三井不動産

地域の「工道」を世界へ。日本の伝統工芸に変革を起こすZ世代たち

2023.07.28(金) 15:00
地域の「工道」を世界へ。日本の伝統工芸に変革を起こすZ世代たち

今、日本のZ世代が伝統工芸のあり方を変えようとしている。

シリコンバレー出身のプログラマーから、工芸品のエキスパートまで。平均年齢23.4歳の先鋭集団たちによる合同会社KASASAGIは、国内外に工芸品を発信する事業を展開するスタートアップ企業だ。

取扱品目数は12,000種類。コネクションのある工房は1,000軒を突破。工芸品を扱うECサイトの中では国内最大規模を誇る。現在は海外の販路を拡大するために、ロサンゼルスにも法人を立ち上げ、海外展開を着々と進めている。

「もともとは伝統工芸に興味がなかった」と語るのは、代表社員の塚原龍雲。なぜ彼らは日本の伝統工芸に着目したビジネスを始めたのか。また、どのように事業を成長させていったのか。塚原へ現在に至るまでの軌跡について伺った。

「経年美化」が世界でも通用すると気づいた留学時代

この事業を始める前、僕は伝統工芸に対し「古い壺」や「地方のお土産品」というイメージを抱いていました。「今後の人生でも、あまり触れ合う機会はない」とさえ思っていたんです。まさかここまで伝統工芸と密接に関わることになるとは、予想もしませんでした。

塚原 龍雲

2000年生まれ。高校を卒業後、米国大学に入学。留学先で日本文化の魅力と可能性を再認識したことをきっかけに、日本の美意識で世界を魅了することを掲げ、KASASAGI を創業。伝統工芸品のオンラインショップ「KASASAGIDO」と、伝統技術を建材に応用した「KOGEI MATERIAL」を展開。色々あってインド仏教最高指導者、佐々井秀嶺上人の許しを得て出家。インド仏教僧となる。

僕は2歳から高校3年生までサッカーをやっていました。サッカーで世界を目指していたものの、怪我をして引退。スタートアップに興味をもち、高校卒業後はカリフォルニアに留学します。

当時はアメリカで“シリアルアントレプレナー”という言葉も浸透してきたタイミング。一度事業に失敗しても再び受け入れてくれるような環境が、日本より整っていると感じたんです。そのうえで、最初の半年間は語学学校に通ってから、アントレプレナーシップを専攻できる大学へ入学しました。

ITの本場であるアメリカでビジネスを学び、投資家ともつながることができれば、将来もなんとかなるはず。「スティーブ・ジョブズのように世界を覆すようなIT企業を作るんだ!」と息を巻いていました。

ただ、僕は英語が一切喋れなかったんです。実は渡米する2日前も、必死で勉強したにも関わらず、英検3級に落ちてしまいました。案の定、語学学校ではクラスのグループワークについていけない!

しかもSNS上では僕よりちょっと年上の世代が「2,000万円調達しました」「20億円調達しました」という報告を日々アップしているんです。

かたや語学学校で躓いているのに、日本では優秀なライバルたちがどんどん実績を作っていく。自分がどんなプレゼンスを発揮できるのか、自分のやりたいことは何なのか。悩むようになりました。

モヤモヤを抱えたまま大学に入学してからのこと。あるマーケティングのクラスで「サービスを国内から海外へ展開するためにはどうすべきか」をテーマとしたグループワークが行われました。

「日本はグローバルで見てもある程度のマーケットサイズがあるから、日本人の意見を聞くべきだ」。仲間から話を振られ、拙い英語ながら自分の意見をクラスメイトに伝えました。初めて議論の輪の中に、なんとか入ることができたんです。

「アメリカ人と英語で戦っても勝てないし、同じビジネスをしても通用しない。日本ならではの強みを生かすような事業をしないと、世界では通用しない」。

ディスカッションを通し、僕自身のなかで一つの結論が見えてきました。では「日本ならでは」の強みとは何なのか。考えた末、僕は工芸品に着目します。

日本には観光資源もあれば和食もあるし、酒もある。着物もあるしお祭りもあります。正直、何でもよかった。でも、もともと工芸品を好きになる素養は自分の中にありました。

例えば、僕はこの象革の財布を10年以上使っています。この財布は全体的にツヤツヤしていますが、最初はホワホワとした質感でした。使っているうちに経年変化し、光沢が生まれてきたんです。使っていくうちに味が出てくるものが、僕はすごく好きでした。

このように「良いものを長年使って育てていく」という発想は、日本人特有のもの。授業でプレゼンテーションするときも、この「経年変化を美しいと感じる消費の価値観」を説明すると、反応が良かったんです。

また僕の担当教授が、偶然にもLVMHグループのファイナンス関係の仕事に就いていた人でした。ルイ・ヴィトンももともとハンドメイドの工芸品だったこと。それが「日本の伝統工芸も大企業になるポテンシャルがあるのでは」と考えるきっかけになりました。

大学入学から2ヶ月程、渡米してから8ヶ月が経過しようとしていたタイミングでした。僕はアメリカにいる間の2020年3月に、合同会社KASASAGIを設立します。正直、帰国後に設立した方が手続きもスムーズだったかもしれません。でもなるべく早くやりたかった。我慢できなかったんですよね。

創業時のメンバーは僕を含めて3人。副社長にはシリコンバレー在住の友達が、そしてデザイナーとしてロサンゼルスに在住する副社長の知人が就任します。心強さがあった一方、ネックだったのは「3人とも伝統工芸についての知識が一切ない」ことでした。

まずは日本の伝統工芸について、ちゃんと知らなければいけない。コロナ禍も相まって日本に帰る必要性を感じ、僕はすぐさま大学を中退。2020年6月に帰国します。

100通ものラブレターを全国へ。工房を行脚して仕入れ先を探す

僕たちは当初、海外のサーバーを立ち上げ、国外向けに工芸品を販売するネットショップを準備していました。しかし立ち上げた瞬間、コロナの影響で海外へ商品を発送するEMS(国際スピード郵便)が6ヶ月待ちとなってしまって。受注しても配送できる手段がないので、ひとまずは日本国内へとターゲットを切り替えることにしました。

帰国してまず始めに訪れたのは、経済産業省直下にある団体・一般財団法人伝統工芸品産業振興協会が運営する、工芸品のギャラリー。そこでは全国の工芸品が揃っていたので、実物を見ながら知識を身につけることができると思ったんです。

販売員さんに「若狭塗と津軽塗の違いは何ですか?」などと質問しているうちに、「この人に聞けば何でも答えてくれるよ」と、ある若い女性を紹介してもらいました。それが、伝統工芸のエキスパートとして協力してくれる、4人目のメンバーです。彼女は「職人さんの冷蔵庫の中身まで分かるんじゃないか」と思うほど、伝統工芸に精通していました。

ただし、単に知識をつけるだけではビジネスを展開できません。続いての行動は、仕入先の開拓でした。

狙ったのは「工芸 オンラインショップ」と検索して出てくるサイトに掲載されている工芸品。製造元を調べ、全国の職人さんを洗い出しました。そしてラブレターをたくさん書き、全国各地の工房へ送ったんです。

最低でも100通は送りました。そのなかでレスポンスがあったのは、たったの1箇所でした。

反応をくださったのは、長野県で漆器を作っている職人さん。コロナ禍以前は団体のお客さんをターゲットにお土産品を販売していたものの、2020年以降は観光客が激減。ご自身の年齢もあって工房を閉めようか迷っているとき、僕たちの手紙を読んでいただきました。

すぐさまみんなでキャンピングカーを借り、工房を訪問。話をするうちに、職人さんが「面白いね」と他の職人さんを紹介してくださることになりました。繋いでくださったご縁もあって、僕たちは創業から3年間、全国をとにかく飛び回ることができるようになります。

手紙を返してもらえなかった、残りの99件も諦めませんでした。地方の主要駅へ足を運ぶと電話ボックスがあります。そこに必ずと言っていいほど分厚い電話帳があるんです。工房やメーカーの電話番号を探し、とにかくアポを取りました。

基本的には1週間ほど産地に滞在し、1日に4〜5件の商談を獲得。どうしても諦めきれない商談では、2週間ずっと工房へ通い続けたこともありました。

ちなみに職人さんへ直接会って「手紙が届きませんでしたか?」と聞くと、必ず「お前だったのか!怪しいし返信も面倒だから無視してたわ!」って怒られました(笑)。勝手にPCもスマートフォンも持っていないと思い込んでいたのが裏目に出ただけでした。結局、創業当初に送った100通もの送り先のほとんどと、今でも取引があります。

産地は横のつながりが強い。1人のキーパーソンとつながれば、他の工房とも繋がれる。おそらく僕たちが若くて知識もないやつだからこそ、良くしてもらっていたところはあると思います。でも我々が思っている以上に、工芸の世界ではオープンマインドな職人さんが多いのだと感じました。

そうやって地道に足を動かした結果、仕入れ先の目処は立った。僕たちは2020年9月に、自社ECサイト「OMOISHOP」をオープン。経年美化を楽しめる「ホンモノの工芸品」に特化したネットショップの運用を開始します。

では、創業資金はどうしていたのか。実は資金調達の面でも手を差し伸べてくれる存在があったからこそ、今のKASASAGIがあるんです。

遡ることKASASAGI設立当初。僕たちはたったの30万円で会社を創業しました。合同会社を設立するには6万円の手数料が発生します。手持ち24万のうち、長野へ行くために借りたキャンピングカーのレンタル費用は5万。そして道中でエンストした修理費に3万。長野から帰ってきた時点で、手持ちはたったの10数万円でした。

支援金や補助金も、ある程度の元手がないと借りることはできません。会社を売却する気もなかったからこそ、ファイナンシャルリターンを求められるような投資も選択肢にはあがりませんでした。

消去法的に「借り入れ」という道しか残っていない状況。しかし当時20歳の僕は、日本政策金融公庫で門前払いをされてしまいます。「元手が30万円で経験もなく、売上もゼロ。取引先もないのに、どうやったら創業融資を受けられると思ったんですか?」って。

とはいえ売上を立てようにも、商品を仕入れるための資金すらない。窮地に立たされた時、大阪で草履屋を経営する株式会社菱屋の代表・廣田裕宣さんと出会います。

僕がたまたま大阪の百貨店を訪れたとき、菱屋が展開する草履ブランド・カレンブロッソのポップアップを開催していました。ポスターにはカリフォルニアの風景をバックに、アメリカ人が草履を履いている写真が。「これ、僕がいた場所です」と販売員さんに話しかけたら、事業の話を聞いてくれたんです。

「きっと気に入ってもらえますよ」と社長の連絡先まで紹介してくれて。すぐさま電話をかけて話をしたら「今から会社に来い」と、直接お話をする機会をいただけました。

驚くことに会って2回目のとき、なんと数百万を振り込んでくれたんです。そして「売上として扱ってもらっていい。何年間か仕事を頼むから、その振り込んだ分からデポジットしてくれ」と。その場で業務提携が決まりました。

その売上を、翌日には政策金融公庫に持っていくことで、やっと会社が回せる状態に至ったのです。菱屋さんも然り、職人さんたちも然り。人のご縁に助けられていて、本当に頭が上がりませんでした。

「KASASAGIにしか卸さない」職人の信頼を勝ち取った理由

さて、現在KASASAGIの事業は「OMOISHOP」をアップデートしたBtoC向けネットショップ「KASASAGIDO(β版)」だけではありません。ネットショップに加え、宿泊施設や商業施設に向け、伝統技術を内装空間に活かした建材や家具・什器を販売する事業。そして記念品やカタログギフトを提案する事業という、3本の軸で国内展開を行なっています。

基本的にKASASAGIで扱うのは、他で販売されていないオリジナルの商品。とはいっても、職人さんにゼロから全く新しい商品を開発いただくわけではありません。我々が用意した「規格」に沿い、従来の工芸品を少しアレンジしたものを納品いただきます。

「規格」を説明するうえでは、家具が分かりやすい例になります。

たとえば大川産の家具と飛騨産の家具では、机と椅子の高さが微妙に異なるんです。机と椅子はセットで購入することが多く、それぞれの机の高さに合わせ、椅子の高さも設計されています。一般的な大川産の机に飛騨産の椅子を合わせると、サイズも色味もチグハグになってしまう、という課題がありました。

だからこそ職人さんたちには「机はこのサイズで椅子はこのサイズ、色味はこう」と「KASASAGI仕様」の統一規格で制作をお願いしています。すると「椅子は飛騨で、机は大川」のように、他産地のもの同士を組み合わせて使えるようになるんです。

様々な組み合わせのバリエーションが生まれることで、購買者の好みに合わせた「生活のトータルコーディネイト」が実現します。このように僕たちは、現代のライフスタイルに取り入れやすいプロデュースを行うことで、より日常生活に馴染む商品を展開するようにしているんです。

また工芸品を扱うネットショップは国内にも数多あるなかで、KASASAGIは取扱品目数でも優位性をつけようとしています。全国で訪問した工房の数は、1,000を突破。日本最多の「職人さんとの繋がり」を構築しました。中には他のECに卸すことは断り、KASASAGIだけに卸している、という工房もあります。

では、なぜ全国の職人さんたちが、ビジネスの経験値が少ない若造の僕たちに協力いただけているのか。多くの商談が成立した理由は、僕たちが「職人さんたちに寄り添った取引条件」を提案していることが大きいと思います。

もともと伝統工芸の業界は分業制が主流。百貨店などへの販売は、全て問屋が統括していました。職人さんたちはものづくりに専念できた一方、売り方や条件交渉などは未経験者がほとんどでした。

しかし、百貨店の低迷やネットショップの普及により、問屋の力が弱まってきた。職人さんたちは問屋以外の販売経路を自ら開拓せざるをえなくなり、ネットショップやSNSの運用をするようになります。必然的に「ものづくり以外」に割く時間が増え、目の前の制作に集中できなくなってしまいました。

彼らの本望は「ものづくりに専念する」こと。僕らが職人さんたちに代わり販売経路を開拓することで、制作に集中できるようサポートできればと思いました。

その一方、卸から先の流通を請け負うだけでは、真の意味で「職人さんに寄り添っている」とは言えません。工芸品の「小ロット多品種」という特徴を受け止め、職人さんが決して無理をしないような取引条件を組むことにしたんです。

工芸品はハンドメイドで自然由来の材料を使っているぶん「冬は漆が乾きにくい」など、天候や季節の変化によって制作期間が左右されやすいです。いつでも同じペースで納品してもらえるわけではありません。制作開始から納品までに3ヶ月必要なこともあるんです。

「この商品を大切な人へ届けたい」とユーザーに関心を持ってもらっても、制作期間が長いゆえに候補から外されてしまっては、元も子もありません。

ネットショップでちゃんとした「ホンモノの工芸品」を販売するにはリードタイムが長すぎる。かといって職人さんにスピード重視で仕上げてもらうことは避けなければならない。そこでKASASAGIでは購入から発送までのタイムラグを解消するために、在庫を職人さんからまとめて購入することにしました。

在庫をある程度確保するとなると、BtoCの販路だけではリスクがあります。しかも12,000種類もの在庫を確保すると、仕入れだけで結構な金額を用意しなければならない。

そこで着目したのは、引き出物や贈答品など、在庫を大量に捌けるような市場でした。

2022年7月、KASASAGIは全国1,500カ所にプチギフトの販売経路をもつ引き出物の卸会社・株式会社オリジナルあいに在庫をまとめて購入いただきます。そしてKASASAGIの扱う商品を掲載したカタログギフトを発注。在庫の一部、そしてカタログギフトを弊社でも販売することで、在庫効率をあげることにしました。

KASASAGIは商品開発とプロデュース、オリジナルあいは在庫管理と物流、カタログギフトの制作を担当。
KASASAGIの商品を掲載したカタログギフトはホテルや結婚式場などの法人だけではなく、KASASAGIのネットショップ経由で一般消費者にも販売される。

工芸品は他のプロダクトに比べるとストーリー性が高く、縁起物が多いんです。竹製の箸も「企業の業績が伸びる」「子供がぐんぐん育つ」という意味が込められていて、贈り物として選ばれやすい傾向にあります。

そういった言葉を介さないコミュニケーションとして、伝統工芸品は一定のニーズがある。しかも、手作りだからこそ小ロットでコーポレートカラーを取り入れたり、ロゴを入れたりすることもできます。

在庫が少なくなりそうなら、半年前から職人さんに発注。自然や季節のリズムを加味しながら、職人さんに無理のないペースで制作してもらい、在庫の大部分はカタログギフトで回していく。そういった「職人さん第一」の運営方法が、取引の契約に繋がっているのだと思います。

地域の魅力とともに「工道」を提唱、世界と戦っていける企業へ

現在、当初の目標であった海外向けの販売を本格的に進めています。最近では、やっとロサンゼルスでの法人登記を終えたところ。国内でも在庫をある程度確保できるようになったことで、突破口が見えてきました。

ロサンゼルス法人の役割は主に2つ。現地の小売店とのコミュニケーションと、海外用在庫の管理です。

海外の小売店が職人さんにコンタクトを取ること、結構あるんです。ただ、先ほども言った通り、職人さんたちは少しでも時間が空いたら手を動かしたい。海外で自分の作った伝統工芸品を売り出したくても、交渉や契約の工数から、なかなか腰の上がらない職人さんは多いです。

そこで、職人さんが受けた問い合わせも含め、小売店のやり取りは全てロサンゼルス法人に集約。条件交渉などをKASASAGIが請け負うことにしました。

また、国内から海外の小売店に直送する場合、小売店ごとに「空港受け取り」か「店頭渡し」かのように、受け取り方法や送料、関税がバラバラになってしまいます。金銭面と工数面でのコストを削減するために、在庫はまとめてバンと一括でLA法人へと送ってしまうことに。

ただ、インフラを整えるのは序章にすぎません。「工芸」という独立したカテゴリーそのものが世界に浸透されない限り、日本の工芸が海外のマーケットで戦う道はないと思っています。

日本の工芸品は、工業製品のような「クラフト」にも分類されず、芸術作品のような「アート」にも分類されていません。専門家に「工芸品ってなに?」と聞いても、全員の答えが違う。そのせいかどれだけリブランディングを行っても、日常生活の中に馴染まない傾向があって。全く性質が違うのに、なぜか百均のプロダクトと比較されてしまったりする。

僕は、工芸品を精神性の高いものだと捉えています。だからこそ、もう少し求道的なものを追求してもいいのでは、と思うんです。具体的には茶道や華道のように、ものづくりの「工道」という概念を提唱し、広めていきたいと考えています。

ロサンゼルスにある「Japan House LA」では小泉製作所の制作するおりん「たまゆらりん」を2022年から販売開始。キービジュアルの制作/流通・販売に米国法人のKASASAGI INC.が関わる

KASASAGIは、土地ならではの価値観とともに、工芸品をキュレーションすることを意識しています。

日本各地には、土地それぞれの文化や思想が根付いています。僕自身も全国の工房を通し「この地域ではこんな郷土料理が楽しめるのか」「こういった考え方から工芸品が生まれたんだ」というたくさんの発見がありました。

今後、各地方の職人さんを家元にし、「工道」を確立させることができれば、「工芸品とはこういうもの」という定義が明確化され、地域の文化とともに拡散・浸透していきます。

即効性はないかもしれません。でも国内外でより理解されやすく、もっと売りやすくなると思うんですよね。

そしてKASASAGIをきっかけに、消費者が地域の「工道」へと興味をもち、地域経済の活性や、後継者不足の解消などにつながれば理想です。工芸品を通し、各地の営みへ興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいです。

しかし全国の職人さんたちが「工道」を極めてもらうべく、必要なことはあります。それは先述した通り、彼ら自身がものづくりに専念し、理想を追求できる環境を整えることです。

今、職人さんを「つまらない」と退屈させてしまうものづくりはたくさんあります。

市場を拡大させるためには、ある程度マーケティングの考え方も必要。でもマーケットインの考え方に寄せすぎて、職人さんのこだわりを無下にするようなオリジナル商品を展開する企業も少なくはありません。

経済的な恩恵を受けられる一方、本当に作りたいものは作れない。せっかく「やりがい」を求めて工芸の道に入った後継者も、そんな状況ではどんどん数が減るばかりです。

KASASAGIが「職人さん第一」のビジネスを展開しているのも「職人さんにこだわりを持ち続けてもらいたいから」。そのうえで、例えば自分の作った工芸品が海外で愛されているのを見たら、職人さんたちのモチベーションにもつながると思うんです。

活動の根底にある僕たちのビジョンは「日本の美意識で世界を魅了する」ことだと考えています。しかし、実は「文化のため、人のための会社であるべきはずなのに、文化を搾取して旨味を吸い取ってしまっていないか?」という葛藤が生まれた時期がありました。

2021年、悩みを相談した先輩に誘われ、身をまかせるままにインドで得度式に参加したのですが(笑)、出家したおかげで「何のためにこの会社をやっているのか」を忘れずにいられています。

地域ごとのお世話になった職人さんに対し、お金の面でも還元することができればベスト。かつ「好きなだけものづくりを楽しめる環境」を整備することで、各地への恩返しがしたい。

そのために、まずは日本文化という土台を強固にし、世界と戦っていける企業として成長していきたいです。日本の伝統工芸の魅力をより多くの人に感じていただきたいなと思っています。

(文:高木 望 写真:小池 大介)