三井不動産

地域の新興企業でも数億円調達?キーパーソンと進める21世紀型デベロッパーのまちづくり

2023.11.28(火) 17:00
地域の新興企業でも数億円調達?キーパーソンと進める21世紀型デベロッパーのまちづくり

2023年1月時点の日本の人口は約1億2242万人。昨年からおよそ80万人の減少で、減少数、減少率ともに調査開始以来最大となった。そして、初めて47都道府県すべてで人口が減るという結果が出た。

歯止めがかからない少子高齢化、人口減少の社会において、過疎の進む地方は衰退していくしかないのだろうか。いや、今だからこそ都市よりも地方がおもしろいし、持続可能な「ハッピーシナリオ」を紡いでいけるはずだ。そう考えて、多拠点でのまちづくりに挑んでいるのが株式会社NEWLOCALの石田遼氏である。

東京生まれ、東京育ちで海外も含め100万人規模の都市にしか住んだことがない、という石田氏。そんな彼が東京大学からマッキンゼー、スタートアップ起業という経歴を経て見つけた、新しい地域デベロッパーのあり方とは。

石田遼

株式会社NEWLOCAL 代表取締役
1986年生まれ。東京都新宿区出身。5歳までアメリカで育ち、日本に帰国。東京大学大学院で建築・都市設計を専攻。大学院時代に1年間フランス・パリに留学。卒業後、マッキンゼーアンドカンパニーにて国内外の企業・政府の戦略策定・実行を支援、主に都市開発、公共政策などを担当。2017年に株式会社MYCITYを設立。都市・不動産向けのIoTプラットフォームを提供。2019年株式会point0取締役就任。企業共創のコワーキング施設を企画・運営。2021年、APイニシアティブ プログラムフェローとして全国のスマートシティーをリサーチ。2022年、株式会社NEWLOCAL創業。 

人口減少時代における各地の「ハッピーシナリオ」を見つける

——まずはNEWLOCAL創業までのお話を伺いたいです。大学では建築を学ばれていたんですよね?

高校生の頃から街や建築に興味があり、東京大学の隈研吾研究室に入りました。大学で学ぶうちに、街や建物をつくる前の開発計画や資金調達などにも興味がわいて、マッキンゼー・アンド・カンパニーに就職したんです。

マッキンゼーには5年ほどいて、海外の街づくりや災害で被害を受けた街の復興などを手掛けました。とてもおもしろかったのですが、頭の片隅にコンサルティングではなく、自分で事業やまちづくりをやりたいという気持ちを常に持っていました。

そこで2017年にMYCITYという会社をつくったんです。この会社ではセンサーやアプリから得られるデータで、オフィスビルの生産性や快適性を向上させる事業をやっていました。でもやってみて分かったのですがデータやテクノロジーで改善できる領域には限界があるんですよね。データを活用してオフィスビルの稼働率が数%上がったとして、それが社会を良くすることにどれくらい貢献しているのだろう。そんなふうに考えるようになりました。

2020年からは新型コロナの感染拡大が始まり、仕事でもプライベートでも毎月のように海外へ行っていた生活が一変。そこで毎週末、地方でおもしろいことをやっている人にアポイントをとって会いに行くようになりました。その人たちがあまりにも魅力的で、一緒に仕事がしたい、自分も地方でまちづくりをやりたい、と思うようになっていったんです。そして、テクノロジー×都市だった前の会社の代表を退任して、リアル×地方の会社「NEWLOCAL」を新しく設立しました。

——NEWLOCALではどのようなことをやっているのでしょうか。

比較的人口が少ないエリアで、その地域のパートナーと組み、不動産を中心としたまちづくりをしています。僕らのミッションは「地域からハッピーシナリオを共に」です。人口減少時代において、サステナブルな地域のあり方はまだ明確に示されていません。それを、実例を通して示していきたいと考えています。こういったことをやっていけば、10年後、100年後もこの地域の人たちは明るく幸せに生きていける。そうした地域計画を「ハッピーシナリオ」と呼び、模索しているんです。これは、人口減少という課題の先進国である日本だからこそ、世界をリードする可能性がある事業だと考えています。

具体的には、飲食店や宿などその地域に必要な建物を開発・運営する。現在は、長野県の野沢温泉村、西軽井沢とも呼ばれる御代田町、秋田県の男鹿市の3地域で事業を展開しています。今後5年間で、10地域への拡大を目指しているところです。

——それらの地域はどのようにして選んでいるのでしょうか。

基本的にはキーパーソンがいるかどうかです。僕らは0→1の立ち上げはしないんです。もうすでにおもしろいことをやっているプレイヤーがいて、その人が1をつくっているケースが多い。1がまだ10や100にはなっていないけれど、磨けば光りそうな地域を選んでいます。

そのキーパーソンに会いに行って、話が盛り上がり、地域に対して「こうしたらいいんじゃないか」という話がどんどん出てくる。そのうちに、「そのアイデアおもしろいね、一緒にやろうよ」みたいなところまで話が進むんですよ。そうなれば、その地域がまるごと好きになって、まちづくりがしたくなる。そういう流れで活動することになった地域が、現在事業を進めている3地域です。

あとは、僕らが入る意味がある場所かどうか。もうさまざまな人が振興施策を進めている地域は基本的に選びません。そういうところに僕らがあとから行っても大きなインパクトは出せませんから。こう考えると、相当贅沢な選び方かもしれません。

共創・ファイナンス・横連携でスピード感のあるまちづくりを

——まちづくりをしている企業は他にもありますが、NEWLOCALの特徴はどのようなところにあるのでしょうか。

従来のまちづくりは、「じっくり時間をかけ、儲けないように、一つの場所で」やるものだったと思うんです。それをNEWLOCALでは、「スピード感を持って、お金が回る仕組みをつくり、多拠点で」展開しています。そのために、「共創」「ファイナンス」「横連携」という3つのアプローチをとっているんです。

——一つずつお伺いしていきます。まず「共創」とはどのようなアプローチなのでしょうか。

ある程度まちづくりの企画や方向性が決まってきたら、地域のキーパーソンと会社を立ち上げて、一緒に経営していくようにしています。野沢温泉では観光協会長であり元プロスキーヤーの河野健児さんらと「株式会社野沢温泉企画」を、男鹿市ではクラフト酒という新しい日本の酒をつくっている稲とアガベ株式会社と合弁で「株式会社男鹿まち企画」を設立しました。

野沢温泉企画の経営メンバー

——それぞれの地域で会社をつくることのメリットは?

NEWLOCALは東京を拠点にしていますが、東京の会社が乗り込んできたという入り方はしたくないんですよね。NEWLOCALは「新しい地元民」という意味を込めてつけた社名です。新しい地元民になるために、その地域を拠点とする会社があるのはけっこう大事なポイントになるんです。例えば野沢温泉村の役場に相談に行く時も、「NEWLOCALの石田です」と名乗るよりも、「野沢温泉企画の石田です」と名乗る方が地元の人が来た感じがしますよね。

——たしかに印象が違いますね。

地域のパートナーと取引先をまわる時も、僕とパートナーで名刺の社名が違うと相手は少し違和感を持つ。対等な立場の人ではないのかな、と思われてしまうんです。「会社をつくって共同で社長をしている」という関係性の方が、信頼感があります。

細かいことですが、地元の金融機関からお金を借りる時や自治体の助成金に申請する時なども、その地域の会社があったほうが有利なんです。

こういった色々なメリットもありますが、ベースとしてはパートナーと共に長期的に地域に関わり、地域の目線から事業を行っていく、という覚悟があるからこそ会社をつくっています。

——今少しお話が出ましたが、アプローチの2つ目「ファイナンス」とは?

地域のパートナーとつくった会社で東京のスタートアップのような資金調達をやろうとしているんです。地域の企業の資金調達と言えば、地域金融機関から借り入れをすることくらい。その借り入れも実績主義でキャッシュフローがまわってきてから少しずつ金額を大きくしていきます。

でも、NEWLOCALがつくる地域の会社では、エクイティ・デットを含め、助成金や私募債などさまざまな手段でファイナンスをして、数億円のお金を用意しようとしています。今後はクラウドファンディングやWeb3の活用も視野に入れています。

現在、各地域合わせて、5億くらいは調達できそうなところまできました。将来的には、僕らが入っている地域でローカルベンチャーを始めたいという人に対して上場ではない出口をつくったり、地方に興味がある東京のデベロッパーや商社の資本を地域に橋渡しをしたり、といったことも考えています。

——では、3つ目の「横連携」はどのようなアプローチなのでしょうか。

これはNEWLOCALが多拠点で事業を展開することと関係しています。まずは、一つの地域で得た知見や人材を他の地域にも活かす。例えばある地域でハイエンドな宿をつくったとして、そういう宿は同じ地域にいくつも要りませんが、他の地域でそれをつくった知見が活かせる、といったことがあります。あとはウェブサイトとSNSの運営などのリソースは、各地域で共通化できる部分があるだろうなと。また、複数地域で事業展開をすることで特定の地域だけに関わるのとは違う人材が関わっていくことができます。

NEWLOCALのイベントを開催して、各地域で活躍している人たちの交流が生まれたり、行き来が発生したり、といった効果もあります。

もう一つはお金ですね。NEWLOCALでファンドをつくって集めたお金を、いろいろな地域に配分することも考えています。

ゆくゆくは、野沢温泉に行った人がすごく楽しんでくれて、同じ会社が秋田県の男鹿も手がけているなら行ってみようかな、と思うなど集客面でのシナジーもあるかもしれません。

「NOZAWA」が世界的なスキーリゾートとして知られるように

——NEWLOCALでやっているまちづくりの具体的な施策についてうかがいたいです。

では野沢温泉について、課題とそれに対する解決策として何をしたのかということをお話しします。野沢温泉の課題は2つ。一つは、スキーやスノーボードというレジャーを楽しみに来る人が多く、冬はオーバーツーリズムになっている。逆に、夏はレストランや宿がすべて閉まって、冬眠ならぬ「夏眠」みたいになってしまっている。夏と冬の観光客数の差が大きすぎることです。

もう一つは、民宿の老朽化と高齢化。野沢温泉村には自分の家を民宿としているところが数百軒あるのですが、建物が古くなり、住民も高齢化して、どんどん閉業している。こうなると、観光客が来ても泊まれないし、空き家でもないから移住して来た人が住めないんです。

——そこで何をされたんですか。

まずは、野沢温泉をどんなエリアにしたいかを考えました。大きなビジョンとしては、野沢温泉を世界から憧れられる村にするということ。スキーリゾート地の宿って、部屋名をスキーリゾート地の名前にしていたりするんですよ。だから野沢温泉がさらに有名になって、ヨーロッパのリゾートで「NOZAWA」という部屋ができたらいいね、という話をしました。

あと当面の目標は、冬以外のグリーンシーズンにウィンターシーズンと同じくらいの人を呼ぶこと。今は通年で80万人くらいの観光客が冬に来ているので、春〜秋にかけて同じ80万人くらいの観光客を呼べるようにする。そうすれば、今冬にオーバーツーリズムになっているところも、もう少し制限できるようになるだろうと。

そのために、グリーンシーズンにも来たくなるような魅力をつくらなければいけない。そうしてつくったのが、「MusicBar GURUGURU」です。ここではアンティークスピーカーでレコードを聴きながら、地元産のクラフトジンなどさまざまなお酒を楽しむことができます。野沢温泉には「野沢温泉蒸留所」という地元の素材を使ってジンやウイスキーを造っている蒸留所があり、国際的な酒類品評会やデザインのアワードで賞を受賞しているんです。

MusicBar GURUGURU

——蒸留所はNEWLOCALが関わっているのでしょうか?

連携はしていますが、会社としては別です。この蒸留所もそうですが、野沢温泉はそもそもおもしろいプレイヤーがたくさんいる地域だったんですよ。でも、個人事業の範囲でそれぞれやっていて、大きな地域課題は解ききれない、「惜しい」状態に私には見えました。

——そこにNEWLOCALが入って、全体的なまちづくりをし始めた。

そうです。こうしたバーのような新しい魅力となるような施設は、閉業した民宿をはじめとした遊休施設を活用してつくっています。持ち主の方に10年、20年という単位でお借りして賃料をお支払いし、僕らが事業計画を立てて、お金をかけてリノベーションして運営する。持ち主の方には、そのまま一部に住んでいただいても大丈夫ですし、もう少し住みやすいコンパクトな家に引っ越していただいてもいい。宿やレストランだけではなく、雇用した人が住む寮や移住希望者が住む家もこうした遊休施設を活用して整備しようとしています。

施設の開発・運営を10軒、20軒とやっていって、トータルで売上10億、雇用100人くらいの規模にしていく。野沢温泉村の人口は約3400人なので、そのうちの100人はけっこうな割合になります。そのうち半分が移住者となったら、村全体が活性化するイメージがわいてきますよね。

いまはNEWLOCALの得意分野である観光と不動産開発の領域をメインにやっていて、10億規模の事業までは持っていけると考えています。ゆくゆくは交通、教育、医療などの分野にも入っていくかもしれません。長く続くハッピーな地域にするためには必要な部分ですから。

人が地価を左右する。21世紀型の不動産開発とは

——こうした施策を、10地域で展開していく。

それがファーストフェーズとして設定した最初の5年間の目標です。地域を選んで正しいアプローチをとれば、10億円規模の売上はつくれて、投資したお金も回収できる。それを再現性高くやっていけたら、さらに横展開が可能になっていきます。

セカンドフェーズは、その10地域のようなまちづくりをやってみたい人に対し、VCのようなポジションでアドバイスや投資をする。

最終的には、世界にNEWLOCALのやり方を広めていく。2050年までに世界の3/4の国と地域で人口減少が起こると予想されています。そうしたときに、日本は人口が減りつつも持続可能で住民がハッピーな地域が増えているらしい、となったら注目が集まると思うんです。今はまちづくりの視察というとアメリカのポートランドや北欧に行ったりしますよね。それが、日本の野沢温泉村や男鹿市になったらいいなと。NEWLOCALが21世紀のグローバルデベロッパーになれたらいいですね。

——21世紀の不動産開発は、20世紀とはどう違ってくるのでしょうか。

より属人的になっていくと考えています。20世紀の土地の価値は、立地や地域条件でほぼ決まっていたけれど21世紀はその土地にどういう人が関わっているかで決まってくるのではないでしょうか。スタートアップ投資の見極めに近づいてくるというか。VCがスタートアップに投資する場合、マーケットやビジネスモデルも検討するけれど、創業者がどんな人なのかも重点的にチェックしますよね。それに近いと思います。

——将来的にNEWLOCALが関わった地域の地価が軒並み上がるとしたら、すごいことですね。

ありえないことではないと思っています。地域振興はこれからもっとおもしろくなる分野なので、人材も集まってくると考えているんです。地域の不動産開発って、複数のビジネス領域に携わることになるし、関わる人の多様性も広いので、総合格闘技的にさまざまなスキルが磨かれるんですよね。これは大企業にも都市のスタートアップにもない魅力だなと思っています。これからは副業も含めて何かしら地域の仕事をするのがトレンドになるはず。何より、僕自身が今までとはまったく違うおもしろさを今の仕事に感じているので、もっとこうした体験を広めたいんです。