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ビームス ジャパンが日本の名所・景勝地への出店戦略の先に目指すもの

2024.09.09(月) 15:00
ビームス ジャパンが日本の名所・景勝地への出店戦略の先に目指すもの

日本の魅力を国内外に発信する事業として、全国各地のつくり手や企業、自治体などとのコラボレーションにより商品や企画を展開してきたBEAMS JAPAN(ビームス ジャパン)。

新宿、渋谷、京都の店舗に加えて、ビームス ジャパンは、現在、BEAMS JAPAN GATE STORE(ビームス ジャパンゲートストア)として、ローカルパートナーとの共創により地域の名所・景勝地への出店を進めている。各地でポップアップショップを開催しているほか、出雲、神戸、宮島、日光では常設店を展開。2024年7月20日には長野県の善光寺の境内にも「ビームス ジャパン 善光寺」をオープンした。

ビームス ジャパンは地域にどのような価値を見出し、なぜ出店を進めるのか。関係者への取材からビームス ジャパンの取り組みの裏側を紐解いていく。

ゲートストアのきっかけになった、日本三景・宮島でのポップアップ

ビームス ジャパンが地域への出店をはじめるきっかけとなったのは、2021年7月スタートの日本三景に数えられる安芸・宮島での半年間限定のポップアップショップだ。

ポップアップショップの会場になったのは宮島の創業約160年の老舗旅館、岩惣。G7広島サミットのワーキングディナーの会場になるなど、宮島を代表する旅館のひとつだ。

ビームスの広島出身のスタッフと岩惣の縁がきっかけで持ち上がった、日本を代表する景勝地でのポップアップショップの話。もともと「地域の魅力を発信するために拠点が都市部だけで良いのか考えていた」というビームス ジャパン事業責任者(当時)の鈴木春幸氏はその話を聞き、リサーチのために現地へ訪れた。

旅館の立地、近隣を歩いている人々の様子、そして島で販売されているアイテムの価格、素材などを綿密にチェックした鈴木氏は可能性を感じると同時に、大きな責任も感じた。

ビームス クリエイティブ本部 事業開発2部 部長 / BEAMS JAPAN GATE STORE プロジェクトマネージャー 鈴木春幸氏

「広島にはさまざまな特産品のほか、独自の産業もあります。ビームス ジャパンの企画力を組み合わせれば、素晴らしいものができるという算段はありました。

ただ、やるからには生半可ではいけないということも感じました。宮島の情緒ある町並みは厳格な景観条例に基づいて地元の方たちが守ってきたものです。また島全体が信仰の対象となっており、畑は耕せないとの話も聞きました。地元の方々の土地への愛と歴史を強く感じ、私たちもそこに最大限の敬意を払って企画しなくてはならない、と感じました」(鈴木氏)

始動した岩惣でのポップアップ出店準備では、特産品や地元産業との商品開発にあたり、徹底的にその背景にある文化や歴史を調べ上げた。また店舗ではきちんと宮島の文化について説明できるスタッフが接客する必要があると考え、広島出身のスタッフでシフトを固めた。

結果的に、名所でのポップアップショップ出店という初めての試みは、売上の観点でも成功と言えるものだった。ただ、それ以上に鈴木氏が可能性を感じたのは店舗で目の当たりにした接客の様子だったという。

岩惣の桜別館1階の「ビームス ジャパン 宮島」の外観。現在は常設店となっている。

「地元のお客様も観光で訪れたお客様も、スタッフととても楽しそうに宮島について話していたんです。おそらく商業施設に訪れるお客様はお買い物をしに来ているのに対して、宮島のポップアップショップにいらっしゃったお客様は旅行に来ている感覚。最初から心が開いている状態だからお客様の方からスタッフに話しかけていただくシーンが多かったのだと思います。

スタッフとお客様の会話のなかで広島及び宮島の魅力を伝える工程が自然に行われていました。そこで、ビームス ジャパンが掲げる『地域の魅力を発信していく』という目標に、名所・景勝地に出店することで近づけるのではという感触を得たのです」(鈴木氏)

ビームス ジャパンでは、宮島のポップアップと同日に伊勢のおかげ横丁でもポップアップショップをオープンしていた。そこでも宮島と同じく心を開いたお客様とスタッフの間でその土地に関するさまざまなコミュニケーションが生まれていたという。

その後、ビームス ジャパンは、善光寺門前、西本願寺など、数度にわたるポップアップ出店でのトライアルを実施。名所・景勝地への出店構想を「BEAMS JAPAN GATE STORE(ビームス ジャパン ゲートストア)」として正式にプロジェクト化することを決めた。

出店の鍵を握る、地域のパートナーとなる「人」

ビームス ジャパン ゲートストアは、それぞれの地域の事業者とFC(フランチャイズ)契約を結び、共創していくモデルを採用。ポップアップショップから常設店になった宮島の場合は、岩惣がFCオーナーとなっている。

通常のFCがMDなどをなるべく共通化・パッケージ化していくものであるのに対して、ビームス ジャパン ゲートストアではFCオーナーと一緒になって店舗及び商品を作り上げていく。また店舗のスタッフは全員が現地採用。地域との共創で新しい日本の入口となる“ゲートストア”をつくるための仕組みだ。

「そもそも自分たちだけで企画するなんて、できないと思っています。地元で生まれ育ち、その地域を盛り上げたいと考えている方にパートナーになっていただく。そういう方は、土地の風土や歴史、食から工芸まで知っていますし、地元の事業者や職人とも、つながることができます。それはやっぱりその地域を本気で盛り上げたいと思っている方だからこそなんです。

店舗スタッフにしても、やはり何のゆかりもないスタッフがその地域の良さを語るのは難しい。その地域のことを知っていて、その魅力の伝え方を知っている現地スタッフでなくては務まりません」(鈴木氏)

ビームス ジャパンにはこれまでの活動を通じた、全国津々浦々の地域とのつながりが存在する。ビームス ジャパン ゲートストアの出店候補地の選定にあたっては、何よりもFCオーナー候補となる「人」を重視しているという。まずは「人」からはじまり、そこから何度もその地域に足を運び、地域のことを学び、自分たちを地域に知ってもらい、出店へ至る。

ビームス ジャパンは、2022年12月には「ビームス ジャパン 出雲」をオープン。出雲特産の「めのう(出雲石)」を取り扱う1877年創業の株式会社秀玉堂が運営元となり、出雲大社駅に隣接する建物に出店した。

その後も、株式会社栃木日光アイスバックス(プロアイスホッケーチーム「日光アイスバックス」運営企業)が運営元となった「ビームス ジャパン 日光」。兵庫・神戸の地場産品の魅力を発信する熾リ株式会社が運営元となり、神戸ポートタワーに出店した「ビームス ジャパン 神戸」。そしてポップアップショップを展開していた宮島の常設店「ビームス ジャパン 宮島」と、全国の名所・景勝地へ店舗を展開した。

「ビームス ジャパン 善光寺」出店の内幕

直近では、2024年7月20日に「ビームス ジャパン 善光寺」を長野県の善光寺の境内にオープン。運営元は創建から約1400年、全国から参拝客が訪れ「遠くとも一度は参れ」と語り継がれる、善光寺だ。

ビームス ジャパン 善光寺の外観

ビームス ジャパンは、善光寺でのオープン以前、2022年には善光寺門前の「かどの大丸」というそば店で期間限定のポップアップショップを開催している。そこでできた善光寺との縁で、2023年には善光寺境内でポップアップショップを開催。今年7月の常設店オープンにつながっていった。

善光寺 事務局 授与品部長の小山慈英氏はビームス ジャパンとの取り組みの経緯を次のように振り返る。

「2022年から、ビームス様から善光寺との双方にメリットのある提携を行いたいとコラボレーションの申し出をいただいており、2023年初頭に改めて鈴木様よりアプローチをいただきました。

今回の申し出を受けた理由としては、何よりもまずビームス ジャパン ゲートストアの理念に善光寺が共感した点が挙げられます。

地域のゲートとして、国の内外から訪れる方に向けて、当地に住む人が、その地の魅力を幅広く発信していくこと。そのことを通じて当地を訪れてくださった方々の体験価値を高めること。この理念は善光寺の目指す参拝客との向き合い方と一致するものでした」(小山氏)

ビームス ジャパン善光寺の内観

ビームス ジャパン 善光寺では、善光寺を象徴する“鳩字”を使用し、自然豊かな長野県をイメージした深緑のオリジナルアイテムを展開。また、国指定伝統的工芸品の内山紙、日本相撲協会の土俵づくりを唯一請け負う飯島町の事業者のわら細工、水引の国内生産量日本一の「飯田水引」、経済産業大臣指定伝統工芸品の木曽漆器など、地域の素材で作られた銘品や特産品をベースに商品を展開した。

ビームス ジャパン 善光寺の店舗限定商品(例)

善光寺の御朱印と御詠歌をおさめられるオリジナルデザインの御朱印用台紙も販売され、小山氏は「御朱印を受けるコアな参拝客のみに向いていたサービスを、新たな客層も取り込む形で再提案してくださった」と評価した。

鈴木氏は「ビームス ジャパン 善光寺」の常設店オープンまでの過程を「3年越しのラブレター」と表現する。

「善光寺門前でのポップアップから数えれば、常設店のオープンまでに2回のポップアップを経て、3年の月日が経っています。

私たちにとっては『3年越しのラブレター』が実ったようなものです。オープン時は私も店舗で接客していましたが、全国からお客様がいらっしゃっていて愛されているお寺なのだということを改めて感じました。

また、長野の事業者とのコラボレーション商品は特に好評で、長野出身のスタッフが自ら地域の魅力を話しながら接客することで、お客様も喜んで購入されていました」(鈴木氏)

今後の展開について、小山氏は「地域の魅力を発信し続ける」ことの重要性を語った。

「売上だけを追求するのであれば、いろいろと方法はあると思います。しかし、それが長野の魅力、善光寺の魅力を国内外に発信することにつながるとは限りません。ビームス様と共に、時間と手間をかけて共創を積み重ねることで、良いサービス、商品を生み出し、地域の魅力を発信する拠点としていきたいと考えております」(小山氏)

ビームス ジャパンの“プレゼン力”が地域の価値を高める

日本全国の地域には文化や歴史に紐づいた、さまざまなオンリーワンの価値が存在する。しかし、例えば特産品にしろ、それが地場のお土産屋に無造作に陳列されているというケースが少なくない。必ずしもそのすべてが悪いとは言い切れないが、少なくとも地域の文化や歴史の価値を高め、経済を循環させていくことを考えれば見せ方に一考の余地があるだろう。

ビームス ジャパンゲートストアに手を挙げる地域の事業者は、自分たちの地域の魅力の伝え方に課題を感じているケースが多いという。

「商品を手にとってもらえないと魅力が伝わらない。その伝えるきっかけが欲しいという声は、地域の方から聞くことが多いように感じます。また、十分に魅力のある産品や技術であるにもかかわらず自分たちの価値を低く見積もってしまっている方もいらっしゃいます。

オープンの際にお褒めをいただく言葉として『自分たちの商品がこんな風に見えるんですね』と言っていただくことも多いですね」(鈴木氏)

ゲートストアに限らず、ビームス ジャパンの地域の価値を魅力的にプレゼンテーションしていく企画力・発信力は、地域活性化のさまざまな場面で活かすことができるだろう。すでにビームス ジャパンには行政・自治体から商品・サービス開発やふるさと納税返礼品の企画など、さまざまな依頼が舞い込んでいる。

鈴木氏は今後の展開として「ビームス ジャパンと地域の事業者がつながるだけでなく、地域の魅力を高めるという問いに向かって、地域の事業者同士がつながるような動きもしていきたい」と語る。

ビームス ジャパンのゲートストアの店舗を通じて日本の地域への入口となるだけでなく、さまざまな地域のプレイヤー同士がつながる入口にもなる。そんな日がやってくるのかもしれない。

(編集・執筆:野垣映二 撮影(人物):小池大介)