるカルチャーを、いかにして地域が実装できるのか。大きな課題だと思いますが」と登壇者たちに問いかけた。

矢野氏は「地方発の起業家が増えている中、僕も含めて『地元だから』という理由でその地域を選ぶ起業家が増えている。郷土愛がある地域は起業家にこれからも選ばれるのでは」と話します。

長年地域に根を張って活動してきた福嶋氏は、地方で起業すること自体にメリットが多いと語ります。

「大体の地方は過疎っていますから、そこで誰かが手を挙げて『やるぞ』と言うのは非常に目立ちます」と福嶋氏。都市部のスタートアップは競争相手が多く埋もれがちであるのに対し、目立つことで応援してもらいやすいのが地方ビジネスのメリットなのだそう。

そんな地方起業のメリットを存分に生かしているのが、宮崎県新富町、人口1万6000人の町から上場を目指す齋藤氏。齋藤氏は「世界一農場に近いロボット開発拠点」として事業を始めました。

農業ロボットの開発の場は、農家のビニールハウスの真隣にあるプレハブです。そのやり方が投資家たちに納得感を与え、「たしかに世界中でここより現場に近い開発拠点はないから、改善できる」と評価されて、事業を拡大してきました。

齋藤氏は「起業家に選ばれる地域」というテーマに対して、起業家自身は地域を選ぶスタンスではダメだと強調。元米国大統領リンカーンの言葉「自分が何かしてもらうより、自分が国に何ができるかを考えろ」を引用し、起業家自身が地域経済を盛り上げようというゴールを行政と共有できるかが重要だと話しました。

起業家が挑戦する地域に必要な「寛容な仲間と時間」

地方で起業し、目を引くことで、風当たりが強くなることもあります。福嶋氏はキャンプ場の事業を始めた際に、レクリエーションサービスの会社から「こういうことをやった方がいい」と助言を受けたが、全部無視したそう。レクリエーション産業ではなく再生コミュニティを作るという信念を曲げませんでした。

山本氏は、地域の起業家に対する姿勢として「前例のないことをやる人にどれだけ寛容な仲間や、見守る時間をつくれるかが重要でなないか」と問いかけました。

「誰と組み、どんな仲間をつくるのかがすごく大事。熱量を集めて集中しなければ事業をスタートできません」と福嶋氏。交流の場や「勇気を出してやってみなよ」と言ってくれる周囲の存在が重要。「そういう雰囲気が群馬から出てきたら無敵じゃないですかね」と期待を込めました。

そのために起業家は「熱を伝え続けることが大事」だと齋藤氏。

「僕、本当にキュウリの農場をやりたいんですよ。だから言い続けます。とにかく言い続けて『やりたい』という熱意を見せる」(齋藤氏)

もちろん、新しいチャレンジを表で言い続けることに対しては、反発もあります。これまでの齋藤氏の取り組みはどれも「賛否両論」だったとそうです。「でも、賛否両論じゃないやつなんてしょうもないんですよ。賛否両論は褒め言葉なんです」と、反発があっても熱意を貫く重要性を語りました。

「群馬ならでは」の勝ちモデルを増やすには

続いてのテーマは「群馬をはじめ、ローカルに根付いたビジネスが多様化し成功していくためには、何が必要か」。

矢野氏は「ヤマダ電機さんやコジマさんといった、路面の小売ビジネスは東京より群馬の方が強い実績がある」と分析。小売りビジネスの「群馬らしい」勝ちモデルを作れるかがポイントではないかと提言しました。

また行政の起業家支援としては、「自走している起業家をどれだけ支援できるかが鍵。一緒に走っていって、実績をたくさん作ることで類似の事例が来たときに支援できると思う」と期待を語りました。

また福嶋氏は、起業家にとっての群馬県の可能性を「自然の資源が豊富で、災害に強いという利点がある」と話します。

「東日本大震災で太平洋側が壊滅状態になったときに、福島や山形発のビジネスが、デザインの力で被災地をフォローしていくありようを見て、群馬もそういうポジションに立てると強く感じた。もしかすると、次の日本の新産業というのは、群馬から生まれるかもしれない」(福嶋氏)

福嶋氏が事業をやる上では「循環と持続」をテーマに、「地域のエリア的な制約を逆手に取ることを戦略として意識している」と語りました。

「地域で投資を受けるには?」参加者からの疑問に本音で回答

最後に、Q&Aの時間が設けられ、参加者たちの疑問にパネリストたちが答えました。

「地域で投資を受けるためのティップスは?」という質問に対して、齋藤氏が「一言これを言えば行けます」と答え「何で(お金)出さないんですか?」というキラーワードを紹介。

「こんな面白い事業をやろうとしているのに、なぜ投資しないのか」。

明確なビジョンと自信があるからこそ、本気で聞ける質問です。このように問いかけると、相手も本気で考えてくれるそう。

実際に齋藤氏は、宮崎の地元の地銀2行に働きかけ、「2行同時に出してもらうことに意義がある」と説明し続けたという。結果的に、1行の社長が「これは面白い」と言ってもう1行を説得。見事2行から出資を受けた。

また、矢野氏の会社は、「群馬発」のビジネスであることを訴求したうえで、地場企業や地元のエンジェル投資家から出資を受けてきた。具体的なアドバイスとして、「数億未満であれば、地場だけで集まると思うが、それ以上集めようと思うと東京を狙う必要がある」と提言しました。

群馬県庁職員の参加者からは「登壇者のようなセンスのある若い人材の輩出のために、何ができるか」という質問が投げかけられました。

矢野氏は「群馬は恵まれていて、オープンハウスやJINS、ホットランドなど、多くの起業家を輩出していて、同郷の地元の中学を出た起業家がたくさんいる。『この人でもできるんだ』と思えるように事例を示すことが大事」だと答えます。

齋藤氏は、「若いかどうかは関係ないので、まずはそのバイアスを取ることも大事」とした上で、「行政の一番の武器は信頼。『スタートアップを応援するぞ』と言いまくることは重要」だと話しました。

山本氏は最後に、「こうした議論はこの60分のセッションだけに留まることなく、きたもっくさんのTAKIVIVAのような場で、焚火を囲みながら語りたい」と話し、起業家たちの交流の場を続けることに意気込みを見せました。

(文:岡田果子 写真提供:湯けむりフォーラム)