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【POTLUCK CARAVAN】人口150万都市・神戸に「コレクティブ・インパクト」は生まれるか?

2023.12.26(火) 16:04
【POTLUCK CARAVAN】人口150万都市・神戸に「コレクティブ・インパクト」は生まれるか?

11月25日、「実験都市 神戸」を推進する神戸発のクロスメディアイベント「078KOBE」とのコラボレーションとして、POTLUCK CARAVAN in KOBEが開催されました。神戸市と言えば人口150万人を誇る西の大都市。古くから国際貿易の玄関口として栄え、現在も数々の大企業の本社があります。

POTLUCK CARAVAN in KOBEのテーマは「コレクティブな活動で変わる神戸の新しいうねり」。POTLUCK CARAVANを通じて神戸と神戸、そして神戸と他の地域の人々がつながることで「コレクティブ・インパクト」に通じるきっかけづくりをしたい!ということで、当日の様子をダイジェストでお届けします!!

会場となったのはデザイン・クリエイティブセンター神戸、通称KIITO。生糸の検査所をリノベーションした建物は異国情緒溢れる古き良き神戸の趣きを残しながら、現代的にアレンジされています。

今からまさに、このKIITOと同じように、神戸の歴史や文化を礎に未来の神戸を語る、熱いディスカッションがはじまるのです。

中核中枢都市が面白くなるために、今必要なつながりとは

登壇者プロフィール

山本 雄生(NewsPicks ビジネスプロデューサー/POTLUCK YAESU プロデューサー)
齋藤 潤一(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事、AGRIST株式会社 代表取締役)
須藤 順(高知大学 地域協働学部 准教授)
上田 佑吏(株式会社パインフィールズ 代表取締役、COMING KOBE実行委員会 運営統括)
佐合 純(iC株式会社 代表取締役)

今回のPOTLUCK CARAVABのキーワードになる「つながり」。それぞれ神戸で活動する上田さんと佐合さんは、阪神大震災をきっかけにNPOなどの活動が盛んになった一方で、人・活動がつながれていないと感じているそうです。

高知大学の地域協働学部の須藤さんは、人と人がつながりにくくなる基準として「人口5万人。5万人以下であれば、みんな顔見知りでつながれる。5万人以下の単位でつながるのがポイント」と話します。

人口150万人の神戸市。「神戸」という単位ではなかなかつながりを作っていくのが難しいのかもしれません。これに対して齋藤さんは「地域はただのラベル。もっと楽しさであるとかそういったことを理由に集まった方が良いのでは」と持論を展開しました。

上田さんが「若者離れは神戸の課題。みんな大阪や東京に行ってしまう。エンターテイメントの仕事をしているので、それが悔しい」と語ると、齋藤さんは「これまで地域は事業を横に展開していくことが多かったように感じます。今はSNSもある時代。縦軸に伸ばしていくことを考えても良いのでは」と応じます。

限られた地域の需要で事業を成長させていくには、さまざまな事業を展開しないとすぐに頭打ち。しかし、オンラインで地域の壁を越えられる今だからこそ、事業を広げるのではなく、何か1つの事業で突出するという選択を取ることもできるのです。

上田さん、佐合さんはそれぞれ次のように話しました。

「日本は人生の選択自由度が低い。正解があってその通りにやってしまっています。縦軸・横軸の話のように、地域を飛び出して外に出てしまえばいいと感じます」(上田さん)

「もっと柔軟に縦軸・横軸を考えていかなくてはいけないと感じました。今日は神戸だけでなく、さまざまな地域で活動している方が集まっています。みなさんとお話して刺激をいただければと思います」(佐合さん)

最後に須藤さんは「『私』を主語にひとりひとりがどうするか。日本人はなかなか慣れていない。自分にやりたいことがなかったら、なにかやっている人の近くで動いてみるのも良いでしょう。応援したい人をみつけると、そこから熱をもらって自分がやりたいことにつながっていきます」と話しました。

地域を活かしたビジネスエコシステムは構築可能なのか。

登壇者プロフィール

上田 佑吏(株式会社パインフィールズ 代表取締役、COMING KOBE実行委員会 運営統括)
長井 伸晃(神戸市企画調整局調整課 課長)
吉永 隆之(一般社団法人Urban Innovation Japan 代表理事、特定非営利活動法人コミュニティリンク)
田淵 良敬(Zebras and Company 共同創業者・代表取締役、米国Zebras Unite役員理事)
齋藤 潤一 (一般財団法人こゆ地域づくり推進機構代表理事、AGRIST株式会社 代表取締役)
横石 崇(&Co. 代表取締役、渋谷スタートアップ大学 事務局長)

地域における共存共栄を可能にする生態系、つまりビジネスエコシステムをテーマにした本セッション。

そこにはもちろん行政が密接に関係します。神戸市中央区の神戸港内の人工島「ポートアイランド」では「神戸医療産業都市構想」「次世代スーパーコンピュータ」など、神戸に新産業を生み出すためにさまざまな取り組みがなされてきました。

神戸市企画調整局の長井さんはポートアイランドのこれまでの歩みを振り返り「あれは成功だったのか」「地域でどういう企業を育てればいいか、なかなか答えが出ない」と話しました。

これに対して齋藤さんは「すべてはプログレス。日本の文化は全員で反省会してしまう。PDCAは大事だけれど、反省会をせずにPDAをただ繰り返せば良い」と応じます。

そもそもビジネスエコシステムの成否を分かるものは何か。ゼブラアンドカンパニーの田淵さんは「多様性が大事」と話します。

「日本でありがちなのはすべて偏ってしまうことです。私もゼブラ企業を推進していますが、他を否定しているわけではありません。VCもいれば地銀もいる。いろいろなプレイヤーが必要だと思っています」(田淵さん)

話題はオープニングセッションでも語られた「神戸につながりがない」という話題へ。「つなげる人がいない」(上田さん)「大企業の経営者同士など一部はつながっているがそこからの広がりがない」(長井さん)という声に対して、齋藤さんはビジョンの重要性を語ります。

「つながりより温度が大切だと思っています。上手くいっていないところはビジョンが弱い。ビジョンがあればエコシステムはできていくと思います」(齋藤さん)

神戸市役所での勤務経験があり、現在はスタートアップの支援を手掛ける吉永さんは「地域の課題を深くしている人がリーダーになると上手くいく。その背中を押す、尖った一点突破からさらに横のつながりを作っていくことが大事」と齋藤さんの意見に同調しました。

ローカルから発信する、食の新しい可能性

登壇者プロフィール

木村 大輔(Beyond Coffee Roasters 代表)
宮下 拓巳(LURRA°(ルーラ)GM・CO-OWNER)

宮下さんがGMを務めるLURRA°は、ニュージーランドのトップレストランで働いていた3名のメンバーで2019年に創業した、京都のミシュラン星付きのレストラン。「日本の季節と文化のショーケース」をテーマにした独創的な料理とドリンクのペアリングを楽しめる、知る人ぞ知る注目のレストランです。

Beyond Coffee Roastersは神戸・三宮でこだわりのコーヒーを提供するコーヒースタンド・ロースター。本店の斜向いにあるBEYOND COFFEE ROASTER2では、自社で輸入・販売を手掛けるボタニカルリキュール「Fernet Hunter」やコーヒービバレッジも提供しています。

宮下さんの神戸のイメージは「京都、東京、福岡などとは違い世代交代が進んでいない」。海外からのお客さんが口コミで来ることが多いという木村さんは「海外から日本への旅行者は最初に日本を訪れることはない。神戸に来るのは日本中級者以上」と神戸の現状について語ります。

食が地域に与える影響について宮下さんは次のように話します。

「1件レストランができるだけで、人は動き出します。富山県の利賀村にあるレストラン『レボォ』はアクセスが悪く、冬は雪深いにも関わらず、世界中からお客さんが訪れます。生産者や器など、食には地域のさまざまな人が関係します。僕は、食はショーケースになる、つまりメディアになると思っているんです」(宮下さん)

宮下さんは「バナキュラー(土着的・自然発生的)」という言葉を用いて「食には液体窒素のような技術もあるけれど、最後は原点に戻る。そうなれば日本の郷土料理は強い」と語ります。

また、今回の「つながり」というテーマについて、宮下さんは「これからの時代はレストランが評価されるのではなく、その地域にフォーカスが当たる時代になる」と話しました。

木村さんはお店の運営やお酒の輸入・販売にあたり、「できることは自分でやっているけれど、できないことはお店を訪れた海外の人など、いろいろな人にお願いしている」と語り、神戸におけるローカルがある意味グローバルに広がっていることを感じさせました。

BEYOND COFFEE ROASTERのスタッフは1名、LURRA°は3名という少人数。それでも両者は尖っていれば世界から注目され、人は訪れるということを体現しています。地域における食そして文化の可能性を感じるセッションでした。

つくる地域、のこす地域。実践者と語る文化をつなぐ方法

登壇者プロフィール

上田 佑吏(株式会社パインフィールズ 代表取締役、COMING KOBE実行委員会 運営統括)
堀内 康広(トランクデザイン株式会社 代表取締役、クリエイティブディレクター、デザイナー)
湊 三次郎(株式会社ゆとなみ社 代表取締役、銭湯活動家

地域に数ある文化。しかし、希少な文化でもそこに経済性が伴わない場合、文化の継承が難しくなってしまうこともあります。銭湯活動家の湊さんは次のように話しました。

「今、銭湯だけでなくさまざまな業界で起こっていることだと思いますが、第一線の方々が高齢者で若手が育っていない。銭湯の場合は来てもらわなきゃお金にならないので、そこの難しさはすごくありますね。今僕が目指しているのは銭湯だけで自立できる強さを持つことです」(湊さん)

兵庫で地域のつくり手とコラボレーションしてオリジナル商品を開発しているトランクデザインの堀内さんは、「新しいことにチャレンジする人が町にいないと地域は衰退していく」と前置きした上で、「ここ10年で、移住してビジネスをはじめる人もでてきて、行政も一緒になってチャレンジしていこうという気運が生まれている」と話します。

文化を後世に残していくためには、アップデートすることも重要。そのときにデザインはどのような役割を果たすのでしょうか。

「料理と一緒で素材が良いことは大切です。元々の素材が悪ければ、デザインを変えても何もかわりません。日本のものづくりにはまだまだ良いものがあるので、デザインでそれを手に取りやすく、使いやすくアップデートしていくことが重要だと感じます」(堀内さん)

これらの話を受けて、上田さんが「地域に深く入ってこうとすると、嫌がられることもあるのでは」という問いを投げかけます。

これに対して湊さんは「地道に長くやっていくこと」と話します。

「僕も銭湯をはじめたときに地元の方から呼び出されるようなこともありました。でも結局言われなくなったのは、僕が圧倒的にやっているからだと思っているんです。明らかにこの人は銭湯のために人生かけてやっているな、と。それを認めてもらうことじゃないかな」(湊さん)

かけ算から生まれる、これからの神戸

すべてのトークセッションを終えた後は、参加者で4~6人のグループを作りディスカッションを行いました。

セッションを聞いて感じたこと、自分自身のこれまでの経験などを交えて、これからの神戸について語り合います。

「ちょっとお節介に地域をつなぐ視点があると良い」

「点在するお店に動線があると良い。それを日々の生活のなかでつないでいくことが大切」

「神戸をすぐ近くに音楽があるエンタメの街に」

「神戸は安定しているからこそ、イノベーションが生まれにくい」

などなど、さまざまな意見が交わされました。

そしてイベントの締めくくりとして、POTLUCK CARAVAN in KOBEの実現にあたってご尽力いただいた078KOBEの実行委員の佐合さんと藤井さん(神戸大学大学院 DX・情報統括本部情報基盤センター 教授)にお言葉をいただきました。

「神戸はある程度のことがされ尽くされている感じがあって、若い世代はその真似をしているような状況だと思っています。今、必要なのはそれを打ち破る力で、それは今回のPOTLUCK CARAVAのような出会いから掛け算で生まれてくるものだと思います。皆さんと掛け算をしていきたいと思いますので、今後も引き続きどうぞよろしくお願いします」(佐合さん)

「神戸という都市はグローバルな150万都市という側面もありながら、その実は田舎社会だったりもします。リーダー同士は顔見知りで、村社会のような入りにくさと中にいる人にとってはぬるさがある。神戸とは何か。それはそこにいる人のことなのだと思います。人と人のつながりに神戸という名前がついているにすぎない。だからこそ、私たちで変えられるはずなのです。今回のイベントから刺激をもらい、それを日常生活に持ち帰り少しずつ変えていく。そんなきっかけになるイベントになったのではないでしょうか」(藤井さん)

番外編:日本の公園の原点は神戸に!?ぶらり街歩きならぬ山歩き

一夜明けて11月26日。この日は希望者が集まり、神戸大学MIRAIアライアンス特命講師の小代薫さんに案内人になっていただき、街歩きを実施しました。

新神戸駅に集合後、山を登り、神戸の観光スポットである布引の滝、そしてそこから更に大正4年創業のおんたき茶屋へ。

小代さんの研究では神戸港の開港後、外国人が日本側に公園の整備を求めたことから、公園という文化が日本人に浸透していったのだそうです。つまり、今歩いていた場所こそが日本の公園の原点。

昼食後は山を下りて神戸市街地をそぞろ歩きました。新神戸駅から徒歩圏内に広がる自然は海と山に囲まれた神戸の豊かさを感じさせてくれます。

神戸で活動するさまざまなプレイヤー、神戸の文化と産業、そして全国から集まった地域のプレイヤー。今回のPOLUCK CARAVANで生まれたつながりが、神戸そして全国各地でソーシャルインパクトのきっかけになってくれることでしょう。

POTLUCK CARAVANはこれからも全国各地で開催していく予定です。皆さん、また次回のPOTLUCK CARAVANでお会いしましょう!