三井不動産

【最前線】日本でも、続々誕生。Web3が生み出す新しい地方創生

2023.07.24(月) 19:36
【最前線】日本でも、続々誕生。Web3が生み出す新しい地方創生

2023年6月16日、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスに於いて、株式会社Gincoと株式会社GiveFirstが主催、三井不動産株式会社が特別協賛するイベント「Web3 Future 2023」が開催されました。

パネルトーク「Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済」では、「Web3×地方創生」の実践者と行政のキーマンが集い、地方創生の未来について議論を交わしました。

プロフィール

小林史明(衆議院議員、自由民主党 副幹事長​​)
森田浩二(奈良県三宅町 町長)
林篤志(社会彫刻家/Next Commons Lab ファウンダー/Crypt Village共同代表)
呉 琢磨(NewsPicks Re:gion 編集長)

世界中からデジタル村民を集める!?「山古志DAO」とは

本格的な議論に先立ち、この日モデレーターを務める呉琢磨はセッション趣旨を説明します。

その後ゲストである林氏が「デジタル自治体」の先行事例として、ご自身が推進する新潟県長岡市山古志地域の取り組みを紹介しました。

呉:株式会社ガイアックスの調査によれば、日本国内の「web3×地方創生」プロジェクトは2023年4月まで111件に伸長しています。しかし47都道府県1,718市町村に比べればわずか6%程度。まだまだ広がる余地があります。本セッションでは、日本がweb3をどのように活用することで地方の新たな価値・可能性を引き出していくのか、キーパーソンの方々と一緒に考えていきます。

:新潟県長岡市に「山古志村」と呼ばれていた地域があります。錦鯉発祥の地として有名ですが、あるときの人口は800名ほどまで減少。高齢化率は55%に達した限界集落です。

当地にはもともと新潟県中越地震(2004年)からの復興、そして市町村合併(2005年)を契機に発足した「山古志住民会議」という住民団体があるのですが、私はそこのメンバーと10年来の付き合いがあり、今から2年ほど前、久々に連絡をもらいました。

そのとき山古志の実状として聞いたのは「やることはもうやり尽くしたしありとあらゆる地域おこし地域活動もやった。だけど人口は減るばかりでこのままじゃ山古志は存続できない」——という切実な言葉でした。

その後、私は彼らと何度もディスカッションを繰り返し、最終的に行き着いたのが電子住民票Nishikigoi NFTでした。それ自体は世界的に見ても目新しい発想ではありません。が、これを地方・地域の範囲でやったのはおそらく山古志地域が世界初です。

かつ、我々は山古志発祥の錦鯉をモチーフとしたNFTを電子住民票として発行しました。すなわち現地の住民以外の方でもNFTを買ってくだされば、誰でも山古志の“デジタル村民”になれるわけです。現在まで世界から1,000名超のデジタル村民が参画してくれています。

住民自治の活動にデジタルが介入することを、少々怪訝に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし我々が目指しているのは「デジタルとリアルの融合」。世界中から集まるデジタル村民はアイデア、スキル、プロフェッショナル性を持っている。一方のリアル村民は、地域の伝統・文化を知り、何よりアイデンティティを持っている。

両者が組み合わさったところ、重なったところに山古志を存続させる何かができると考え、この一連の取り組みを「山古志DAO」(DAO=自律分散型組織)と命名しました。

山古志がデジタル村民にとって“聖地巡礼の地”みたいになる

林氏による「山古志DAO」の取り組み紹介を呼び水に、呉氏とゲスト3名は地方自治にWeb3が介入していく可能性について言及していきます。

:山古志のNFT発行から1年が経ちましたが、だいたい2割弱のデジタル村民が実際に山古志村を訪れてくれます。なかには山古志村で働いてくれている人も。不思議なもので、山古志に来たことがない人・会ったことがない人たちでもデジタル村民というだけでつながり・絆を感じています。

普通、地域でやるような地方創生プロジェクトは地域に関わる者同士でやることだし「顔の見える関係性」であったり「信用」であったり、ときには「根回し」が必要だったりするじゃないですか。

得てしてそれがまちおこしの失敗要因にもなりがちで、私もずっと地域に関わっていますが、人生の中で3回も同じフレーズを言われたことがあります。「お前ここに骨埋める覚悟があるのか」みたいな(笑)。

:いわゆるヨソ者扱いですね。

:おっしゃりたいことはとてもよくわかるんです。でも地域に関わろうとする側がそれに「はい、覚悟はあります!」って答えるのはなかなか勇気がいるじゃないですか。いろいろな可能性を狭めてしまうと思います。

一方、一部では「関係人口」とか「交流人口」とか言って、ヨソ者にも門戸を開放している地域もあります。その門戸をもっと大きく広げたのが今回のプロジェクト。

山古志ではNFTを買った人はもう正式な村民であり、都会にいても生活の一部に山古志を感じ「年に1回くらいは行ってみるか」と考えてくれる。山古志がデジタル村民にとって“聖地巡礼の地”みたいになればいいなと思っています。

:念のため知らない方のために補足しておくと「関係人口」「交流人口」は、地方からすれば遠方に住んでいる人たちにその地域と何らかの関係性・交流機会を持ってもらう活動です。

「ふるさと納税」なんかが象徴的ですが、移住・定住まではいかなくても地域とずっと関わりを持ってくれる人の数をとにかく増やす、そんな取り組みが地方創生ではしばらく重要なキーワードとなってきました。

:とはいえ、やはり地域と人が関係性を築くのには、ある程度の時系列が必要だと思うんですよね。年1回観光に来てもらうだけではそれで終わり。

例えばお祭りの準備を一緒にしたり、雪かきツアーと称して高齢者のご自宅の雪かきをしたり、そうしたことをデジタル村民がやると、リアルな地域課題との距離が縮まり、やがて議論の質も変わってきます。

結果的に「過疎化が進む山古志のこれからの小学校をどうするか」みたいな真剣な話をデジタル村民が議論し始める。非常に面白い変化が見られるようになっています。

:祭りの準備を手伝ったり雪かきをしたら新しいNFTを交付してもらえる、みたいなことはされてないんですか。

:そうしたインセンティブ設計はまさにこれからですね。ただコミュニティに対する貢献度に応じたインセンティブは結構繊細な話です。コミュニティ内の貢献度合いってわりあい何気ないことだったり見えにくいものだったりする。

「やっておいたよ」くらいの軽い気持ちの貢献にどう評価を与えるか、どうフィードバックするかみたいなところの設計をしている最中で、年内にはそこら辺も実装できるかと思います。

DAO化への期待。地方自治にWeb3は「めちゃめちゃ相性がいい」

:なるほど。山古志の事例を受けて、小林さん・森田さんはどうお感じになったでしょうか。特にコミュニティに対する貢献度みたいな話で言うと、森田さんのところでは町内会の改革としてコミュニティスペースを住民の皆さんで運営されているんですよね。

森田:そうですね。去年の中頃、学童保育・コワーキングスペース・子育て支援センター・公民館などの機能を持たせた複合施設として、三宅町交流まちづくりセンター「MiiMO」を開設しました。

MiiMOは行政がすべてを切り盛りするようなこれまでの施設ではありません。住民を交えて運営ルールを決め、お金の作り方も議論してもらう。行政として出すのは施設の人件費・管理費のみで、MiiMOで何かしらのイベントを行う際には行政からいっさい経費を出さず、イベント運営者の売上・収益で賄ってもらっています。

まだまだ課題はあり、それこそリアルな場をDAO化する点ではいろいろと試行錯誤しています。

小林:市単位・町単位でやろうとすると少し話が大きくなりがちで皆さん触りづらい状態になってしまうと思うのですが、MiiMOのような公共施設運営なら結構小さく始められますよね。

政府も昨年までPFI担当大臣を置くなどして公共施設・公共サービスをなるべく官民一緒に運営する政策をやっていましたが、最近はPark-PFIと言って公園を民間とともに運営する試みも広がっています。

これならばまちなかの公園内で民間のカフェやコワーキングが開業されるのも可能です。公共施設や公園、あとは一部の高齢者にしか使われていない公民館などもDAO化できれば、めちゃくちゃ面白いコミュニティが出来上がると思います。

森田:実はMiiMO開設にあたり、私には行政として1つ危機感がありました。財源の約8割を国からの地方交付税で運営している三宅町は、財政的に見て弱い町とされています。

交付税が下がれば地方サービスを止めたり公民館を締めたりするような話になりがちですが、もうそういうのは嫌です。

だからこそ、これまで多くの公民館は無料で使えていたかもしれませんがMiiMOは利用料金をいただきます。せっかく建てた施設なのでしっかりと運営できるようになりたい、その危機感から“使う分はお金を支払っていただき、あとは自ら稼いで収益を出してもらう”ことを念頭に置きました。

:なるほど。山古志にもMiiMOにも教訓があると思います。これまで地域コミュニティに参加することにはどうしても“物理的な参加”が伴っていたので、どうしても「内」と「外」の関係が生まれていた。

ならばテクノロジーがそれを薄めることができるし、それはそのまま今日のテーマでもあるWeb3に対する期待にもなります。一方で日本における地方自治の文脈で言うと、これまで公共サービスは“お上”が与えてくれるもので、住民はそれを当たり前のサービスとして利用していた。

そうした公共の仕組みが今、行政・住民の一体型に変わろうとしています。その意味でもまたWeb3はめちゃめちゃ相性がいいんじゃないか、私にはそう感じました。

これからの地方創生のキーワード「デジタル・デザイン・ダイバーシティ」

いよいよ議論は佳境に入ってきました。Web3と地方自治の相性の良さを指摘する呉氏の話を受けて、林氏が続けます。

:既存の自治体は人口増加・経済成長を前提としたモデルなので、今のような時代になるとあまりにも重たすぎたわけですよね。つまりある程度成熟したフェーズになったから、新たな自治のモデルを作っていかなければいけない。それが今の日本の現状です。

少子化・高齢化・核家族化が進むことでコミュニティはどんどん小さくなっています。究極的にはこれまで当たり前に享受されてきたサービスがもう“当たり前じゃない”っていう前提に立たなきゃいけなくなるでしょうし、自治体にどこまでの機能を残すかなんて議論にも行き着くかもしれない。

いずれにせよこれまでとはまったく違った前提で地方自治をデザインし直さなければいけないと思います。

:林さんは先鋭的な地方自治の構想にもチャレンジされていますよね。

:奈良県奈良市の旧月ヶ瀬村、三重県尾鷲市、静岡県浜松市の旧水窪町などで実証をスタートさせたLocal Coop構想ですね。インフラ、廃棄物処理、資源回収、公共交通、暮らしなど、あらゆる社会システムが「国家」「自治体」に集約されてきましたが、Local Coop構想ではその名称の通り、メインシステム(自治体)とは別の「サブシステム」として“Coop=協同組合”を立ち上げ、そこに地域住民自身が出資参画し運営していきます。

そうした「第2の自治体モデル」を今各地で立ち上げようとしている状況です。

小林:官や行政がこれまで抱えていた問題も、実は民間にやってもらったほうがうまくいくことが多いかもしれません。だから積極的に解放したほうがよかったりもします。

一方民間でバラバラにやっていたことも、行政で共通化していったほうが楽になる部分もある。それを再整理していくことは“新しい資本主義”の1つの形態です。

ただ、そうやって自治体・行政をなるべく小さくしていく概念や方向性は大筋で合致していくと思うのですが、そうすると今までバラバラだった自治体のシステムは共通のクラウド上に載っけていけなければいけません。

森田:そうですね。ただ今日お話に出てきたような地方自治に新たな一体感を生み出す取り組みは、いずれもデジタルがすごくマッチします。デジタル技術でもともとあったコミュニティを可視化し、そこに外からも入ってこられるという仕組みができる。これは行政の立場から見ても非常に面白いと感じるし、今後の可能性を秘めていると感じました。

小林:これからの地方創生のキーワードはデジタル・デザイン・ダイバーシティ。これら3つのDを体現できるコミュニティをどう作るか、それがこれから自治体の競争領域になっていくでしょう。

良いコミュニティを作れば、そこから知恵が生まれ、やがてそれが社会に実装されていく。さらにそこにはより多くの人が集まります。国や行政が下手なアプリケーションを作るよりも、アプリケーションが生み出されるコミュニティを作るほうがやはり重要です。

市町村の数を減らして大きくするのではなく、むしろなるべく分割してコミュニティサイズを小さく切り分けていく。国と市町村が一緒になって住民コミュニティを支えていく形態はますます重要視されていくと思います。

(文:安田博勇)