もしも、まち全体が「長屋家族」になったら?「共助経済圏」が地域を救う
現在、高齢化、過疎化が進む日本の地域は、多くの課題に直面している。従来の行政によるサポートだけでは山積する課題を解決しきるのは難しく、結果的に多くの地域が活力を失いつつある。
そんな地域の現状を社会関係資本の力で解決しようという試みが、人口約4300人の北海道厚真町で行われている。
厚真町ではじまったのは「買い物に行きたいが移動手段がない」「力仕事を手伝ってほしい」といった日常の困り事を地域住民同士で助け合って解決する「共助型困り事解決プラットフォーム」。
運営するのは、「まちづくり as a Service」を掲げるミーツ株式会社だ。ビジョンを共にするコープさっぽろの関連子会社となったことも発表され、厚真町から新しい「共助経済圏」の創出を目指している。
ミーツ代表の成田智哉氏に、なぜ住民同士の共助に着目したのか、共助がもたらす新しい地域のかたちについて話を伺った。
成田智哉氏
ミーツ株式会社 代表取締役社長/マドラー株式会社 代表取締役社長/えぞ財団 団長
シェアリングエコノミー協会 北海道支部長/コープさっぽろ組織本部 地域政策室 室長
1988年生まれ。北海道千歳市出身。東京大学文学部歴史文化学科卒業後トヨタ自動車に入社、ブラジル支社を経て独立。帰国後、北海道厚真町にて「境界を越えて世界をかき混ぜる」をコンセプトのマドラー株式会社を設立し、厚真町コミュニティスペースイチカラや共助型困りごと解決プラットフォーム「Meets Community」を企画運営。北海道経済コミュニティ「えぞ財団」団長。
地方の課題はテクノロジーだけでは解決できない
——ミーツでは「共助型困り事解決プラットフォーム」を運営しています。なぜこのサービスを立ち上げたのでしょうか。
今、多くの地域が少子化、高齢化、過疎化といったさまざまな社会課題に直面しています。こうした課題をテクノロジーで解決しようとする動きもあります。
でも、僕が厚真町に住んで、地域の社会課題を解決しようと活動してみて気がついたのは、おじいちゃん、おばあちゃんの困り事はテクノロジーの空中戦で解決できることは少ない、ということ。
たとえば、自動運転車が完全に実用化されたとして、果たしておじいちゃん、おばあちゃんの課題は解決されるでしょうか? 多分、簡単には解決されないですよね。車までそもそも辿り着けないかもしれないし、ひとりだけじゃ乗れないかもしれない。
都会にいるとテクノロジーやデジタルでなんでも解決できると思いがちですが、高齢化が進んだ地域で課題を解決するためには、もっと地道で、泥臭いことをしなければなりません。
そこで必要となるのが、共助のプラットフォームです。今でもボランティアとして共助に取り組んでいる地域はありますが、善意だけでは長続きしません。
我々もまだまだ道半ばではありますが持続可能であるためには、ビジネスとして資本主義のルールに乗ったうえで、共助の仕組みをつくることが大切です。
昔の長屋家族のように、地域の中で困り事を解決する
——その仕組みが「共助型困り事解決プラットフォーム」なんですね。どういったサービスなのでしょうか?
「共助型困り事解決プラットフォーム」は、「力仕事をお願いしたい」「スマホを教えて欲しい」「雪かきや草むしりをお願いしたい」といった依頼したいことを抱えている人と、依頼を手伝ってくれる人をつなぐ会員制のプラットフォームです。現在は人口約4300人の北海道厚真町で展開しています。
依頼を解決する側の人は、基本的に地域に住んでいる方です。モビリティの領域で「MaaS」という言葉がありますが、僕らは「まちづくり as a Service」という考え方で、ご近所付き合いの延長線のようなかたちで、地域の困り事を地域の中で助け合って解決する仕組みをつくっています。
サービスが地域全体に広がっていくことで、いわば昔の長屋家族のように、厚真町全体が「厚真家」という1つの擬似家族のようなコミュニティを育んでいくイメージです。
——長屋家族という考え方はおもしろいですね。
かつて地域のコミュニティが濃かった時代は、近所のおばさんが一時的に子どもの面倒を見たり、何かあったときに近くに住む人同士が助け合ったりしていました。
ところが、今は核家族化が進み、地域のコミュニティが分断されてしまった。育児も介護も家の雑用もすべて家族の中でやらなければいけなくなり、負担が増大しています。もはや、こうした状況は限界といえるでしょう。
地域の課題を解決していくためには、もう一度、長屋のようなコミュニティが必要です。アナログを取り入れながらテクノロジーを活用しつつ、失われかけた地縁を紡ぎ出していくのが「共助型困り事解決プラットフォーム」なんです。
地域にソーシャル・キャピタルが生まれる仕組み
——依頼はどのようにするのですか?
LINEか電話のどちらでも可能ですが、いまは電話での依頼が多いですね。電話で受けた依頼を当社のオペレーターが入力してデジタル化しています。
LINEを利用しているのは、高齢者でも比較的使っている方が多いから。独自で新しいアプリをつくっても、高齢者の方にとってはインストールして使いこなすことは難しいですよね。LINEでも操作が難しい方がいるので、電話での依頼にも対応することで間口を広げています。
——依頼を受ける方にインセンティブは発生するんですか?
もちろんです。
決して大きな金額ではありませんが、自分の用事のついでに買い物をしたり、困りごとを手伝ってあげることで謝礼をもらい、地域の人とのつながりも生まれます。困り事を助けたことがきっかけで地域に顔見知りが増え、地域に住むことが楽しくなる。
おじいちゃんおばあちゃんとお話できることで、たくさんの自分とは違う価値観を教えてもらったりすることができます。ぼくらは決して「買い物弱者」とかの言葉使わない。身体的な変化はあるにせよ、自分たちの人生の大先輩なのでお話すると様々な気づきを得られます。4300人のまちであれば、4300通りのストーリーがあるんですよ。
こういった、自然にコミュニティが活性化されるような仕組みを設計しています。
——サービスのマネタイズはどのように?
利用者の手数料のほか、企業とコラボしたり、システムを活用いただくことで利用料をいただいています。
たとえば、地域に密着した出会いの場をつくりたいという旅行会社からのご相談もありますし、企業から地域のリアルを知る視察研修をしたい、地域コミュニティに参加したいといった理由でお声掛けいただくこともあります。
もう1つ、今後狙っているのがデータの活用です。
GAFAはあらゆるデータを持っていますが、ネットにアクセスしない地域の高齢者のデータは取れていません。
「地域の高齢者がどんなニーズがあるのか」というデータを持っているのが僕らです。僕らはいわゆるDXの二乗ということで、「泥臭く」「DX」しているからこそローカルのデータを取得することができている。そしてこのデータは社会に大きなインパクトを起こす可能性を秘めています。
——地域の高齢者のデータを取るために、プラットフォームの設計で工夫していることはありますか?
様々ありますが特徴的なのは、困り事を解決してくれたパートナーに「おたより」を書いてもらっていることです。
「今回出会ったきっかけ」「こんな話で盛り上がった」「最近の体調や困っていること」などを、個人情報への配慮の仕掛けを作りながらパートナーから報告してもらうことで、高齢者の方が何に困っているかを可視化することができます。
利用者とパートナーのコミュニケーションが生まれてつながりを深めるきっかけになりますし、この困りごとの見える化のデータを分析して企業や自治体とできることを検討しています。
——ユーザーの利用状況はどんな感じですか?
2023年春にローンチしてから営業の本格化はこれからですが利用者、パートナーさんは増え、マッチング数も伸びています。
厚真町の人口は約4300人なので仮に約2000世帯と考えた場合、例えば100人ずつの利用者とパートナーがいるだけでも相当な割合になりますよね。もし町の人口の3割が活用する状態になったら、一体この町にどんな変化が起こるのか。
遠くないうちにそれ達成し、町に生まれる変化を見届けたいと思っています。
生活協同組合コープさっぽろ資本提携。北海道全土、全国に共助の輪を広げたい
——2023年7月に、ミーツはコープさっぽろの関連子会社となりました。なぜタッグを組むことになったのでしょうか?
資金調達を考えていたときにご縁があったのがコープさっぽろでした。
以前から、コープさっぽろさんが取り組んでいる協同組合のあり方は本当に素晴らしいと思っていまして。みんなで出資して、社会性と事業性を担保しながら、社会のためにお金を循環させる仕組みが出来上がっているんですよね。まさに共助の最先端です。
地域にコミットして、地域の課題に向き合いながら事業を行っているコープさっぽろさんと一緒に組ませていただくことで、より大きなインパクトを生み出せると考えました。
コープさっぽろさんは、北海道全体で約250万世帯あるうちの約200万世帯をユーザーとして抱えています。この驚異的なネットワークを活かすことができれば、北海道にある179の市町村で「共助型困り事解決プラットフォーム」を展開できる可能性があります。
コープさっぽろのリソースをミーツで利用させてもらうこともできますし、コープさっぽろの組合員の方に「共助型困り事解決プラットフォーム」を使ってもらうことで、組合員さん同士の共助を循環させ、輪を広げることもできるはずです。
そんな地域の未来をつくるために、ジョインさせてもらいました。
——厚真町から始まり、北海道全体へ。さらにその先には、日本のほかの地域での展開も?
今後、全国に1741ある自治体のうち多くの地域で過疎化が進み、さまざまな困り事が露出してくると思われます。インフラをどう整備するか、いわゆる買い物難民をどうするか、高齢化にどう対応していくか。北海道に限らず、地域が抱える課題は山積みです。
ミーツではもちろんまずは北海道にコミットして展開していく考えですが、今後は各地の自治体や地域に根ざしたプレイヤーと手を組みながら、それぞれの地域の課題に合わせたミーツで見つけたソリューションを提供していきたいと考えています。すでに、20以上の自治体から相談をもらっています。
何にお金を使うかが、未来を決める
——成田さんが目指す地域の理想的な姿について、お聞かせください。
地域の中でお金をしっかりと循環させつつ、多種多様な住民同士が助け合っていく持続可能な仕組みをつくっていけるといいなと思います。
今ほど中央集権の仕組みが出来上がっていなかった昔は、地域のことは地域の住民でやるのが当たり前だったはず。それがいつの間にか「行政が全部やってくれる」となってしまった。
それが限界になってしまった今、共助の仕組みをもう一度復活させることが必要です。地方交付金や補助金に頼るだけではなく、地域の中でキャッシュを生み、共助と公助のバランスをとりながらモデルケースをつくっていくことが大切だと思います。
——地域ごとに「共助経済圏」をつくっていくということでしょうか?
そうですね。僕は「何にお金を使うか」は「どういう未来をつくるか」だと思っています。地域で作ったものを地域で買う。そして、地域の中でお金を循環させる。これによって、もっと地域が独立して運営いけるようになったら面白いはず。
もしかしたら全国で大量生産されるもののほうが安く買えて便利かもしれません。でも、それだと中央にお金が流れてしまい、地域に還元されるまでに時間がかかってしまいます。地域にもたらす影響力も少ない。
それよりも、地域の人たちが地域のことをやって、地域でお金を落としていくほうが、未来はずっと豊かになるはずです。そして顔が見えている関係で言えば、大都会はネクタイ締めていたりMacBook開いていたり同じ属性のコミュニティが多いですが、むしろ田舎の方がおじいちゃんもいれば役場も民間も起業家も農家も学生もごちゃ混ぜになっていて、ある意味ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が進んでいるのはどちらでしょうか。ミーツでさらにごちゃ混ぜにして、D&Iを推進させつつ、例えば若者がテクノロジーを、おばあちゃんが陶芸など温もりを通じて、それぞれの長所を持ってきたまちづくりを推進。そんな新しい「共助経済圏」を、まずは厚真町からつくっていきたいと思っています。