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「大人が本気で遊べばビジネスになる」地域の里山資源を事業化するには

2024.11.01(金) 13:15
「大人が本気で遊べばビジネスになる」地域の里山資源を事業化するには

これまでの経済成長一辺倒ともいえるストーリーから脱却し、人も企業も健やかになるような成長路線を求めることはできないのでしょうか。そのためのヒントが里山資源を活用する地域プレイヤーの姿から見えてきます。登壇する彼らが舞台にするのは、過密する都市ではなく、中山間地や小規模市町村です。

POTLUCK FES & AWARD ’24 Autumnのソーシャルステージでは「里山資源をビジネスにするって、どういうこと?〜地域に眠る未開拓な資源を遊んで耕す」をタイトルに、「自然資本と遊び」の関係性が語られました。この記事ではトークセッションから抜粋・構成した内容をお届けします。

<プロフィール>

福田 晋平(ヤマハ発動機株式会社 技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループ グループリーダー)
井本 喜久(農ライファーズ株式会社 代表取締役)
丑田 俊輔(私立新留小学校設立準備財団 共同代表)
モデレーター:伊藤 美希子(株式会社ビーアイシーピー・ハナレ 代表取締役)

ヤマハ発動機は「いつも本気で遊びを大事にしてきた」

トーク開始前に参加者に挙手を求めると、参加者割合は地域側6割、都市圏4割ほどでした。

伊藤:まずは、「里山資源をビジネスにする」というテーマに沿って、ヤマハ発動機がどのように里山資源と企業活動を掛け合わせているのか。福田さん、お聞かせいただけますか。

福田:我々は「いつも本気で遊びを大事にしてきた」会社です。企業のオリジンである楽器製造にしても、分社したオートバイ事業にしても、どちらも究極的に言えば「生きるため」に必要なものではありませんから。

福田:ただ、オートバイでいえばCO2排出や道路へのダメージなど、遊ぶほど地球を壊してしまう、というジレンマもあります。そこで、あくまでヤマハ発動機の新規事業における文脈にはなりますが、今は「地球がよろこぶ、遊びをつくる」というミッションを掲げて、リジェネラティブにできる遊びを開発しようとしています。

ヤマハ発動機株式会社 技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループ グループリーダー 福田 晋平氏

福田:たとえば、地元のステークホルダーと森林で遊ぶコミュニティを創出しようと、マウンテンバイクコースの造成や森林再生研究を開始しました。これも最初は社員の遊びとして「森を走りたい」という声からスタートしたんです。もともとはしいたけの原木栽培をしていた耕作地を、10人くらいで手作りで整備したのが始まりです。

あるいは、そういった山林の整備で刈った草木の利活用として、低木の「クロモジ」を使ったクラフトドリンクも試しています。こういった未活用資源もうまく遊びの一つにできないかと考えました。

10月には、横浜の新高島駅直結のオフィスビルの中に共創スペース「リジェラボ」をオープンします。我々と共創できる可能性のある方は、ぜひご連絡ください。地球がよろこぶ遊びを、地域のみなさんと一緒に作っていきたいです。

最初から「役に立つ」「社会的な意味」を考えすぎない

伊藤:ありがとうございました。井本さん、楽屋でも「田万里町という限界集落で暮らすことが今は面白すぎて仕方ない!」とおっしゃってましたね。農ライファーズの取り組みと併せて、その楽しさについてご紹介いただけますか。

井本:農ライファーズは農村起業塾のコミュニティ運営のほかにも、僕の出身地である広島の田万里町という限界集落で、米粉ドーナツ店と農村リトリート宿を複合させた「田万里家」を運営しています。

うちの集落は人口320人のまさに「里山」です。田万里町は四方が山に囲まれたすり鉢状の地形で、南の山裾から北の山裾まで400mしかない中山間地。ただ、町内を国道2号線が通っていて、3万台の車が通過しているんです。一見すると「通過するだけの農村」ですが、歩いたり暮らしたりしてみると、今まで気付けなかった魅力に溢れ、2年前に移住しました。

この魅力に、僕らなりのアイデアやデザインを掛け合わせて新しいものを作れないかと思ったのが「田万里家」が生まれたきっかけです。「田万里町」はその名の通り、歴史的に米づくりが盛んです。地場産業を活かし、収益性を高めるために「米の価値を最大化する」という目標を立て、米粉ドーナツを作りました。「田万里家」には今では年間3万人が来訪するようになっています。ただ、これは「田万里町だから」できたのではありません。全国には魅力的な里山がたくさんあります。その資源をもっと活かすべきではないでしょうか。

農ライファーズ株式会社 代表取締役 井本 喜久氏

伊藤:井本さんにとって里山の「資源」といえば、何が挙がりますか?

井本:あらゆるものが資源ですが、僕は人にフォーカスしたいです。地域活性化の本質は「人」だと思います。いかに人が育ち、遊びをつくれるか。そのための環境づくりがキーワードではないでしょうか。

伊藤:「遊び」といえば、丑田さんが大切にされているテーマかと思います。取り組みを交えて教えていただけますか?

丑田:「遊び」は大切ですよね。僕は東京千代田区の神田錦町で育って、公共施設をまちづくり拠点として再生する「ちよだプラットフォームスクウェア」の立ち上げなどに携わってきました。

2014年からは姉妹地区の秋田県五城目町という田舎町に移住して、商店街の空き家を親子の遊び場にしたり、地域の森林資源とデジタル建築技術を活かした集落建設を試みたりと、様々な活動をしています。今は、鹿児島県姶良市に取得した廃校を私立小学校として再興するプロジェクトを進めています。

私立新留小学校設立準備財団 共同代表 丑田 俊輔氏

丑田:2014年に五城目町へ移住したとき、仮説思考で何かを決めつけてコミュニティに入るのではなく、ただ暮らして、出会った「遊びの師匠」と遊ぶことから始めてみたんです。マタギの方と山に入ったり、渓流で釣りをしたり。そうして「師匠」が増えていくにつれ、シャッター通りになってしまった商店街の方、空き物件を持っている方など、たくさんの人と出会い、今につながるようなプロジェクトが自ずと立ち上がっていきました。

たとえば、田舎の山林や空き家は市場原理では価値がつかず、市場に出回らない物件が多くあります。茅葺きの古民家もそうです。ただ歴史的に、茅葺きの古民家は里山から木を切り出して家を作り、ススキを共有した場で育て、みんなでまた葺き替えるという共助と地域の自然資源が絡み合っています。それが結果的に美しいフォルムを出している。

そういった旧来のあり方を拡張し、全国から関われるようにすれば、これが一つの「コモンズ」として機能するのではないか、と。そうして、人と人の関係性のなかで低コストで拠点を取得しながら、コモンズとして遊び場を開くように活動してきました。そこから、人の暮らし方、学び方、遊び方が変わっていく。

大事なのは、最初から「役に立つ」とか「社会的に意味を出す」とかいった感じにしないこと。真面目すぎて自分も楽しめませんから(笑)。遊び仲間が集まってきて、プロジェクト化してみて、持続できる形を作れそうになれば、結果的にまちづくりに接続されていったりする。特に「遊び」は子どもたちが生まれながらに持つ才能の一つですが、彼らをどのプロジェクトでも「対等な遊び仲間」として巻き込むようにしています。この視点はとても大事ではないか、と思っていますね。

リアルな『Minecraft』を毎日やっている気分

伊藤:ありがとうございます。私も、岩手県住田町という中山間地を仕事の拠点としていますが、森林が9割という場所です。住田町は「森林・林業日本一のまちづくり」を掲げて、仮設住宅を木造戸建てで建てたり、燃えてはいけないはずの消防署を木造で新築したり(笑)、山を地域の人々と整備してトレイルランニングレースを開催したりと、「林業の川上から川下まで見えるまち」として森との暮らしを体現し続けてきました。住田町にとっては、まさに「木」が地域資源です。こういった自然資源の活用にあたり、井本さんはどういった観点を大事にしていますか?

株式会社ビーアイシーピー・ハナレ 代表取締役 伊藤 美希子氏

井本:僕がともかく大事にしているのはデザインです。僕にとってのデザインは色や形のことではなく、考え方そのもの。これからは意志をもったプレイヤーが、地域でどんな面白いことをデザインできるか、という観点が欠かせないと思います。僕らの場合は集落の田んぼ再生として「米の価値を最大化する」のために、米粉ドーナツを選んだところ、米1キロあたりの価格が20倍にもできました。自然資本を活かす可能性を考えながら、僕は毎日のようにリアルな『Minecraft』をやっているような気持ちなんです(笑)。

丑田:あぁ、『Minecraft』。わかります(笑)。ビジネスとしては、基本的には30km圏内で巡るような「代謝」が大事だと思っています。できれば小さな半径で素材や遊び場も賄えればいい。たとえば、新たに宿を開くときも、地域外からの出資で成り立たせるのではなく、地域内から投資を募って、地元の方々が持つ自己資本を高めて参加を促していくことも大切です。ただ、地元に閉じすぎても淀みがでてしまうので、地域外へとコミュニティを拡張していく視点も大事ですね。

まずは、「学びに溢れた環境」や「遊びが豊かに流れている環境」が地下水のように流れて土台になり、その上にいろんなビジネスやコモンズが興ってくるのが理想的でしょう。僕個人は、その地下の環境のほうに興味が強いように思いますね。

伊藤:ありがとうございます。一口に「里山資源でビジネスを」と言っても、複数の方向性があることを感じますね。

福田:そうですね、とても共感します。井本さんがお話されたように、デザインはとても大事です。過去の成功事例や歴史を学ぶことも大切ですが、僕としては「歴史にすがってはいけない」とも考えていて。その上で、意志を持って新しい文化を作るというお話なのかなと。

井本さんに伺いたいのは、限界集落のような場所であっても、全員の意見を集約していくようにしたら、うまく物事が進まないのではないでしょうか?

井本:みんなの意志を汲み上げていたらキリがありませんね。だから僕は一方的に伝えることから始めました。自治会長にお願いして、地域の回覧板に僕らのプロフィールと共に毎回お手紙を付けたり。意志を伝えて、応援者を増やして、実行していくようにしないと、やっぱり時間はかかってしまいますから。

大人が本気で遊ぶと、ビジネスになる

丑田:どの企業も、最初は創業者が遊び心やビジョンを持って始めたことなのに、規模が大きくなると忘れてしまうことが多いですよね。それでいうと、福田さんのお話から、ヤマハ発動機に「遊び」に対するカルチャーが残り続けていることは特異に感じます。

福田:興味深いご指摘です。理由は一概には言えないのですが、静岡県磐田市に本拠地があり続けることは大きいかもしれません。自然との距離感が近いままなんです。

丑田:物理的に自然に近い場所に身体を置いていることで、オフィスにいる時間だけでなく、暮らしの中でも自然を意識する時間が多いのかもしれないですね。その延長線上に仕事があるというイメージを持ちました。大企業の人たちも、関係人口や二拠点生活という観点だけでなく、社員の半数が分散するくらいのほうが、良い事業を作れるかもしれない、とお聞きしながら考えました。

伊藤:なるほど。暮らしと仕事が近いところをつなげてビジネスにする、それによって視点が変わったり、時間軸が長くなったりする部分もあるのでしょうね。

丑田:そうですね。最近、人類は結構忙しすぎなんじゃないかなと思っていまして(笑)。自分が持つ24時間を「何に、どのくらい使ってしまっているのか」を振り返ってみるのも大事じゃないかと。地域のプレイヤーがそうして見直した時間を一部でも割いて、ゼロから各地で創り上げていくと、もっと面白い世界になりそうです。

井本:ただ、最近は若い世代でも「社会課題に向き合いたい」と話す方が増えてはいるんですが、それは大切だけれど、僕としては自分が本当に「好きだ、面白い!」と言えることを動機にしたほうがいいと思うんです。要は「君は何をやりたいの?」と問われても答えられず、まず先に「社会課題の解決」が来てしまうのは順序が違うかなと。

その意味で、福田さんが話されていた「地球がよろこぶ遊びをつくる」というフレーズは究極の形だと思うんですよ。だからこそ、みんなもまずは「遊び」という自分の内面から出てくる能動的なものを爆裂させて、すでに外部にある社会課題についてはあとからつなげればいいのではないか、とも感じます。

伊藤:そこからビジネスは生まれますか?

井本:もちろんです。大人が本気で遊ぶと、ビジネスになるんです。

丑田:いいですね。まさに大人が本気でやるとビジネスとしても稼げるし、逆にビジネス以外のやり方のほうが、その「遊び」が生き生きとするのであったら、そちらを選んでもいいのだと思います。つまりは、その「遊び」を乗せる経済圏を正しく選ぶこと。スタートアップ的に進めるのか、ローカル経済でお金を巡らせるのか、世界進出すべきなのか、ボランタリーにいくのか、それらを混ぜて考えるのか……その努力と、経済圏を選ぶセンスみたいなものが、とても大事になってくると思います。

福田:あくまでビジネスをつくる企業として、私は経営者からお金を借りているようなイメージで、新規事業と向き合っています。当然に収支計画も必要ですし、時間軸に関する説明責任もある。ただ、今後はそれにお金だけでなく、ソーシャルインパクトといった評価軸を加えてもいいのかもしれないですね。短期的でなく、もっと「次世代に何を残すのか」「100年後はどうあるべきか」といった、言わばアンビシャス(大志)を持っていることが大事になる。そうなれば、時間軸は必然的に長くなるのではないでしょうか。

(文:長谷川賢人 写真:鈴木渉)