Bリーグから、デザイン、アカデミアまで。「地域経済」の最前線に学ぶ白熱セッション5選
9月29日に開催された、地域経済の実践者が集う祭典「POTLUCK FES 2023 Autumn」。さまざまなテーマで実施された15セッションを3回にわたりダイジェストでレポートしていきます。
第1回は「スポーツ」「デザイン」「ファイナンス」「公民連携」「アカデミア」の5つのテーマのトークセッションをお届けします。
「地域密着から地域愛着、そして地域創生へ。Bリーグの「ココロ、たぎる」挑戦。」
登壇者プロフィール
島田 慎二(公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ チェアマン(代表理事CEO)/公益財団法人日本バスケットボール協会 副会長)
2023年は沖縄でワールドカップが開催され、大いに盛り上がったバスケットボール。日本のプロバスケットボールリーグであるBリーグは2026年に10シーズン目を迎えるにあたり、「B.革新〜世界一型破りなライブスポーツエンタメ〜」を合言葉に改革の最中にあります。
リーグが開始した2016年から昨シーズンまでに、入場者数は224万人から320万人に、全クラブの総収入は196億円から435億円に成長しました。B.LEAGUE チェアマンの島田慎二氏は成長の要因として「若年層・女性層のファンの多さ」「光と音による会場の演出」「SNSをはじめとするデジタルの積極的活動」などを挙げます。
「B.革新」ではB.LEAGUEの単年の競技成績による昇降格制度を廃止して、「売上12億円」「入場者数4000名」「収容人数5000人以上等の基準を満たすアリーナ」等を新B1リーグへの参加条件と定めました。その背景には、チームの勝敗に経営が左右されるのではなく、地域に根ざしたビジネスモデルに転換することで、持続的な事業投資を促進する狙いがあります。
B.LEAGUEでは現在の「B1」「B2」「B3」というカテゴリを「B.PREMIER」「B.ONE」「B.NEXT」というカテゴリに変更。B3も含めて全国56クラブを上記のような基準に沿って各カテゴリに振り分け直すそうです。
島田氏は「B.革新」を成功させる鍵として「クラブの経営力」を挙げます。
「クラブの経営力なくして地域を盛り上げていく活力にはなり得ません。まずはクラブの経営が大事。勝敗で盛り上がるだけではなく、社会に本当に必要とされていないと、スポンサーもいつまでも応援してくれないでしょう」(島田慎二氏)
「B.革新」の先に描く世界観。その1つとして島田氏は「地域創生リーグを目指す」と語ります。子育てファミリー、学生、若者、働き世代、シニア、インバウンドなどのターゲットゾーンに対して、各地域でイベントや居場所づくり、セミナーなどさまざまな企画を実施していくそうです。
質疑応答の場面では「地域を巻き込んだ取り組みをしているチームは?」という問いに対して、茨城ロボッツが地元ラジオ局の茨城放送をM&Aして、町の中心部にカフェを開業した例や、サッカースタジアムとアリーナーと商業施設を併設する長崎ヴェルカの本拠地・長崎スタジアムシティなどの例にふれました。
全国に展開するBリーグのチームが、スポーツの枠組みを越え、地域活性化の一丁目一番地になる日がやってくるのかもしれません。
「地域経済創発の“両輪”を考える:ビジネスと「デザイン」をめぐる展望」
登壇者プロフィール
田村 大(株式会社リ・パブリック 共同代表/株式会社UNAラボラトリーズ 共同代表)
嶋田 俊平(株式会社さとゆめ 代表取締役社長)
新山 直広(TSUGI 代表/SOE 副理事/クリエイティブディレクター)
福田 まや(星庭 代表/テンポラリ耶馬溪 代表/アートディレクター・デザイナー)
地域でビジネスをするにあたって、どのような人材が必要になるのか。嶋田俊平氏は数々の地域で事業を起こしてきた経験をもとに、必要とされる役割と事業フェーズについて持論を語りました。
「過去のプロジェクトに参加したメンバーがどのような役割を担っていたかマトリクスにしました。
横軸はコンセプトや収支計画を考えるような構想者、空間やツールなどを手掛ける製作者、毎日お客様をお迎えして、少しずつサービスのクオリティを上げていくような運営者。構想者、製作者、運営者は人種が違い、互いに役割を変わることはできません。
縦軸はコア、バッファ、ディテール。コアはコンセプトレベルで、ディテールは細部まで神を宿らせるようなイメージ。ディテールはその間に落ちているボールを拾うような役割です。
この3×3で生まれる9つの職種が地域の事業には必要です」(嶋田氏)
「さとゆめでは事業を3つのフェーズで考えています。その時々で人材には異なる素養が求められます。Aの段階では地域に寄り添い、ボランティアに近い精神が必要だし、Bでは予算、スケジュール、品質の管理などのコンサル的な素養が必要です。Cではファイナンスへの理解や不屈の精神など事業化的な素養が必要になります」(嶋田氏)
この嶋田氏の持論に新山直広氏も同調しながら、普段スポットライトの当たらない人材の重要性について語りました。
「地域プロデューサーやデザイナーのような役割にはスポットライトが当たるけれど、僕はその“側の人”が重要だと思っているんです。鯖江には最近『なんか面白そうだから来ちゃいました』みたいな暇人が移住してきたりするのですが、そういう人は町の人から『ちょっと手伝ってよ』と引っ張りだこだったりするんです。意外とそういう“側を支える人材”が地域には必要なんです」(新山氏)
次にファシリテーターの田村大氏が投げかけた問いは「地域外の企業が地域に欠かせいないプレイヤーになるためには?」。
新山氏は地域のキープレイヤーを見つけ、そのプレイヤーに地域とつなげてもらうことの重要性を語ります。
福田まや氏は自らの地域のキープレイヤーの役割を「翻訳家」に例えました。
「私もそうなりつつあるんですけれど、翻訳家にならないといけなくて。自分たちがやりたいことを上手く噛み砕いて話すことも大事だし、相手の思いをしっかり聞くことも大事。でも聞いちゃいけないこともあって、そこのさじ加減を上手くできる翻訳家が地域にいると、何かが生まれるきっかけになるのかなって」(福田氏)
「地域金融システムを更新する:ファイナンスが地域経済創発で担う役割」
登壇者プロフィール
村上 誠典(シニフィアン 共同代表)
福留 秀基(スパークル株式会社 代表取締役)
田淵 良敬(Zebras and Company 共同創業者・代表取締役/米国Zebras Unite 役員理事)
冒頭、ファシリテーターを務めた村上誠典氏は、地域経済はGDPベースでは小規模である一方で、地域には東京にはないアセットが数多くあると、その可能性について言及しました。
そんな地域経済を巡る課題の1つとして福留秀基氏は「価値観の固定化」を挙げます。東京は成長したり夢を持つ場だという価値観がある一方、地方は牧歌的だという価値観。それが地域経済の妨げになっていると言います。田淵良敬氏もジェンダー問題を例に地域の価値観の固定化について賛同しました。
そしてさらに福留氏と田淵氏の両名がもう1つ課題として挙げたのが地域に入ってくる資金の少なさです。
「地域はリスクマネーが少ない。いわゆる融資に慣れているところがあって、エクイティファイナンスへの腰が重くなっているように感じます。成功体験がないために、やっても意味がないのではないかと考えてしまうのです」(福留氏)
「僕も地域に入ってくる資金自体が少ないのは問題だと思います。その理由を考えると、地域では結果が出るのに時間がかかる事業が多い。そこに既存のベンチャーやスタートアップの金融ロジックをあてはめようとしても上手くいかないからなんですよね。そこはもっと柔軟に地域での成功は何か、どんなお金の出し方が合っているのか考えるべきだと思います」(田淵氏)
村上氏は2人の意見を受けて、既存の金融システムに当てはめるのではなく、地域の事業を個別で評価していき、その成功を評価できるフレームワークを1つずつ作っていくべきだとまとめました。
では地域における事業の成功とは?
「事業の社会的インパクトを見える化して、世の中に伝えていくことが大切です。また、必ずしも成功は1つの会社だけのものでは無いと思います。事業の結果、地域自体が盛り上がって、次世代に継続していく。そんな地域の成功もあるでしょう」(田淵氏)
東京的な価値観に基づけば、事業はスケールするものではなくてはなりません。しかし、地域の事業は必ずしもスケールを目指すだけが正解ではないというのが田淵氏の考えです。そしてその考えに村上氏も同調します。
福留氏は逆の視点で、地域でも事業をスケールさせられる可能性はあると語ります。
「地域の課題ってすごく良く似ています。個別の地域で課題を解決できれば、同じことに悩んでいる地域が全国にたくさんある。それはスケールメリットになるんじゃないかと思います。都会偏重とはいえ、GDPの半分は地域なんです」(福留氏)
公民連携のススメ
登壇者プロフィール
木下 斉(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事)
入江 智子(株式会社コーミン 代表取締役)
飯塚 政雄(八幡開発株式会社 代表取締役社長)
中川 健太(岡崎市役所まちづくり推進課 QURUWA戦略係/NPO法人自治経営東海アライアンス 代表/株式会社南康生家守舎 メンバー)
行政と民間事業者が連携して市民サービスを提供する公民連携。全国で公民連携事業が増えて注目を集めている一方で、政治などが複雑絡んでくるため、推進にあたってはさまざまな壁が立ちはだかります。
公民連携の実践者が集った本セッション。ファシリテーターを務めた木下斉氏は、「死の谷」という表現で、公民連携に立ちはだかる壁について参加者に尋ねました。
大阪府大東市において公民連携で市営住宅を建て替え、住宅及び生活利便施設の整備を推進した入江智子氏は、資金調達の難しさを挙げます。
「私は元々大東市の職員で、その頃は計画を立てて議決されればお金は出てくるという感覚でした。民間事業者になり、金融機関から融資を受けなくてはならなくなったのですが、設計も終わり、施工業者が決まって仮囲いまでできたのにまだ融資が決まらない。そこは地獄でしたね」(入江氏)
資金調達には苦労したが、テナントはスムーズに決まったという入江氏。一方で、新潟県柏崎市で商業施設「ハコニワ」を運営する飯塚政雄氏は、融資には困らなかったものの「テナントが決まるまで10カ月ほどかかった」とその苦労を語ります。
岡崎市の職員として公民連携まちづくり「QURUWA戦略」を推進する中川健太氏は、「死の谷」を「市長交代」としました。
「QURUWA戦略を作った市長が交代することになってしまって。市長が変わるとこれまで推進してきた取り組みが方針転換されてしまうことがあります。新しい市長の方針にあったアプローチをして、なんとか一部のプロジェクト変更に留めることができました。地域の自治会の方等が後押ししてくれていたのも大きかったと思います」(中川氏)
木下氏は市長交代を「公民連携の一番のリスク」と語り、「地元の声を味方につけることが重要」と応じました。
会場からの質問で、話題は「行政が果たすべき役割」に。大東市が公民連携事業の民間提案制度を条例化したことを例に規制緩和や規制制度とする一方で、登壇者からは民間にすべてを押し付けるような公民連携への危機感の声が聞かれました。
木下氏は公民連携でよく行われる公設民営の座組について「民間が努力しても黒字化しようのない施設を建ててしまう」と語り、「民設民営で必要なときだけ行政の手を借りる方が健全化する」と持論を述べました。
成功のための定型化したスキームやフレームワークは存在しないという公民連携。それぞれの地域、それぞれの実践者なりのリアルなアプローチが学べるセッションとなりました。
アカデミアは地方の未来に何を実装できるのか。
登壇者プロフィール
西村 勇哉(株式会社エッセンス 代表取締役/NPO法人ミラツク 代表理事/大阪大学SSI 招聘教授)
越塚 登(東京大学大学院 情報学環 教授)
東京大学大学院 情報学環境 教授の越塚登氏は「高知県」「市原市」「横須賀市」「宇部市」「小田原市」「熊本市」「山江村」など、さまざまな自治体と連携した活動を行い、その中にはチャットGPT活用、AIによる農業収穫量予測、漁場予測システムなど、テクノロジーを活用したユニークな取り組みも。
このような産学での取り組みを推進する際、どのようにアカデミアに相談に行けば良いのでしょうか。
「僕は来るものを拒まず、去る者は追うというスタンスです。自分の興味があるかどうかではなく、自分に相談が来たからには何か意味があるのだろうと考えるようにしています。ナスの収穫量予測の話にしても、最初はまったく門外漢の話でした。同じような感覚の先生は多いのではないでしょうか」(越塚氏)
大学の先生となると、一般的には専門家のイメージが強く、相談内容が専門外のことだと失礼なのではと、二の足を踏んでしまいがちです。しかし、越塚氏は「地域課題に専門家はいない」と語ります。
「『これ先生のすごい技術で解決できませんか』と言われることが多いのですが、そんな技術は私にないし、どの先生に聞いてもないよと思うのが正直なところです。地域の課題は多様です。前提も、地域の人間関係も、キーマンも、全部違う。だから厳密には地域の課題を一発で解決できる魔法をもった専門家なんていないんです」(越塚氏)
それゆえ、相談する際には信頼関係を醸成した上で「一緒に考えてください」というお願いの仕方の方が良いのだとか。そして意外にも相談は「大先生」にするべきなのだそうです。
「大学には若手から、お歳をとった先生まで、いろいろな先生がいらっしゃいますが、有名で忙しそうな先生だと断られると思うかもしれないけれど、逆です。若手・ベテラン問わず、大先生は新しい分野に興味関心を持って切り拓いてきたから、大先生になっているんです。
僕は昔地域の取り組みをしていたとき、いろいろ提案した末に『越塚さん、最後まで私たちが何に困っているか聞いてくれませんでしたね』と言われたことがありました。胸にグサッと刺さりましたよ。
ただ論文を書くだけでなく、そういう現場のことにも関心がある人がきっと大先生になっていく。だから大先生と仕事をするならば、そこに意味や価値があるネタを持ち込めるか。あとは地域においしいご飯があること。それが大切ですね」(越塚氏)