地域の未来を担う「民間事業」はいかにして生まれるのか?
さまざまな民間サービスの選択肢がある都市部。一方で都市部から離れるほどに、行政のサービスの重要性は高くなり、それなしでは立ち行かない地域もあります。財政破綻が懸念される地域もあるなか、いかにして地域に事業を生み出し、持続可能にするのでしょうか。また、「公」と「民」はどのように振る舞えばよいのでしょうか。
3月17日に開催された「POTLUCK FES」Business Stage03では一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 木下斉氏、株式会社リ・パブリックの田村大氏が登壇。NewsPicks Re:gion 編集長の呉琢磨がモデレーターを務め、「公民連携の基礎演習、創発を生む越境の条件」というテーマでディスカッションしました。
プロフィール
木下 斉(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事)
田村 大(株式会社リ・パブリック共同代表)
呉 琢磨(NewsPicks Re:gion 編集長)
行政に「公」を任せきりだと、地域は立ち行かなくなる
これまで当たり前のように享受していた行政によるサービス。しかし、それが当たり前ではない地域が生まれはじめています。木下氏は改めて「公」「民」の本来の役割について触れ、「民」がアクションすることの重要性に言及しました。
木下氏:一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスで、地域活性化に取り組む団体と連携して新規事業モデルの開発などを行っています。ここ8年くらいは、公民横断して地域を動かす人材を育成する都市経営プロフェッショナルスクールの運営もしています。
「公とは何か?」を改めて考えてみると、パブリックというのはもともと「民」で担うものでした。昔から学校やインフラなど、地域で必要なものはみんなでお金を出し合ってつくってきたわけです。
それがあるときからガバメントの仕組みができ、我々民間人はほとんどの業務を行政にアウトソーシングするようになりました。かつては「公」を支えていくために必要なものはお金も人も自分たちで出し合うことが普通だったのが、行政が担うようになったことで、陳情や文句を言うことはあっても自分たちではやらなくなったんです。
ところが、財政が悪化してくると、自治体は要請に対応してくれなくなります。すると、住民同士で協力してやっていかざるを得なくなる。例えば、鹿児島県のある地域では自治体による水道管の維持が難しくなり、地域住民が昔ながらの組合水道を復活させて、自分たちでメンテナンスして使っています。このように、個人が「公」に関わっていかないと生活できない領域は今後増えていくと思います。
田村氏:リ・パブリックという会社で都市デザイン、地域の課題解決、コミュニティ作りに取り組んでいます。地域や事業が持続的に続いていくためにはどうすべきかを考え、未来を作っていく活動をしています。
個でお金を出し合って「公」を支える一例として紹介したいのが、福岡市の救急車です。救急車は自治体が購入するケースが多いですが、福岡市を走るすべての救急車は個人から寄贈されたものなんです。寄贈した人は自分の好きな名前を付けることができるので、「寄贈したい」という人もそれなりにいる。これも公民連携のひとつかもしれません。
企業は地域に「売る」のではなく、産業を「つくる」べき
「公民連携」の「民」の担い手には個人だけでなく企業もいます。では、企業が「公」と組んで地域の課題を解決しながら収益を出すためには、企業側にどんな視点が求められるでしょうか。木下氏、田村氏は次のように見解を述べました。
木下氏:企業が地域で事業に取り組む際、単独で儲けを出せるケースもありますが、それだけでは限界があります。
例えば、商店街の中で1つのビルや店舗だけで儲けるのは難しいんです。儲けを出すためには立地が良いことが必須。そのためにはエリア自体が魅力的でなければなりません。つまり、エリア全体を改善していく必要があります。
企業が地方でビジネスを展開する場合も同じ。今ある市場規模の中でシェアを取り合うビジネスだけではなく、長い目で見てマーケット自体を大きくしたり、新しいことに取り組んだりすることが求められます。課題だらけの地域で、立地そのものの基本条件を変えるような事業をすることが大事だと思います。
地方でビジネスを展開することは、東京のような大都市圏で行うよりも難易度は高くなりますが、その分ハイリターンを狙うことも可能です。大企業こそ、困難なところで勝負してもらいたい。資本力とポジションで楽勝できるところで商売をしているだけでは、企業は市民になれません。
田村氏:今まで企業は都市とは関係なく、グローバルにオペレーションして世界に同じものを届けることで競ってきました。しかし、今後はそれだけでは難しくなります。
背景にあるのが、都市への人口集中です。「2050年までに世界の人口の75%が都市に住む」と予測されており、今後さまざまな問題が出てくると言われています。また、近年は脱炭素への動きが加速し、循環型の都市づくりが求められるようになっています。
こうした中で、企業は、都市の中でどうやって循環を生み出し、経済圏をつくっていくかを考えなければなりません。
自社のプロダクトやサービスを地域に売りに行くのではなく、大事なのは地域の産業やビジネスをつくること。どういう事業を立ち上げるかを含めて、地域と一緒になって取り組んでいくことが必要です。
リスクを取らなければPoCの先には進めない
大企業が新規事業創出に取り組むも、なかなか成果が出ないこともあります。なぜうまくいかないのか。企業が地域に入り込むために足りないものについて、2人は次のように語りました。
田村氏:ありがちなのは、「PoC地獄」と言われるケースです。「自社サービスをこういうケースに使えるのでは?」と仮説を立てて、自治体にお金を出してもらって実証実験まではしたけれど、そこから先に進めないという話。こういったケースは山のようにあります。
実証実験で終わってしまう企業はそれ自体がゴールになっていて、本気で事業化する意志がないのだと思います。こういうケースでは投資の回収効率がとても悪い。PoCに精を出すメーカーの方に話を聞くと、提携する自治体から回収する予算だけでプロジェクトが打ち止めになってしまうため、開発にかけたお金を全然回収できず、先に進めないケースが多いそうです。これが経営課題になっている。
実証実験の先に進むためには、企業がリスクを取って本気で事業化をする意志を持つことが必要です。地域の中にきちんとエコシステムをつくることができれば、小さなローカルビジネスが大きく育つ可能性もあります。
一方で、自治体側もリスクを取ることを嫌がるところが多い。地域を変えるためには時にラディカルな決断をする必要がありますが、お茶を濁すような消極的チョイスをしがちです。地域を変えるためには自治体もリスクを取らなければなりません。
例えば、27品目にゴミを分別し、「リサイクル率日本一」の町と讃えられる鹿児島県大崎町。当初は面倒なリサイクルを推進する役場に対して反対の声も大きかったそうですが、結果的にゴミ処理コストが下がり、浮いたお金を使って地域の子どもたちが進学する際に奨学金を出しているんです。
反対されても必要なことをやっていくという決断をして、公益性の高い制度設計をすることで、結果的に住民の理解が進み、町が変わった事例だと思います。
木下氏:地域で事業がうまくいかない企業は、人の金ではやるけれども自社の資金を使って投資をする意識があまりないのだと思います。地域に自社のプロダクトを売りに行き、1件決まっていくらかお金を得たら終わり、というケースになってしまっている。地域のお金を使って営業するという設定の地域事業になっているために、市場への再接続ができないんです。
企業が自分たちで投資して事業を立ち上げれば、きちんと投資回収できる仕組みをつくります。いきなり大きな開発に投資となるとリスクは大きいですが、そのもっと手前の部分で地元の企業や自治体と連携する方法はあるはず。それを見つけるために、まずは人材に投資することが必要だと思います。
会社から「何か地域で新規事業をつくってこい」と急に言われても、簡単にできるものではありません。
社内で意欲の高い人が新しい分野を学び、全国に人脈をつくったうえで、会社の看板ではなく個人として地域と関係性を築き、事業計画を立てるくらいのことをしないと、本当の意味で地域に入り込んで事業を進めることはできないと思います。
地域の未来をどうつくっていくか
トークセッションの最後のテーマは「地域は誰のものか」。田村氏、木下氏は共に「地域は地元住民だけのものではない」と語り、地域の未来をつくるために必要なことを語ってくれました。
田村氏:私自身、福岡に住んで、まもなく10年になりますが、今でもよそ者だと感じています。地域によっては何世代も住み続けなければその土地の人にはなれないという話も聞きますが、この閉鎖性は人口減少に直結します。
地域がどうやって未来をつくっていくかを考えるとき、同時にどうやって地域を開いていくかを考えることも大切です。
この点でうまくいっているのが大分県別府市です。もともと港町であり、観光都市なので、外から来る人にわりと免疫がある地域です。ここに15年ほど前にアーティストを呼び込むNPOができて、アートを中心にした街づくりに取り組んできました。当初は地元住民の反発も大きかったそうですが、結果的に外の人を交えてアートで街を盛り上げることに成功したのです。
新しい取り組みが良い結果をもたらすまでには時間がかかるし、痛みも伴います。地元住民は変化を避けたい気持ちはあるかもしれませんが、変わらなければいつか街がなくなってしまいます。だからこそ、未来に向かってどんな決断をするが大事なポイントだと思います。
もう1つ、地域の未来を考えるときに大事なのは、受け継ぐという概念です。何か受け継ぎたいものがある地域は、やっぱり元気です。美しい景観だったり、地域で助け合うコミュニティだったり。受け継ぎたいものがあって、受け継げる仕組みやカルチャーがある地域はこれからも発展していくと思います。
木下氏:地域は住民だけのものではないと思います。住民は一番の利害関係者ではあるものの、東京に住んでいる人も地方交付税を負担し、地方向けにお金を出しています。関与の濃淡はあるものの、関わる機会が失われているわけではありません。
地域というのは、未来のためにあるものです。だからこそ、何かに取り組むときに私たちは「子どもや孫にこれを残したいか」という意識を持たなければいけないと思います。
未来のために今何をするかを決めるのは、未来を生きる子どもたちではなく上の世代です。だからこそ、自分たちのために何をするかではなく、「未来に向けてこの町をどうするのか?」という目線を持つことが大事。
地域の未来を一緒に考えることができるのであれば、それが個人か企業か、内の人か外の人かは些末な話で、前向きに良い協力関係を結ぶことができるのではないでしょうか。