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信用金庫、クラファン、インパクト投資…意外と知らない地域金融

2023.04.28(金) 15:00
信用金庫、クラファン、インパクト投資…意外と知らない地域金融

プロフィール

古里 圭史(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授、北海道上川郡東川町産業振興ファイナンスアドバイザー)
川本 恭治(城南信用金庫 理事長)
小谷 なみ(READYFOR株式会社 リードキュレーター)
古市 奏文(一般財団法人社会変革推進財団インパクト・カタリスト)

地域を変えるためにはチャレンジする人が必要です。しかし、地域の課題を解決する事業を生み出そうとしても、資金がなければうまくはいきません。地域でチャレンジする人を支えていくために、地域金融はどうあるべきなのでしょうか。

3月17日に開催された「POTLUCK FES」Business Stage01では、「地域金融エコシステムの構築」をテーマにトーク。地域金融、信用金庫、クラウドファンディング、ソーシャルインパクト投資といった各分野の専門家4名が登壇。地域金融の可能性について語り合いました。

地域経済を創発するお金のあり方とは

最初のトークテーマは、「地域経済を実現するためのお金のあり方とは」。地域経済を創発するチャレンジャーを増やすためにお金をどう取り扱っていけばいいか、4名が語り合いました。

川本氏:我々信用金庫は地域金融機関です。やっていることは銀行と近いですが、信用金庫は株式会社ではありません。

預金は誰でもご利用いただけますが、融資については会員の方のみが対象です。株式会社ではないため、我々は目先の利益を重視する必要はありません。

地域の一員として地域の皆さまのお困りごとを解決するために活動している金融機関であることが、信用金庫の特徴です。

基本的には、皆さまから預金を預かり、それを融資に回して、地域の中でお金を循環させていくことが我々の役目。ただ、近年はコロナ禍もあり、融資をするだけでは地域の課題解決ができない状況になってきています。

そこで、我々が力を入れているのが、従来から行ってきた資金繰りの支援に加えて、本業支援をすることです。課題を抱えている地域の事業者が利益を伸ばしたり、販路を拡大したりできるよう、お手伝いを行っています。

また、今は地域だけで課題を解決することが困難なケースが増えています。そこで、10年ほど前から全国254の信用金庫でネットワークづくりを進めてきました。地元自治体、メディア、大学などとも連携協定を結び、全国規模のネットワークで協力して地域の課題解決に一緒に取り組んでいく取り組みを進めています。

小谷氏:地域金融のあり方という意味では、ルートは多角的なほうがいいと思います。そのうえで、何を活用するかは事業者が活動の趣旨や方向性によって選んでいくことが大切です。

クラウドファンディングは金融機関に融資をしてもらう前に活用しやすい手段です。自分たちが解決したい課題ややりたいことを発信して、活動に共感してくれた人々から資金を募り、事業の最初の一歩を踏み出せる、というのがクラウドファンディングのお金です。

その先で、金融機関が融資を受けたり、助成金を活用したりすることで事業が広がっていくこともあります。つまり、事業者の方はどのタイミングでどの手段を活用するかという戦略を持つことが大事だと思います。

古市氏:地域でお金が必要なとき、リターン追求型のものだけではない資金調達方法もあります。例えば、協同組織や個人の寄付、あるいはクラウドファンディングなどは、リターン追求だけを目指したお金ではないですよね。これをもっと加速させていく必要があると思っています。

僕らがやっているインパクト投資とは、地域の中に社会的インパクトを生み出して、それを可視化していく活動です。これにより、これまでは経済合理性だけが追求されていたところに別の価値判断の軸を組み込むことができると考えています。

今までは投資というとハイリスクハイリターンのイメージが強かったですが、それよりも近くで困っている人を支えるもの、長期間で関係性をつくるために活用していくものというイメージに変えていく。そういう世界観を生み出し、お金が動く仕組みが必要だと思います。

古里氏:3名の話を伺った印象をお話させていただくと、まず信用金庫の場合は地域と連携しながらプラスアルファの価値を提供して事業支援、資金支援をしているという点で、重要な役割を果たしていますよね。

また、ソーシャルマネーという観点で、クラウドファンディングやインパクト投資の考え方が広まり、いろいろなお金が地域に流れていくことが、地域を活性化していく糸口になるのではと期待しています。

地域を盛り上げる担い手をどう増やしていくか

地域経済を創発していくためには、チャレンジする人をどう増やしていくかも重要です。2つ目のトークテーマは「地域経済創発の担い手をどう増やしていくか」というテーマについて語りました。

川本氏:今、城南信用金庫では「困っている人を助けることが信用金庫の使命」を合い言葉にして、「金融機関の枠を超えたお客様応援企業」を掲げています。

信用金庫は、融資が増えなければ利益が出ない業種です。ですから、昔はお客様に対して「お金を借りてください」とお伝えするばかりでした。やむを得ず、「金利下げるので、うちで借り換えてください」と言うことも。

でも、5年前にやめました。「お金を借りてください」と言わないようにしたんです。代わりに今は、「お困りごとはなんですか?」「課題はなんですか?」と伺うようにしました。

すると、皆さん、「この技術を探している」「相続に悩んでいる」など今困っていることを話してくれます。解決方法を一緒に探していくと、最終的に融資につながっていきます。お客様の課題を解決できるので、他の金融機関と競争になることはなく、結果的に我々にとってもメリットが大きいのです。

また、本部には、「なんでも相談プラザ」という部署を作り、READYFORさんなどさまざまな企業と協力しながらお客様の支援に取り組んでいます。

一気に組織のカルチャーを変えるのは難しいですが、少しずつ芽が出てきたと感じています。

小谷氏:これまでクラウドファンディングでさまざまな事業者を支援する中で、先進的な取り組みが活発な地域もあれば、様子を見ながら徐々に広まる地域もあると感じています。

そうした中で大きな変換点となったのがコロナ禍でした。地域で存在感のある企業や病院、神社仏閣などがクラウドファンディングを活用するようになったのです。この流れを受けて、「自分たちも挑戦していいんだ」と地域のカルチャーが変わってきたように思います

また、以前は「お金が足りない」と必要に駆られてクラウドファンディングを活用するケースが多い印象でした。しかし、最近は大規模な企業や行政を含め、自分たちのミッションや解決したい課題を掲げてクラウドファンディングを活用し、地域を巻き込んで前進している企業や団体が増えてきました。

クラウドファンディングに挑戦する人が増え、想いが可視化されることによって、そこに続いていく人も増えていきます。率先して行動した方が地域のカルチャーを変えていっているのだと思います。

古市氏:インパクト投資の取り組みでは地域にある社会課題を探していくのですが、いろいろ見ていると、いわゆる金銭的なもの以外の資源が地域の中にあふれているところも実は多いんです。

地域が秘めたポテンシャルを発揮していくためには、地域の外でいろいろな経験を積んだ人や多様な価値観を持った人たちが地域に入り、独自の見立てをして、キュレーションをしていくことが必要です。地域で見逃されていたアセットや魅力を見つけて事業化し、伝えるスキルが高い人や企業が地域に入って取り組んでいくことが、重要だと思います。

多様な支援のあり方を作り、挑戦を持続できる環境を

トークセッションの最後には、三者が取り組んでいる地域経済創発に向けた活動の展望や、より地域を活性化させるアイデアを自由に語ってもらいました。

川本氏:城南信用金庫では「つなぐ」をテーマに取り組んでいきます。これまで取り組んできたネットワークづくりをさらに進め、仲間を増やし、引き出しを広げていきたいと考えています。

1つ、奈良県立医科大学と連携して取り組んでいる事例をご紹介します。そこの学長が軟骨電動イヤホンの技術を開発したあとに我々と連携協定を結んだのですが、狙いは2点ありました。1つはマスコミを通じて情報発信をしたいということ。もう1つは、技術を商品化する企業を紹介してほしいということでした。これに加えて、信用金庫の店頭にサンプルを置いて多くの方に知ってもらう取り組みもしました。

このように多くの仲間を募ることで、さまざまな面でお客様の事業拡大を支援することにつながります。1つひとつは小さいかもしれませんが、今後もつなぐ力によってお客様の課題、地域の課題を解決していきたいと考えています。

小谷氏:READYFORでは「継続性」をキーワードに掲げています。クラウドファンディングはこれまでの主流だった単発の資金調達から、持続的に地域で活動していくために難易度の高い社会課題解決に向かっていくための資金を集められるプラットフォームにならなければいけないと思っています。

クラウドファンディング自体も継続性を意識した戦略をベースにしていますし、プラットフォームとしても各地の課題が集まっている状態です。今後は課題を持つ地域の事業者の持続的な資金調達を支えると共に、多角的に資金を集めていけるように金融機関やメディアとも連携していきたいと考えています。

古市氏:我々が活動する中ですごく重要視しているのが、インパクト投資の新しいスキーム作りです。

例えば、いろいろな企業が同時に出資を受けながら1つの産業を活性化させていく、あるいは、異なるステークホルダーが協力して、1社は出資を受け、1社は債権で資金調達するなどして1つのゴールに向かっていく。こうした先進事例はグローバルにもあるので、地域活性化を含めたいくつかのテーマで注力していきたいと思います。

個人的に関心があるのは、都会と地域の両方でリープフロッグ現象をうまく引き起こすこと。ローカルリープ構想を持って地域活性化に必要なことをまずは都会で作ってから、地域に一気にインストールしていくことができたら、おもしろいことを起こせるのではと考えています。

古里氏:今回のトークセッションを通して感じたのは、地域の課題に向けた第一歩として、まずはクラウドファンディングを通して応援してくれる人を募る、あるいは次のステップとして信用金庫に相談に乗ってもらうなど、さまざまな支援があることが重要だということ。

また、事業創出に取り組む際には経済的なリターンを求めることや、善意の寄付を前提にするだけではなく、社会に対する良いインパクトをどう生み出していくかを考えることが重要だと感じました。

こういった新しいハイブリッドのお金が地域を満たしていくことが、地域経済創発に不可欠なのではないでしょうか。

(執筆:村上佳代 編集:野垣映二 撮影:小池大介)