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農業、食、産業観光も。地域ビジネスの可能性に迫る珠玉のセッション5選

2023.12.22(金) 10:05
農業、食、産業観光も。地域ビジネスの可能性に迫る珠玉のセッション5選

9月29日に開催された、地域経済の実践者が集う祭典「POTLUCK FES 2023 Autumn」。さまざまなテーマで実施された15セッションを3回にわたりダイジェストでレポートしていきます。

第2回は「食」「関係人口」「農業」「産業観光」「ローカルビジネス」の5つのテーマのトークセッションをお届けします。

「食」が果たす地域経済の役割:名物に頼らない、地域×食ビジネスの作り方

登壇者プロフィール

木村 元紀(Liberal Eats Lab プログラムディレクター / NewsPicks Re:gion Picker / 元京都市 都市ブランディングアドバイザー)
森枝 幹(プロデューサー)
友廣 裕一(合同会社シーベジタブル 共同代表)

地域の魅力と言えば「食」。しかし一方で、地域における食のプレイヤーは小規模な事業者が多く、なかなかイノベーションが生まれにくい環境であるように見えます。

本セッションでは食で地域にイノベーションを起こそうとするプレイヤーが集結。セッションの冒頭、シーベジタブルの共同代表を務める友廣氏が海藻のポテンシャルについて語りました。

「1,500種類あると言われている海藻のうち、1,400種類は食べられるのに、食べられていません。化石燃料も農薬も肥料も使わずに太陽の光と海の栄養だけで豊富なタンパク質を生み出す海藻は、サステナブルな食品です。そして、日本は海藻の食文化で言えば先進国だったはずなのに、近年は消費量も生産量も激減しているのが現状です」(友廣)

シーベジタルの本社がある高知県の四万十川は青のりの最高級品種「スジアオノリ」の産地。しかし、水温の上昇に伴い2020年には出荷量がゼロに。シーベジタルは独自の技術でスジアオノリの生産を可能にし、現在安定的に供給しているそうです。

「どんな海藻の種苗でも作れる技術が僕らの強みです。各地のローカルな海藻を採取して種苗を作り、地元の漁師さんと連携して海で栽培するという方式で生産拠点を増やしています。今、磯焼けにより天然の藻場が減っています。全国に海の森を作っていくことで海の生態系を豊かにしていきたいです」(友廣)

シーベジタブルのユニークな点は生産拠点を増やしていく一方で、消費の促進のための新しい海藻食文化にも取り組んでいるところ。シーベジタブルには有名レストランINUA(現在は閉店)出身の料理人が在籍し、海藻を使ったレシピ開発に取り組んでいます。

この話を受けてセッションの話題は「地域×食ビジネスにおける料理人の関わり」に。シェフであり数々の話題の飲食店を手掛けるプロデューサーでもある森枝幹氏は、CCCのソーシャルプロジェクトとして取り組んだ「五島の魚プロジェクト」についてお話してくださいました。

「五島列島で漁師に話を聞いていると、さまざまな理由で市場に流通していない未利用魚があることがわかりました。なかには臭いやくせが強い魚もあり、どうにかしてそれらの魚を利活用できないかと地元の練り物屋さんと共同開発したのが『五島のフィッシュハム』でした。CCCのビッグデータを活用して、売り場や売り方の提案まで行いました」(森枝)

未利用魚と料理人の感性とテクノロジーが合わさることで、新たな市場が生まれた事例。木村元紀氏は、2人の話を受けて「開発したレシピが誰もが知っている国民的レシピになれば、ロングテールのビジネスになっていく可能性がある」と語りました。

地域の魅力を語る上で外すことのできない「食」。今回のセッションで語られた事例のように、これまでの枠組みから視点を変えてみれば、まだまだ地域の食ビジネスには変革の余地が多いに残されているのかもしれません。

関係人口の価値を問い直す:本当に「観光以上移住未満」で良いのか?

登壇者プロフィール

平林 和樹(株式会社WHERE 代表取締役)
脇 雅昭(よんなな会発起人 / 神奈川県理事)
古里 圭史(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授)

総務省のHPに記載されている関係人口の定義は「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」。

関係人口の定義と価値を改めて問い直す本セッション。古里圭史さんは「一般的な関係人口は移住か観光かというレイヤーで話されることが多い」と前置きした上で、「僕は地域とビジネスレイヤーのつながりをつくるように意識している」と語りました。地域外のビジネスレイヤーの人が地域と関わることで具体的なアクションにつながるのだそう。

全国の公務員がつながる「よんなな会」の発起人である脇雅昭氏は、「関係人口が地域を活性化させることもあれば、地元の住民と温度差が生まれてしまうこともある」とした上で、古里氏が語ったビジネスのつながりについて次のように話します。

「よんなな会としては企業版ふるさと納税のマッチングをしてこうと考えています。よんなな会には約1200の自治体の公務員の悩み事、つまり課題が集まってきています。地域の課題とビジネスを上手く融合させる仕組みからコミュニケーションが生まれる。地域との関係性をつくる新しい切り口になるのではないでしょうか」(脇)

地域コミュニティメディア「LOCAL LETTER」を運営する平林和樹氏は、「地域の課題は地域外のクリエイターにとっては宝の山だ」とした上で、クリエイターを上手く活かすために地域側は課題の解像度を上げるべきだと語りました。

質疑応答の時間にも関係人口をめぐる議論は白熱。関係人口のハブになるコーディネーター人材の育成について、3名が自身の経験やノウハウを踏まえながら「小さなステージを階段のようにたくさん作るのが大切」「すべての自治体でコーディネーターを育成するのは難しい。コーディネーターと地域のキーマンでペアを組むべき」「コーディネーターはお金にならない。幸福度と信頼残高だけが貯まっていく」などの意見が聞かれました。

セッションの最後には「関係人口を違う言葉で表すと?」という難しいお題に対して、「関係人口2.0、新関係人口」(脇)、「応援人口」(平林)、「コミュニケーション人口」(古里)、「友だち人口」(山本)と登壇者がそれぞれの見解と共に回答しました。

令和からの日本農業の戦略:「稼ぐ農業」その経営の実践

登壇者プロフィール

岩澤 脩(株式会社UB Ventures 代表取締役 / マネージング・パートナー)
齋藤 潤一(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事、AGRIST株式会社 代表取締役)
針生 信洋(株式会社舞台ファーム 取締役)
内藤 祥平(株式会社日本農業 CEO)

本セッションでは、農業界の革命児とも言うべきメンバーにお集まりいただきました。皆さんが共通しておっしゃるのが農業は「儲かる」ということ。農業のビジネスとしての可能性に迫ります。

アグリテックのスタートアップを経営する齋藤潤一氏は「難しい」「高齢化」などの農業にまつわる固定観念を真っ向から否定します。

「農業はそんなに難しくないし、すでに若い人たちがいろいろな携わり方をはじめている人気産業でもあります。今まさに入れ替わり時期でチャンスと言えます。うちも農業ロボットの会社ですが、農業への関わり方は多様化してきていると思います」(齋藤)

グループ連結売上が年間38.8億円という舞台ファームの取締役を務める針生信洋氏も農業は「チャンスしかない」と語ります。舞台ファームの美里グリーンベースは1日4万株ものレタスを収穫できるレタス工場。年間を通じて生産性高く収穫できる仕組みを整えており、天候の影響で露地栽培が不作の年でも安定供給が可能なのだそう。

一方、海外からの需要に目を向けているのが日本農業の内藤祥平氏。日本の農産物をアジアマーケットに輸出していくことを主軸の事業としています。

「アジアは人口も増えていますし、一人あたりの所得も増えていますから、日本の美味しい農産物が欲しいという需要も高まっています。しかし、アジアマーケットでシェアを獲得するためには、安価な中国産や大規模農業を展開するアメリカ産やオーストラリア産と戦わなくてはなりません。そのためには日本産の品質と海外農業の効率性をかけ合わせて生産性を一気に上げるイノベーションが必要です。しかし、海外では当たり前に行われているのに日本では手つかずだったアップサイドが実はたくさんあるのです」(内藤)

農業の生産性向上と言うと、真っ先に挙がるのがスマート農業の導入。針生氏はスマート農業の現状に「手段と目的がすり替わっている」と語ります。

「農業IoTなど、スマート農業をすること自体が目的になっているように感じます。まず最初にDXで目指すべきは農家と農家をつなぐことです。一人の農家が生産できる量は限られています。農家がつながり農業法人を大きくしていかないと、大手のバイヤーは買ってくれません」(針生)

最後のテーマは「業界を変えていくためにどのような人材が必要か」。内藤氏は農業には研究者もブランディングをする人も、多様な人材が必要だとして、「優秀な人が集まり、チャレンジすれば必ずバリューは出せる」と話します。

齋藤氏もこの意見に同意。さまざまな職種が農業とつながっており、もっと気軽に農業に関わる人が増えて欲しいと語りました。

針生氏はこの話を受けて農家の立場から次のように話しました。

「農家は作物を作っているだけじゃ駄目。マーケティングも物流もわかっていなければなりません。農家は百姓、100の仕事ができるのが農家です。どの仕事が起点になって農業をスタートしてもいいと私は思います」(針生)

地域産業の未来:産業観光とワーケーションの新局面

登壇者プロフィール

岩田 真吾氏(三星グループ代表)
島⽥ 由⾹氏(一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会 代表理事、株式会社YeeY 共同創業者 代表取締役、アステリア株式会社 CWO(Chief Well-being Officer)
三谷 航平氏(北海道上川町役場 東京事務所ゼネラルマネージャー / NewsPicks Re:gion Picker)

「産業観光とワーケーションの新局面」というテーマの本セッション。前半は3名の登壇者のそれぞれの地域での取り組みが紹介されました。

三星グループ代表の岩田真吾氏は世界三大毛織物産地である尾州の事業者と共にオープンファクトリーイベント「ひつじサミット尾州」を開催。3万人超の来場が訪れ、1000万円以上の売上を記録する産業観光の一大イベントへと成長しました。

島田由香氏は和歌山県のみなべ町とすさみ町で「一次産業ワーケーション」を推進。都市部で働く人たちが集まり梅農家の収穫を手伝う「梅収穫ワーケーション(通称:梅ワー)」は1年目にして240人が参加する盛況ぶり。さらにTSUNAGUプロジェクトとして、地域の関係人口創出を目的とした人材育成プログラムも実施しています。

「梅ワーはウェルビーイングが上がる5つの要素をすべて満たしてくれます。ウェルビーイングが高い人は生産性が高く、レジリエンスにも強くなる。なので、企業として研修に利用してもらえると効果的なんです」(島田)

岩田氏と島田氏の取り組みはいずれも民間が主導でスタートしたプロジェクト。三谷航平氏は公務員の立場から「行政は単年主義なので、2年連続して事業に取り組みことが難しい。島田さんたちのような人が地域の熱量を高めて自走できる状態になっているのは、まさに理想だと思います」と話しました。

三谷氏が勤める上川町役場は人口約3,000人の町にも関わらず、名だたる企業との官民連携プロジェクトを推進していることで話題の自治体。現在は観光客を受け入れる側も豊かになれる、企業との共創型の観光ワーケーションに取り組んでいるそうです。

岩田氏と島田氏は三谷氏のことをリスペクトを込めて「変態公務員」と呼び、「自治体のなかに三谷さんのような方がいると早いし、深い」と語りました。

後半は会場からの質疑応答の時間。プロジェクトを進めるお金についての質問に対して島田氏は「無償でやることにコミットしています。でもお金が増えればやれることは増える」と話しました。

三谷氏は「大手企業にどのような地域への関わり方を期待するか」という問いに対して、「大企業の若手に予算をつけてもらい、その若手と一緒に共創して新規事業を作りたい」と話します。

地域活性化プロジェクトのKPIの話になると島田氏は「KPI一辺倒になることには疑問がある」と語気を強めます。

「地域活性化はやろうと思ってやるものじゃないと思うんです。私は自分のウェルビーイングを追求した結果、地域活性になっていたという感じ。もしあえて指標を設けるのだとしたら、それはウェルビーイング指標じゃないかな。ひと言で言えば、町が『なんか良い感じ』になっていればそれでいいと思っています」(島田)

ローカルビジネス革新論:「地方では儲からない」は本当か?

登壇者プロフィール

林 克彦(株式会社勝毎ホールディングス 取締役社長)
上間 喜壽(株式会社上間フードアンドライフ 代表取締役会長 / SCOM株式会社取締役)
瀬﨑 公介(株式会社シークルーズ 代表取締役、球磨川くだり株式会社 代表取締役)

地域で成長曲線を描く企業経営者3名を迎えた本セッションでは、経営環境としての地域の課題と可能性について議論が交わされました。

一般論として地域での人材確保の難しさについて言及したのは、熊本県・上天草市を拠点に遊覧船・定期船の運航、観光施設の運営などを手掛ける瀬﨑公介氏。しかし、「きちんと給与を高く設定すれば、集まる企業には集まる」と語ります。

ローカルフードの沖縄天ぷらのお店を展開する上間喜壽氏も同じく「給与を上げれば応募は来る」と言います。

「沖縄は所得の低さが社会問題になっています。でも、経営者が給与を上げると決めればいいだけなんですよ。固定費を上げるのは慎重になるべきと言われたりもしますが、それに合わせて粗利も増やせばいい。地方の経営者はそのロジックを持っていないことが多いと感じます」(上間)

北海道ホテル社長で十勝のサウナブームのし掛け人でもある林克彦氏は、人材について「コロナ禍に30人採用したけれど、パワポを使えたのは1人くらい。受け身で、プレゼンしたり顧客を創造しようという考えがなかった」と話します。林さんはそこで徹底的に人材育成に力を入れることに。その結果、現場に権限委譲することが可能になり、利益率が上がったことで、給与も上げられるようになったそうです。

次のテーマは「経営環境としての地域の可能性」。上間氏は自社の強みをローカルの文脈を理解していることだと分析。現在、沖縄県のファミリーマート全店で上間天ぷらが販売されている経緯について、沖縄ファミリーマートのローカル戦略に合致したと語ります。

林氏もまた、北欧視察後にフィンランド式サウナを導入したことでサウナブームの火付け役となった経験から「これまでの北海道は東京を真似ることが多かったけれど、うちは北欧をターゲットにしています。北欧と十勝は環境が似ているんですよ」と地域に合った戦略を選択することの重要性に触れました。

瀬崎氏は「どんぶり勘定で商売をしている人がとても多く、勉強もしていない。逆に言えばそれを改善できれば、一気にぶっちぎりになれる」と経営者の質的向上の必要性を説きます。

最後に「地域で事業を成長させるためのキーワード」として、瀬崎氏は「地域で仲間を作ること」を挙げます。自社と仲間の地場企業で地域に60億円の投資をしている事例に触れ、「民間が積極的にアイデアを出して投資をすれば、地域はどんどん良くなる」とまとめました。

林氏もこれに同調し、自身がガーデン街道やフィンランド式サウナの地域連携をリードして、メディアやSNSで話題化させた事例を紹介。「地域で感動を創出する」ことが重要だと語りました。

上間さんは改めて「経営者がきちんと経営すること」を挙げ、職人や営業マンが経営者になり、本来の意味での経営をしていないケースが多いと指摘しました。

3名に共通したのは地域におけるビジネスの実践者だからこその地域の経営者への厳しい視点とマインドセットを変えることの必要性。経営者が真っ向から経営に向き合うことで、まだまだ地域企業には成長の余地があるのだということが感じられました。

地方企業の起爆剤:経営人材の“地方複業“がビジネスにもたらすもの

登壇者プロフィール

坂本 大典(株式会社チイキズカン 代表取締役)
山中 大介(YAMAGATA DESIGN株式会社 代表取締役社長)
永田 暁彦(株式会社ユーグレナ 取締役 代表執行役員 CEO、リアルテックファンド 代表)

地域の人材をテーマにした本セッションでは、冒頭山中氏が自身の経営するYAMAGATA DESIGNを引き合いに従業員120人を採用できた理由として「純粋にやっていることが面白い」「(情報の)発信・リーチできている」と語りました。

2030年までに100億円企業を目指しているという山中氏は農業・観光などの地域産業のポテンシャルは非常に大きいと話します。永田氏も「日本のGDPを支える、外貨を稼ぐ大企業のほとんどは地方から生まれている」と指摘します。

話題が都市部と地域の人材の質の話の及ぶと永田氏は「正直、人は東京」と語ったのに対して、都市部の経営人材の地方複業を推進している坂本氏は「副業可の会社は50%以上あるけれど、副業を受け入れている会社は10%程度。そこのギャップを考えれば地域企業は副業を活用すべき」という持論を展開。

都市部と地域の人材の質の差について山中氏は次のように話しました。

「多くの地方の人にとって、仕事は単純作業。仕事は想像力だと言ってくれる人がいなかっただけ。YAMAGATA DESIGNは経営管理本部長、経理部門長、人事部門帳も高卒で、とても優秀です。高卒でも仕事は想像力だと言って登用しています」(山中氏)

地域でスタートアップすることの弊害という話題では、永田氏は「相対比較するものがなくて、お山の大将化しやすい」ことを挙げます。

「東京で5000万円の資金調達をしても誰も振り向かないけれど、地域だとそれが1つのニュースになる。地域を元気にするためには地域の企業に外貨を稼いでもらわなくちゃいけない。そのために戦う相手は地域内ではありません。自社の相対評価ができていないために、成長への期待を文化として持てないと、それは大きなリスクになります」(永田氏)

山中氏は山形県の庄内でゼロからスタートアップをはじめて9年。その経験を経て、ある仮説に行き着いたそうです。

「坂本さんと初めてあったときに盛り上がったんですけれど、この9年で遠回りしたと思うこともあって、地域の有力企業がマインドを変えて、ベンチャー化した方が早いのではないかと」(山中氏)

山中氏と坂本氏は2023年4月に共同で株式会社チイキズカンを立ち上げました。経営人材に新たなキャリアの選択肢を提供して、地方企業の経営力を強化することで、日本を代表する地域企業を生み出すという同社の事業は、地域の有力企業をベンチャー化するという取り組みを体現するもの。

また、永田氏が代表を務めるリアルテックファンドでは、世界を見据えた地域発スタートアップへの積極的な投資を行っています。

地域に「人材」「資金」が回ることで、これからさらに地域での起業・経営が面白くなっていくことを期待したいですね!