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“ウェルビーイング”で地域経済は活性するのか?

2023.05.31(水) 15:00
“ウェルビーイング”で地域経済は活性するのか?

今では日本の社会全体の関心事となったウェルビーイング。地域経済の活性化を目指していく過程においても、避けては通れないテーマとなっています。

3月17日に開催された「POTLUCK FES」Social Stage02では「Well-beingから見る、地域経済創発の活性化」をテーマに3名のパネリストによるセッションが行われました。イベントモデレーターは&Co. 代表取締役の横石崇氏が務めました。

プロフィール

北川 拓也(Centiv 創業者,CEO、Well-being for planet earth財団 共同創設者・理事)
前田 大介(前田薬品工業株式会社 代表取締役社長)
島田 由香(株式会社YeeY 共同創業者/代表取締役、アステリア株式会社 CWO:Chief Well-being Officer)
横石 崇(&Co.(株式会社アンドコー) 代表取締役)

地域経済を貨幣経済だけではなく、関係性経済からも考える

横石:今日ご用意した2つのテーマ、1つ目は「ウェルビーイングは地域経済に貢献できるのか」です。皆さんはどのようなお考えをお持ちでしょうか。

島田:まずこの問いには自信を持って「YES」とお答えしたいです。ただ日本ではまだウェルビーイングがどんなものか理解をされていない部分もあると思います。

Well=良い、Being=状態ですから「現在進行形で良い状態」がWell-Beingです。日本語だと「継続的幸福」と訳されることもあります。WHOでは「心身共に健康で社会的に良い状態」と定義されていますが、私の中ではどうもこれがしっくりきません。

自分の頭ではなくカラダで感じていかないかぎり、ウェルビーイングの本質は理解できず。まずは万人がその感覚を得るのが大事なのかな、と思っています。

北川:ウェルビーイングに関しては、健康寿命や年収などの「客観指標」で測られるの一般的でした。しかし、近年、それぞれの人が実際にどう思っているのか——そんな「主観指標」が注目されています。

それを前提に、当然私もこのテーマの答えは「YES」ですが、地域経済という言葉が「貨幣経済を指すのか」、それとも「貨幣に交換できない価値も含めるのか」が結構大事なポイントです。すなわち隣近所など血縁だけではない人たちとの人間関係の価値である関係性経済をいかに育むのか。特に都心部においてはそれが重要だと思います。

前田:実は我々のいる富山県は貯蓄率・持ち家率・1人当たりの延床面積・エンゲル係数のいずれもがナンバー1なのですが、幸福度調査ではいつも下位に低迷しています。

そこで県は成長戦略にウェルビーイングを掲げるようになりました。先ほど北川さんから客観指標・主観指標の話がありましたが、主観指標に基づく「ウェルビーイング・アクション」なんかも打ち出しています。

当初、議会でウェルビーイングという言葉が出たときには「ウェルビーイングの定義とは?」みたいな実にお役所らしい話になったようですが、そうした議論自体がもうウェルビーイングではありません。「ウェルビってますか?」くらいのノリでいいと思います(笑)。

北川:これはあくまで“噂”ですが、富山県の昔ながらの価値観では、家族同士のつながりが「もう逃げられない」と感じさせられるほどに根強いそうですね。一挙手一投足のすべてケチをつけられるから、特に若い女性なんかだと居心地が悪いと聞きました(笑)。

前田:そうした側面は間違いなくあると思います(笑)。

北川:地域経済は貨幣経済だけでなく関係性経済を含めて考えるべき、という話を先ほどしましたが、やはりそれには“度合い”が大事です。今の日本は都心部だと疎遠すぎるし、地方だと近すぎる。よい案配を見つける必要があると思います。

豊かな人間関係がその後の幸福度を決める!?

横石:(島田)由香さんは最近、和歌山県で2023年2月「和歌山 Well-being Month」というイベントを企画されたそうですね。

島田:ありがとうございます。もともと和歌山県はワーケーションの聖地と言われていて。

なぜなのかといえばそれはウェルビーイングが上がる場所だからなんですよね。それは私自身も感じていますが、ちょうど2月にJALの羽田・南紀白浜線が臨時増便になるということで、この1カ月間に県内さまざまなエリアでウェルビーイングに関するセミナー・イベントを企画しました。

富山の話も含め地域には本当にたくさんの“種”がある。種じゃなくて“芽”が出ているもの、花が咲いているものもいっぱいある。少し視野を広げてみたり狭めてみたり、あるいは視座も低めてみたり高めてみたりするだけで地域の魅力が見つかると思います。

横石:和歌山 Well-being Monthを企画・構成されるうえで意識したことはありますか。

島田:私たち人間は自分が思っている以上に感情の動物だから、自分の内側に起こる微細な感情の変化に気づいていくことからしかウェルビーイングは語れません。だからウェルビーイングをあえて定義するのだとしたら「何かいい感じ、いい調子って思えること」。プログラムの企画・構成ではそれを意識しました。

例えば和歌山 Well-being Monthのプログラムの1つに和歌山・紀南地方の冬の風物詩「ウツボの天日干し」を体験するワーケーション企画がありました。ワーケーションが今これだけ注目されている理由もウェルビーイングが上がるから。ワーケーションによって健康長寿になるし、良い人間関係も築けるし、仕事のパフォーマンスも上がる、社会性が増してレジリエンスも強くなる。「あれ楽しかったな」「うれしかったな」「おいしかったな」と思える体験を各地でご用意しました。

横石:その地域に行けば体験を通じていい感じに仕上がっていく、そしてそれがウェルビーイングである?

島田:はい。ウェルビーイングに関して私が大事にしているのは心理学者、マーティン・セリグマン氏の提唱するPERMAモデルです。

Positive emotion(ポジティブな感情)、Engagement(エンゲージメント)、Relationship(豊かな人間関係)、Meaning(仕事や人生の意味・意義)、Accomplishment(達成感)の頭文字をつなげたものなんですが、私はちょうどこの真ん中に「R(Relationship)」が位置しているのが肝だと思っていて、セリグマン氏も「豊かな人間関係がその後の幸福度を決める」としています。

北川:私はもともと数学・物理学を専攻していた人間で、これはその道の大先輩である矢野和男先生(株式会社日立製作所フェロー)がおっしゃられたことですが、人が幸せでいるためには「三角形のつながり」がとても大事なのだそうです。

会社とかにいると「あいつ分かってくれない」とか不満に思うことってどうしても増えるじゃないですか。その思いをうっかり口にすれば当然関係性も悪くなります。でも両者を知る第三者が間に立ち「あいつもそんなつもりはなかったと思うよ」とか「こういういいところもあるから必ずしもそうではないよ」とか言ってくれると、良好な関係も保たれる。矢野さんはそれを科学的に証明しているわけですが、ウェルビーイングでは非常に重要な視点だと思います。

前田:地域の受け入れ側からすると、他所から来てくれた方が「富山のここ、めちゃくちゃいいじゃん」って褒めてくれると気分が“上がる”んですよね。私は週2回ほど東京に来ていますが、そこで初めて出会った方も大体1~2カ月後には友だちを連れて富山に来てくれます。

一度来てくれた方がまた別の面白い方を連れてきてくれるなど三角形が四角形になり、さらに五角形になり……ということが富山では起こっていて、リレーションシップの重要性は私自身も実感しています。

地域の受入側に「寛容性」を求めるべきか

横石:2つ目のテーマは「地域経済×ウェルビーイングを取り入れる際に重要になるキーワードとは」。こちらはお手元のフリップにお書きいただきたいと思います。

前田:私は「寛容性」です。ありがたいことに富山は移住者・多拠点居住者が増えつつありますが、先ほど北川さんからもご指摘いただいた通り、ローカルの人、特にご年配の方々の寛容性が少し低いのは事実です。

出る杭を打つのではなく一緒にやろうとする。そんな受入側の寛容性さえあれば、富山は世界的な都市になれるはず。その意味で私や私以外の若いプレイヤーが寛容性をもって取り組みを進めていくべきだと考えています。

島田:次は私がいきましょうか。重要だと思うこととして「ワーケーション」と「対話」の2つがあります。和歌山 Well-being Monthで企画したウツボの天日干しのようなワーケーションは、関係人口を増やす大きなきっかけになります。

会社勤めだとワーケーションを「会社が許してくれない」「上司の目が怖い」みたいに言われがちですが、それこそリーダーたちが寛容になり「みんなのウェルビーイングを上げ、パフォーマンスを向上させよう」と取り組むべきだと思います。

また先ほどウェルビーイングの構成要素としてPERMAをご紹介しましたが、ウェルビーイングにはもう1つSPIRE(スパイヤー)という概念があり「ウェルビーイングを保つ5つの要素」と言われています。地域がワーケーションを加速させる際は、Spiritual(精神的)・Physical Well-being(身体的)・Intellectual(知性的)・Relational(関係性)・Emotional(感情的)という5つの観点から、地域の素晴らしさを見つけるのがよいと思います。

北川:私はあえての「揉めごとを楽しめ」。前田さんの挙げた寛容性が大事であるのは本当にその通りなのですが、現実的にはかなり難しい面があります。つまり地域にいるおじいちゃん・おばあちゃんに「寛容になれ」と言ってもおそらく無理です。するとどうなるかと言えば、若者世代が地域に入り頑張って関係性を作ろうとしても間違いなく揉めます。

ただ主体的に動いているのは地域に来た若者のほう。おじいちゃん・おばあちゃんは地域住民として昔からそこにいるだけだから悪くはありません。ならばもう揉めていることを楽しむしかないです。そうして毎日顔を合わせていれば次第に打ち解けていくかもしれないじゃないですか。揉めることを怖がらないで、という意味でこう書かせていただきました。

前田:幸い私の周りではそうした揉めごとはなく良い関係性が築けていますが、おっゃる意味はとてもよくわかります。そうしたことがあるのが嫌だから行くのを止めてしまう方も結構いると思うので、北川さんの考えのように楽しめる方をたくさん輩出していこうというのは面白い考えかもしれないです。

島田:リフレーミング(ものごとの見方を変えてポジティブにとらえる)なんて言葉もありますが「前向きにとらえよう」ということなんだと思います。

ある意味揉めごとは価値観と価値観のぶつかり合い。両方ともきっと正しいこと、もしくは譲れないことを言っているわけですよ。もしそれがぶつかり合ったとき「あの人はこうだ、この人はこうだ」となるのではなく「これは良い意図のぶつかり合いなんだ」「この人は自分に興味があるから文句を言うんだ」と解釈してみる。

最初は抵抗があるかもしれないけど、無理矢理にでもそういうふうに考えていけば脳がそういう回路になり「揉めごと来たぜ!」くらいに思えるようになるかもしれないですね。

(執筆:安田博勇 編集:野垣映二 撮影:幡手龍二)