地域を“株主”が支える時代へ。三豊市発・ソーシャルプロジェクトファンドの挑戦
5年で観光客が50万人訪れるようになるなど、地域創生の成功例として語られることの多い、香川県三豊市。観光需要の受け皿として、2021年に11社の地元事業者が共同出資してできた一棟貸し宿泊施設が「URASHIMA VILLAGE」だ。
URASHIMA VILLAGEは2024年にソーシャルプロジェクトファンドによる資金調達を発表。施設の運営はそのまま地域事業者が行い、ファンドには地域の金融機関、大手企業、地域事業者、個人投資家など多種多様なステークホルダーが参画する。
日本初となったソーシャルプロジェクトファンドは、地域におけるファイナンスの新しい選択肢となるのか。今回のソーシャルプロジェクトファンドの仕掛け人のエンジョイワークス代表の福田和則氏に、ソーシャルプロジェクトファンドの仕組みと可能性について伺った。
福田 和則(ふくだ かずのり)
株式会社エンジョイワークス 代表取締役
1974年兵庫県生まれ。外資系金融機関勤務を経て、2007年にエンジョイワークスを設立。行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイル実現をテーマに不動産及び建築分野において事業展開を行う。 2017年、空き家・遊休不動産の再生・利活用プラットフォームであるユーザー参加型クラウドファンディング「ハロー! RENOVATION」をリリースし、まち・ひと・お金の新たな関係性構築に取り組んでいる。
ファンドで地域の遊休不動産を再生
──エンジョイワークスがプロジェクトに参画することになったきっかけは何ですか。
URASHIMA VILLAGEは建設会社、建材商社、タクシー会社、スーパーなど、地元の旦那衆と言われるような事業者たちが共同出資で瀬戸内ビレッジという会社を設立し、立ち上げた宿泊施設です。
瀬戸内ビレッジでは古田秘馬さんという地域プロデューサーが代表を務めているのですが、彼は以前から讃岐うどんの文化体験施設「UDON HOUSE」など三豊市の地域創生プロジェクトに関わっていました。今回、彼がファンドを構想しているタイミングで我々に相談が来たのがプロジェクトに参画することになったきっかけです。
弊社は、これまで宮古島の空き家再活用や長野県の山小屋再生など複数のプロジェクトでファンドを立ち上げ、資金調達を達成してきました。地域には未活用の空き家や遊休不動産がたくさんありますが、再活用には多額の費用が発生するため、多くの地域が資金調達手段に悩んでいます。
──ファンドを活用した資金調達とは、具体的にどういったものでしょうか。
背景には、2017年に創設された「小規模不動産特定共同事業」があります。従来の不動産特定共同事業の参入要件が法改正で緩和され、空き家等の再生や利活用を行う際にクラウドファンディングで資金を集めて、収益を分配することが可能になったのです。弊社は日本で初めてこの事業者に登録し、共感投資をコンセプトとした不動産クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」という事業を運営しています。みんなで出資して儲かったら利益を分配するというファンドの仕組みは、地域創生と親和性がある。投資を募るというよりも、目的に賛同する仲間集めを行う感覚に近いです。
エンジョイワークスは、みんなで一緒にまちづくりを行いたいというところから起業しています。不動産やファンドはまちづくりを行うための手段で、事業の目的は地域の事業者を応援することです。
ローカルファンドが地域事業者を次の挑戦へ誘う
──今回のプロジェクトでは、エンジョイワークスが管理するファンドがURASHIMA VILLAGEを購入し、瀬戸内ビレッジにリースバック(不動産を売却と同時に賃貸)する仕組みを採用しています。この仕組みを採用した理由を教えてください。
今回の三豊でのプロジェクトは新しく施設を建てるための資金を集めるのではなく、URASHIMA VILLAGEという稼働物件を取得するファンドの立ち上げとなりました。
一番の目的は、瀬戸内ビレッジのバランスシートからURASHIMA VILLAGEという不動産を切り離す「オフバランス」を行うことです。URASHIMA VILLAGEという不動産を所有しバランスシートが膨らむことは、企業評価に少なからぬ影響を与えますが、一度ファンドが引き取ることで、彼らが地域で次のチャレンジをするための“枠”を空けることにつながるのでは、と考えました。
不動産を売却できればその資金を元に地域事業者は新しい事業やプロジェクトにどんどん挑戦することができますし、瀬戸内ビレッジという会社単位でもバランスシートが適正化されるため、銀行からの借入などがしやすくなります。結果として三豊市がさらに活性化されるのです。
──ファンドのスキームについて、詳しく教えてください。
まずエンジョイワークスが合同会社三豊地域活性化ファンドというSPC*を設立し、URASHIMA VILLAGEを瀬戸内ビレッジから取得するための出資を募ります。SPCを設立するのは、「倒産隔離」といいますが、弊社の債務不履行のリスクを回避するためです。エンジョイワークスが投資を募り、集めた資金をSPCが物件取得に使います。
瀬戸内ビレッジとSPCの間ではURASHIMA VILLAGEの賃貸借契約を結ぶため、事業の運営主体はこれまで通り瀬戸内ビレッジになります。そのため地域事業者たちは自分たちの事業を活かしたサービスに集中できます。そして、事業で得た利益はSPCに出資いただいた投資家に分配する仕組みです。
*SPC…Special Purpose Companyの略。特定の目的のためだけに設立された、特別目的会社
──今回のファンドの規模はどれくらいで、どのような投資家がいるのでしょうか。
総額2億3000万円に対して、1億2000万円は地域の金融機関からの融資とハイリスクハイリターンの劣後出資が占めます。地方銀行や信金・信組からも、すでに運営実績がある点と、三豊市の観光事業が盛り上がれば巡り巡って自社にもメリットが生まれるという観点もあって、地域の金融機関である中国銀行からの融資を受けることになっています。劣後出資の投資家は、リスクも理解したうえで三豊市を応援したいと考える地域事業者が主体です。
残りの1億1000万円分が、ローリスクローリターンの優先出資で、広く一般の方たちに出資を募る枠にあたります。投資家は、地域住民のほか、全国の三豊の地域創生に共感し支援してくださる方々、URASHIMA VILLAGEのファンの方々といった個人が主な対象で、大手企業からの出資も予定されています。
──一般の出資者の方々はどのような動機で出資することを想定されていますか?
今回のファンドは想定利回りが2%と少ないにも関わらず、運用期間が10年と長いです。この投資は転売できる市場もないため、投機を目的とする投資家には向きません。
既に参画してくださっている個人投資家も、三豊市や観光資源に価値を感じる方、古田さんのビジネスモデルに共感する方、プロジェクト自体に意義を感じる視座の高い方など、まさに地域や人を応援したいと考えている人ばかりです。
地域事業者を投資で支援する「株主人口」を増やす
──ファンドは10年後に終了することが決まっていますが、その後はどういった形を考えているのでしょうか。目指す将来像はありますか。
まだ先のことにはなりますが、恐らくファンドが終了するタイミングで新たな後継ファンドを作り、URASHIMA VILLAGEを売却することになるのではと考えています。10年という運用期間を設けたのは、投資家や企業に対してのゴールを示すためです。現在の株主とは引き続き良好な関係性を築き、10年後はURASHIMA VILLAGEの宿泊客や三豊市を訪れた観光客など、今よりもより多くの株主を増やすことが今の目標です。
──一方で、10年後は社会環境の変化や不動産価値の減少など、リスクが生じることも推察されます。
もちろん建物の経年劣化やホテルの稼働状況などの収益性は、投資家にとって重要な指標になります。私たちとしても毎年URASHIMA VILLAGEの不動産価値を測定して投資家向けレポートにまとめるなど、さらなる資産価値の向上を目指してアセットマネジメントを行っていきます。
一方で、10年という長期間ではポジティブな要素も生まれます。三豊市では、現在100近くの新規プロジェクトが生まれています。地域事業者が新しいチャレンジをすれば、新しいサービスに興味を持ち、体験したい人が増えていく。ファンが増える要素は多いと考えています。
──地域創生を行う過程で、資金調達の方法に悩む事業者は多いです。福田さんから見て、他の地域でもソーシャルプロジェクトファンドは成功できると思いますか。
ソーシャルプロジェクトファンドは、資金がないけれど真面目に地域創生に取り組む地域事業者の支援手段になると考えています。汗を流して頑張る地域事業者の信用が出資へとつながっていくので、きちんと地域と向き合っているほど評価されやすい仕組みです。自治体からの相談も多く、ニーズは高いと感じています。
ただ、三豊市は初めての事例だから注目されている面は大きいです。縁もゆかりもない地域や事業に他人は共感しづらいので、仕組みを理解してもらえる投資家をいかに増やすか、地域事業者が投資してもらうだけのストーリーを伝えられるかが、ソーシャルプロジェクトファンドの今後の課題です。
我々は地域に関わりを持つ「関係人口」から一歩進んで、投資という形で地域を応援する「株主人口」を増やしたいと考えています。個人投資家は運用期間中にプロジェクトの進捗状況を気にかけ、場合によってはその土地に足を運んで地域事業者と交流するなど、地域と深く関わるようになります。
観光客は一時的にその地を訪れるだけですが、ソーシャルプロジェクトファンドの投資家は長期にわたって地域を見守りながらの支援になるので、深い関係性を築けるのです。結果として共助の仕組みが生まれ、持続的な地域経済の発展が可能になる可能性を秘めていると思います。
(文:秋元沙織 写真:幡手龍二)