三井不動産

【Staple・岡】地域に資金を循環させる。まちづくりファンドで実現する新しい地域の生態系

2025.04.04(金) 15:37
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【Staple・岡】地域に資金を循環させる。まちづくりファンドで実現する新しい地域の生態系

徒歩20分圏内の小規模エリア「ご近所」で、地域の文脈や営みを再編集するまちづくりを行う、株式会社Staple。宿泊施設、飲食店など小規模な不動産開発を全国7地域で展開している。

2025年1月、Stapleは三井住友信託銀行と合弁で、投資ファンド運営会社「GOOD SOIL株式会社」を設立した。地域毎にファンドを組成し、地域の不動産開発における資金循環の新たな仕組みを構築。それを足場に、今後Stapleの開発エリアを全国20地域まで拡大していく予定だという。

同社の取り組みは地域活性の新たなモデルケースとなるのか。Staple/GOOD SOIL代表取締役の岡雄大氏に、GOOD SOIL設立の経緯と今後の展望を聞いた。

岡 雄大(おか ゆうた)

株式会社Staple/GOOD SOIL株式会社 代表取締役

岡山県生まれ、米コネチカットと東京で育つ。大学卒業後、不動産投資会社にて不動産やホテルブランドへの投資業務に従事し、シンガポールで独立。ホテルブランドへの投資戦略や経営企画のコンサルティングを行った後、2018年Stapleを開始。2025年三井住友信託銀行と共に、持続可能な地域創生を推進する投資ファンド運営会社GOOD SOILを設立。

風土や文化を学び、地域の魅力を再編集する

──まず、Stapleとはどんな会社なのか、教えてください。

Stapleは、まちの企画・開発・運営を一気通貫で行うソフトデベロッパーです。徒歩20分圏内の「ご近所」の中で集中的に不動産開発をすることで、世界の裏側からも訪れたくなるような地域づくりを行っています。

僕らがゼロからまったく新しいまちを作り上げるのではなく、地域の風土、文化などの文脈を学んだうえで、ある種語り部的な立ち位置で地域の魅力を再編集していることが特徴です。

現在は、広島県瀬戸田、東京都日本橋、神奈川県横須賀市の秋谷、北海道函館市、山口県長門湯本温泉、岡山県岡山市、群馬県水上市の7地域で開発を行っています。

開発地域は紹介がきっかけであることが多いですが、社員が旅行して気に入った地域でプロジェクトを立ち上げたケースもあり、一期一会の感覚で選んでいます。唯一の条件は、「我々にまちのことをきちんと任せてもらえる地域」であることです。

3/15に開業した山口県長門湯本温泉の「SOIL Nagatoyumoto」photo by Akira Sakuma
岡山県岡山市に4月にオープンする「C&C」photo by Hayate Tanaka
北海道函館市の「Portside Inn Hakodate」photo by Akira Sakuma

──なぜ、投資ファンドを運営しようと考えたのでしょうか?

Stapleは、新しいホテルを各地に一棟ずつ竣工していくのではなく、地域の「ご近所」圏内で集中的に不動産開発を行うことで、まちづくりをする会社です。

そこでは、ホテルなど利回りが高い事業だけでなく、地域の人や来訪者が利用する銭湯、飲食店に卸す食材を作る一次産業に関連する事業など、やるべきことがたくさんあります。今後は利回りが低い介護施設や学校なども手掛けたい。

そういったひとつの地域で開発していく「深さ」とさまざまな地域で開発する「広さ」を両立させようと考えると、それなりの資金が必要になります。

これまでは、銀行融資や補助金・助成金などで開発に必要な資金を賄っていました。ただ金融機関と話した実感では、Stapleの現状の規模では、20億円程度が融資の限界です。

一地域の開発ならそれでも足りるかも知れませんが、僕らが目指す20地域を同時開発していくことは難しい。より開発を加速させていくには、Stapleの取り組みに共感する人たちに出資してもらい、みんなでリスクを取り合う共感型のファンドという仕組みが必要だと感じていました。         

二層構造ファンドを活用し、地域内に資金を循環させる

──2025年1月に、三井住友信託銀行と投資ファンド運営会社「GOOD SOIL」を立ち上げました。設立の経緯について教えてください。

きっかけは、弊社のアドバイザリーボードの方にマッチングしていただいたことでした。三井住友信託銀行はグローバルネットワークも不動産、ファンド運営、資金集めのノウハウも持っています。地域創生の領域に活かしたいと思っていたけど、何から始めたらよいかわからない状況だったそうです。

それで約1年間、どういう形でファンドを立ち上げるのがベストかを議論させていただき、今回の取り組みに至りました。

──GOOD SOILのファンド運営の仕組みについても教えて下さい。

GOOD SOILは、各地域で「開発ファンド」と「長期保有ファンド」の2つを組成していきます。

まず開発ファンドが機関投資家から集めた資金で新規不動産の購入や開発を行い、Stapleが店舗や施設の運営を軌道に乗せて、長期保有ファンドに売却します。安定稼働化した不動産を譲り受けた長期保有ファンドは、地域を盛り上げたいと考える人たちの出資で支えていきます。

開発ファンドを組成することで集まってきたリスクマネーを、長期保有ファンドで地域に返していく。これにより地域の不動産開発における資金の入口と出口ができ、循環するモデルができあがります。

──開発ファンドと長期保有ファンドの投資家は、主にどういった人たちを想定していますか。

開発ファンドの方はStapleと三井住友信託銀行、地域の金融機関や企業のほか、大手デベロッパー、交通・通信企業などが挙げられます。

大手デベロッパーは都心中心に不動産を所有していますが、建築資材や人件費の高騰等により都心開発の利回りが低くなってきたことから地域開発にも目を向け始めています。

交通・通信企業は、駅や空港など周辺地域の価値が上がることも見込んで出資します。地域が盛り上がれば人口や利用者が増えるので、新たなニーズが生まれるだろという考えです。将来的には間口を広げ、一般投資家からの出資も募りたいと考えています。

長期保有ファンドの方は、地域に資産を返していくというストーリーを大切にしたいので、地域の企業や人で構成することを考えています。出資いただくのは対象となる不動産の店舗や施設を愛してくださるファンであるべきだと思っているので、小口でも参画できる仕組みを整備します。1人5万円でも10万円でも良いので、地域の人たちのお金がちゃんと入って、ファンエコノミーが形成されていることが重要です。

──投資家は、リターン以外の目的が多いのですか。

現状は私たちの活動に意義があると考えてくださった企業が多いです。とは言え、投資なのでリスクに相応のリターンは示さなければなりません。Stapleが不動産を安定稼働されられるかが重要になりますが、それはこれまで私たちがデベロッパーとして行ってきたことですから、開発ファンドの投資家にもきちんとリターンを出せるものだと考えています。

ただ、きちんと投資家の皆さんにリターンを出すため、GOOD SOILの投資対象はホテルを始めとする利回りが見込める不動産を想定しています。利回りが見込みにくい介護施設や学校などについては、ファンドではなくStapleが単独でリスクを取って開発・運営を行っていくつもりです。

資金の入口と出口が、地域に新たなエコシステムを生む

──GOOD SOILのファンドで、地域はどのように変わっていくのでしょうか。

これまで日本の地域はどうやって人口を増やすかを議論していました。しかし、地域の人口は増えない、というのが結論になりつつあります。その一方で、自分の地元だと言える場所が複数あるような「関係人口」は増えている。都市と地域と人の関係性はそういう定義がされてきたけれど、都市と地域と金のことだけはまだ正解が見えていません。僕らはそれを作るためにGOOD SOILを立ち上げました。

2層構造のファンドによって入口と出口をつくることで、都市と地域で資金が循環するようになる。それは新たなエコシステムを生み出します。

ベンチャー界隈でも、ドットコム・バブルを経験した経営者がVCになったことで、シードやアーリーステージへの投資からマザース市場への上場を目指すという一連の流れができました。そのエコシステムによって、さまざまなイノベーションが起きたわけです。

私たちが開発ファンドから長期保有ファンドという入口から出口まで作っていくことの意義はそこだと思っています。上場に代わる出口として、長期保有ファンドが出口になる。

私は、現在はデベロッパーとして事業を運営していますが、元々はファンド出身です。地域における事業とファイナンスの両方がわかる存在として、VC的な役割を担っていきたいと考えています。

また、私たち以外が運営していた不動産をGOOD SOILのファンドに売却してもらってもいいわけです。自らが運営していた事業を売却することにネガティブなイメージがある人もいるでしょう。でも不動産を売却してからも、運営は続ければいい。元々、不動産業界は所有と運営が分かれているのが一般的ですし、私たちもそうするつもりです。

今回の取り組みがさまざまなプレイヤーの新陳代謝を促すことにつながり、その結果、地域の経済や文化が活性化していく。そんな未来をイメージしています。

──GOOD SOILの取り組む資金循環モデルが実現すれば、地域創生のひとつの成功事例となります。実現するために、今後何が一番障壁になるとお考えですか。

地域の不動産の資産価値が現在の仕組みでは評価されにくいことです。国内では東京や大阪など都心の一等地が一番魅力的な街として評価され、例えば広島の瀬戸田を開発しても「地域の不動産」という見方をされてしまう。

ただ海外視点で見れば、アメリカから東京に行っても、広島に行っても、移動距離はたいして変わらないわけです。実際インバウンド客は、純粋に地域の魅力や不動産価値を認めてくれていると感じます。

ホテル業態はインバウンド客の影響を強く受けます。昨今のインバウンド需要はGOOD SOILの成功を手助けする鍵となるのではないかと考えています。

(文:秋元沙織)

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