地域をつなげるキーパーソンは「門外漢」 地域企業が変わるための生存戦略とは

2024年12月14、15日に、群馬県庁が主催する「湯けむりフォーラム2024」が開催されました。このフォーラムは、各界のトップリーダー同士がオープンに熱い議論と交流を交わすことで、群馬から新たな価値を生み出すことを目指すものです。
トークセッション「地域企業の経営を変える。越境が変える、これからの企業成長論~Collaboration with 上毛新聞 and NewsPicks~」では、地域ならではの魅力を活用して変革に挑む3名の経営者が登壇。NewsPicksユニットリーダーの金井明日香氏が進行役を務め、地域企業が変わるべき理由と成長のあり方について白熱した議論が交わされました。
登壇者プロフィール
坂本 大典 氏(株式会社XLOCAL 代表取締役)
田淵 良敬 氏(株式会社Zebras and Company 共同創業者 / 代表取締役)
土田 祐士 氏(土田酒造株式会社 代表取締役)
金井 明日香(NewsPicks Brand Design Senior Editor / ユニットリーダー)
地域ビジネスの形態は、三者三様
今回の登壇者は、地域からの変革に挑む個性あふれる三人の経営者です。

過去にはNewsPicksの立ち上げ人でもあった坂本氏は、2023年より地方特化型の総合HR企業・XLOCALの代表として活動しています。「日本と世界をつなぐ」という信念を叶えるためにはローカルの価値を掘り起こすことが鍵だと考え、地方×複業×年収1000万円換算の求人だけを扱う「チイキズカン」、ホテルの建設準備、英会話スクールの経営など、幅広い事業に携わっています。

Zebras and Companyの田淵氏は、インパクト投資事業に携わる中で経済的な価値ある企業にだけ投資をする風潮に疑問を持ち、社名でもある「ゼブラ企業」という概念を世の中に広めようとしています。ゼブラ企業とは、複雑な社会課題の解決と経営を両立させ、長期的な視点で市場全体を拡大しようとする企業です。一人勝ちではなく、従業員や取引先など会社に関わるマルチステークホルダーとの相利共生を考える点が特徴です。

土田氏の経営する土田酒造は、人口3000人、年間平均気温は11度という群馬県川場村にあります。土田氏のモットーは、「日本酒の可能性を切り開いて、日本人が誇りになるような酒を生み出すこと」。乳酸菌や微生物の活動を導き出す江戸時代の技術「生酛(きもと)」にヒントを得て、酒蔵にすみ着く自然の微生物、酒米ではないお米、割れたりかけたりして市場に出回らない「くず米」を活用した酒造りに取り組んでいます。
時代に合わせて地域企業が変えるべきもの、守るべきもの
1つ目のトピックは、「地域企業はなぜ変わらなければいけないのか」。群馬県藤岡市出身の金井氏から「地場産業や魅力的な企業があり、特産物も豊富な地域は、本当に変わらなければいけないのでしょうか?」と根源的な問いを投げかけるところからスタートしました。
坂本氏は、「地域企業かは関係なく、日本の社会の変化に適応できない企業が変わるべき」と指摘。企業は人口減に伴い現状維持では立ちいかなくなり、グローバルに事業を展開する企業以外は必然的に変わる必要があると語ります。
土田氏は、自身が子育てする中で事業の将来に関しても自ずと考えるようになったと語り、サステナビリティの重要性について提言。事業を続けるならいずれ次世代に事業継承する必要があるが、そのためには次世代の人たちが「やってみたい」と魅力を感じ、選んでもらえるような事業内容でなければいけないと語気を強めました。
「(子どもたちに自分の事業を)継げとは思っていないけれど、彼らが『継いだら面白そうだな』と思わせる要素は作っておきたい。時代に合わせて変化をしていかなければ、生き残れない」(土田)

このトピックについて田淵氏は、重要な示唆をします。
「変えるべきものと、守るべきものを明確にすることが大事。土田酒造のように、企業が大事にしてきたフィロソフィーは守っていくべきもの。自社が何を守るべきかを問う必要がある」(田淵)
変えるものと守るものを地域企業はどのように明確にし、価値につなげるべきでしょうか。土田酒造では、「自分たちが楽しむことが、次につながる」と、半ば見切り発車で現在の事業スタイルを始めたそうです。
しかし無添加やくず米を活用した酒は環境に意識の高い方からは好まれても、一般のお客さまには良さが伝わりにくいとのこと。高品質な酒を提供するためには価格を上げる必要がありますが、商品価値の伝え方に悩んでいるそうです。
価格転嫁の悩みに対して田淵氏は、「お客さまが、自分たちの事業のどこに一番価値を感じてくれているかが大事」と回答。
ビジョンだけでは経営を持続できないため、ビジネスモデルや事業をどう絡めていくか、変化していく中でお客さまがどこに価値を求めているかを経営者側が見極めていくことも大事だと語りました。
坂本氏は具体案として「外需、できれば海外需要」を取り込むことを推奨します。海外は環境意識が高く市場拡大が見込めますが、一社ではリソース不足という問題も。解決策として地域企業で連携し、チームとして売り込むことをアドバイスしました。
実際に土田酒造は海外からのニーズも高く、積極的な営業なしでも現在約30カ国とつながりがあるとのこと。現在海外向けのブランドは1ラインしかないものの、今後の海外展開への意欲を語りました。
また、外国人向けの酒蔵見学ツアーは大反響で、日本人だと3000円が上限になってしまう参加費も、外国人観光客からは「何万円でもいいから参加したい」と依頼がくるほど。地域ビジネスを考えるうえでは、インバウンド需要の取り込みは欠かせないと言えそうです。

「1000億円企業1社」でなく「100億円企業10社」という選択肢
「世界の人たちは、ローカルの価値を意識している」と、坂本氏は指摘します。デジタルで世界がシームレスにつながった結果、人々はECを活用すれば世界中のものが購入できるようになりました。そうなると求められるのは、「あの国のもの」ではなく「現地にしかないもの」。本気で海外を目指すならあえて地場を固め、ローカルで高付加価値なブランドを構築することが大事だと語ります。
坂本氏の意見に関して、土田氏も同意します。
「うちの敷地にもヴェンティノーヴェというレストランがありますが、こんな片田舎なのに『ゴ・エ・ミヨ』(レストランガイドブック)に掲載されて予約が取れなくなっている(笑)。(地域に)僕だけが投資するのはリスキーだけど、みんなで分け合えるなら理想的」(土田)
田淵氏も土田氏に同調。そもそも市場自体が小さくなる中、一人で勝とうとする姿勢は健全ではないと指摘し、チームで協力する必要性を語ります。
「面白みとして考えたとき、地域に1000億円の企業が1社あるのも1つだけど、100億円の企業10社で色々な文化を育みながら作っていく地域って面白いじゃないですか。10社が集まれば、付加価値も付いてくる」(田淵)
「このままじゃダメだ」地域の危機感がチャンスを呼び込む
2つ目のトピックは、「地域企業ならではの成長のあり方」。坂本氏は、「『イノベーションは辺境から』という言葉通り、厳しい地域こそ面白くなってきている」と語ります。経済規模の小さな地域はライバル企業同士で争う余裕はなく、団結力が生まれます。
例として愛媛の今治市を例に挙げ、坂本氏のホテル建設提案が地元住民に大歓迎されたエピソードを語り、人口が流出している地域だからこそ好意的に受け止められたと語ります。
「今は安泰だけれど、長期的に先行きが不安な地域で変革を考える人はどうしたらいい?」という金井氏の質問には、「先陣を切るリーダーが必要」と坂本氏。
「身銭を切って投資できるだけの人が必要不可欠。群馬ならJINS・田中仁氏、長崎のジャパネットたかた・髙田明氏、茨城のグロービス・堀義人氏など。そういう人物を見てようやく周囲も心を動かされる」(坂本)
全国を視察する田淵氏は、「やりやすいサイズ感がある」と提言。変革を進めるには地域のコンセンサスも必要です。周囲の協力は不可欠ですが、関係する人数が多すぎれば交渉も複雑化します。「数千から数万人前半までが比較的やりやすい」と持論を展開しました。

キーパーソンは「門外漢」。外部人材が地域住民をつなぐ
日本酒は各地域にさまざまな銘柄があるものの、味に個性がありすぎるがゆえに「みんな違って、みんないい」となり、ブランドを確立しにくい現状があるそうです。
この話を受けて田淵氏は、日本酒の抱える業界課題は投資業界ともよく似ていると注目します。資本主義と独自性をどう両立させるかは、永遠の課題です。
「ビジネスの世界は標準化した方がやりやすく、投資分野では定量化が進むほどお金も集まりやすくなる。一方で、本物でも小規模なものは生き残りづらくなっていくので、結構深い問いだなと」(田淵氏)
難題に対して坂本氏は、掛け算をしてブランド力を高めることを提案。例として北海道・サツドラ(サッポロドラッグストア)の話を紹介しました。M&Aで業界再編を進め、大量仕入れで商品を安く販売するドラッグストアが多い中、同社はまちのコミュニティ作りや電気の売買事業など新ビジネスを展開し、独自のポジションを築いています。
坂本氏は、他の事業でもサツドラ(サッポロドラッグストア)と同じことができると発言。例えばヴェンティノーヴェがイタリア料理と日本酒のマリアージュを提供するように、自社事業に誰が関わればスケールするかを俯瞰して考えることが必要だと提案します。
「地方創生に必要なプレーヤーは、首長、スタートアップ、地場のプレーヤー。この三者が有機的につながっていないと上手くいかない。外から『こういう未来作った方がいいよね』と考えられるスタートアップのような存在が加わることで、完成する」(坂本)
坂本氏の発言を受けて、土田氏も、土田酒造とさまざまなプレイヤーとの協業の可能性について語ります。
「日本の常在菌発酵技術は世界一。僕自身が直接関わらなくても、菌を活用したい企業が集まるだけで面白くなっていく。微生物の発酵は各地域でしかできないものなので、自然とローカルのものが生み出される。GDPを奪い合うのではなく、共創していく感覚」(土田)
しかし、菌の発酵技術はいわば企業秘密。社外秘である技術を業界内でシェアし、市場を作っていくことはできるのでしょうか。
金井氏の素朴な問いに対して、土田氏は「土田酒造の場合は、親世代が隠していたデータを子世代が情報公開し合うことから始まった」と返します。きっかけは「群馬県の酒の地位を向上させたい」と先輩方が酒を飲みかわし、話し合ったことだそうです。
みんなで団結して市場を作ろうとする姿勢は、ゼブラ企業とも通じます。田淵氏は「その地域のためにと、個々がどのくらい思えるかが大きい。何かやろうとなれば手法論になるけれど、みんなで考えれば知恵は出てくる。そこまでの場づくりが大事」と語ります。
都心の人材と地域の人材を融合させるビジネスを行う坂本氏は、外部から人間が入ってくることによって地域の人々のマインドも変わると指摘します。
愛媛で毎月開催する経営者の学びのスクールでは、日本中の面白いゲストを呼び語り合う場を1年半続けたところ、参加者の気持ちが「もっと何かやれないか」と攻めの姿勢に転じたそうです。また、先代の確執など、これまで関係がなかった人同士の交流を促せるのも外部人材だと語ります。

地域にこそ未来がある。群馬は可能性を秘めたエリア
セッションの終盤、会場の参加者からも質問が寄せられました。「200万人の人口がいる群馬では、みんなで集まって酒飲もうぜというのは難しい。まずは何から始めればいい?」という質問に、田淵氏は二つの案を出しました。
1つは、地域を話し合いができる小単位に分けて考えること。もう1つは、新しい概念を作ること。自分たちの中で気付かなかったことを言語化すると、他人は「そういうことか」と理解ができる。そのうえで具体事例に触れられれば、さらに納得感が高まる。意識変容が起これば行動につながるので、まずは気付きを与えることだとアドバイスしました。
坂本氏は、地域のキーパーソンを見つけることを提案。既に面白いことを始めている人をリストアップし、その人の周辺から熱を広げていくべきと語りました。
また自身も地域企業支援を行う参加者からは「群馬は首都圏に近いため、『まだ大丈夫』と地域企業はゆでガエル状態*に陥りやすい。自分たちは支援する立場なので直接経営に携わることはできないが、将来を真剣に見据えてもらうために効果的な手法や呼びかけはあるか?」と切実な問いが寄せられました。
*ゆでガエル … 低迷しているにも関わらず抜本的な改革が成されない状態

土田氏は、「質問形式で、まずは永続的にやりたいのか確認することから始めては?」と回答。5年後、10年後という未来から尋ねて、不安が見られるのならまずはそこから始めるのが一番いいと語ります。
田淵氏は、他の地域事例を見せて比較することをアドバイス。比較対象が生まれると自分たちの立ち位置に気付くと提言します。坂本氏も、「危機感がない地域で変化をおこすには、憧れが有効。こっちの方が格好いいよねと思わせるしかない」と同意しました。
最後に、登壇者3名から群馬県の地域企業に向けてメッセージが送られました。
「実は私、最近ちょくちょく群馬県に足を運んでいて、群馬には可能性を感じています。群馬にはJINSの田中氏を始め優秀なプレーヤーが揃っているし、群馬銀行というしっかりした金融機関など地盤もある。地域の方たちが本当にやる気になれば、可能性を秘めた地域だと思っています」(田淵)
「みんな『うちの地域なんて』と言いますが、まずはその感覚を失くすことが第一。これからは間違いなく地域の時代がくるので、みんなで楽しく未来を作っていければ」(坂本)
「人口が減少する中では、次の世代の視点を取り入れることが重要。若い人が良いと思えるものを企業が考えれば、群馬に人が残って社会貢献にもなる。変化は大変だけれど、転がりだすと快感になる。ぜひ皆さんと手を組んで面白いことをやって、若い人たちが集まる地域にしたいと思う」(土田)
(文:秋元沙織)