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地域行政のリーダーはトップセールス?PRパーソン?話題の首長3名が語る

2023.05.22(月) 15:00
地域行政のリーダーはトップセールス?PRパーソン?話題の首長3名が語る

プロフィール

内藤 佐和子(徳島市 市長)
木村 元紀(京都市 都市ブランディングアドバイザー)
東 靖弘(大崎町 町長)
山本 一太(群馬県 知事)

地域経済活性化において、都市部以上に行政の役割は重要です。民間事業者だけでは立ち行かなくなってしまった市場を再び盛り上げるため、行政及び行政のリーダーは何を成すべきなのでしょうか。

POTLUCK FESのSocial Stage01「地域経済を進化させるために必要な行政のリーダーシップとは」では、徳島県徳島市の内藤佐和子市長、鹿児島県大崎町の東靖弘町長、群馬県の山本一太知事の3名によるトークセッションを実施。各地で行われる最新の取り組みとともに、行政のリーダーシップについて議論を交わしました。

首長としてまず何を変えなければいけないと思ったか?

Social Stage01「地域経済を進化させるために必要な行政のリーダーシップとは」では事前に用意された3つのパネルテーマのもとセッションが行われました。イベントモデレーターは京都市 都市ブランディングアドバイザーの木村元紀氏が務めました。

木村:本パートでは3つのパネルテーマに沿って進行させていただきます。1つ目のテーマは「首長に就任したとき、まず何を変えなければいけないと思ったか?」。

私たち国民は総理大臣を直接選ぶことはできませんが、自治体の首長は選挙で選ぶことができます。民意が直接的に反映されている分、その責任も重いと言えるかもしれません。皆さんは首長として就任後、まず何を変えたいと思ったのでしょうか。

山本氏:1つに絞るとすれば「群馬県=劣化版の東京」という思想を払拭することでしょうか。東京ですでに流行った“本家”の真似をしようと、6〜7割くらいに劣化したものを地元に持ってこようとするのが、地方自治体・首長が陥りやすい罠でした。

2019年7月に県知事になった私は、毎週1回庁議に幹部を集め、予算の規模に関わらずいかなる事業においても「県の強みを活かした独自の“群馬モデル”をやる」よう強く申し上げてきました。

群馬県は首都圏に近く、農業・畜産業も盛んで、観光資源としては温泉もあります。これまではそのことに甘え、他の都道府県の様子を見ながら、重い腰を上げるみたいなやり方をしていました。

しかし変化の激しい今の時代、それでは生き残れません。独自の群馬モデルさえ作ることができれば、消費地が近い分、成功の公算も高いです。この4年間で多くの「群馬モデル」を作ってこられたと自負しています。

東氏:私は現在6期目で、2001年12月、57歳のとき大崎町長に就任しました。その後すぐに始まったのが「平成の大合併」に関する議論です。当時いくつかの公約を掲げていましたが、1期目の4年間は正直、他のことを全く何もできなかったのが現実。

大崎町は旧志布志町・有明町・松山町との合併の道を探りましたが、住民投票の結果わずか19票差で単独が決定、以降は合併を選択しなかった町の町長として活動してまいりました。

そもそも大崎町は人口1万2,300人の小さな町です。私はそんな小さな町だからこそやれることがあると思い、出馬する1年前から妻とともに町民の皆様のご家庭を訪問し、1人ひとりの生活状況や健康状況、あるいは「下水・排水が整っていない」「樹木で覆われ日当たりが悪い」などの生活環境を見聞きしました。

そのときほとんどの町民の顔と名前を覚えましたし、信頼関係を築くこともできたと思います。特に合併問題で常に情勢が揺れ動く最中では、町民の皆様のもとを訪問した経験が私の財産となりました。

内藤氏:私が市長になったのは2020年4月で現在1期目です。就任当時、本当にたくさんの課題が山積していたのですが、そのなかでも特に私が問題視していたのは、職員のマインド面でした。

徳島市で女性部長がゼロだったのが象徴的ですが、職員のあいだにも「どうせ何もできない」「何も進まない」という空気が充満していました。そのため職場の取り組みとしてまずは就任後すぐ女性部長を1人つくるところから始めました。

また徳島市は、D&I(Diversity&Inclusion)推進に向けた人材育成、地域活性化、市民サービス向上のため、株式会社メルカリおよびそのグループ会社・株式会社ソウゾウと連携協定を結んでいます。

そうした民間のスタートアップも巻き込みながら職員だけでなく市民に対しても「徳島市は新しいことに挑戦できるんだ」という機運を高めてきました。

地域経済成長のため“民間×行政”でつくるチームのあり方

木村氏:続いてのテーマは「地域経済を成長させる、民間×行政でつくるチームのあり方とは」。大崎町はかつて処分場の延命のため分別・リサイクル化を強化し、今ではリサイクル率82.6%を達成。「資源リサイクル率日本一」の町として世界に知られています。

東氏:ありがとうございます。民間×行政ということで申し上げれば大崎町のリサイクルセンターなどが民間事業者にあたるわけですが、私たちの町は人口1万2,300人と小さな町ですし、将来的には人口も減少していくかもしれません。町が縮小していったときにリサイクルセンターの事業は成り立たなくなってしまう可能性があります。

そこで大崎町は民間✕行政で海外のいくつかの国でリサイクル指導を行い、「大崎システム」を世界に広めていく活動をはじめています。大崎町でのリサイクルの経験・強みを海外に展開することで、経営を維持していくという考えです。

木村氏:2022年6月には環境ベンチャー・株式会社ecommitと「サーキュラー・エコノミー推進に関する連携協定」を締結しました。

東氏:大崎町も他の自治体と同様「空き家問題」に直面しています。古い空き家をなんとかして賃貸住宅として転用したいのが私たちの思いですが、家のなかには先祖代々受け継がれてきた家財道具が残っており、家主はそれらの処分が面倒だったりするためなかなか空き家を手放せません。ecommitにはそうした家財道具のリサイクルを支援いただくということで協業を開始しました。近年は「リサイクルの町から、世界の未来を作る町へ」を合言葉に一般社団法人⼤崎町SDGs推進協議会も設立し、民間企業の皆様とSDGs推進にも取り組んでいます。

木村氏:群馬県はいかがでしょうか。2023年には大手コンサル会社・アクセンチュアが県庁30階に入居する、というビックなニュースもありました。

山本氏:民間の感覚を県庁のなかに入れ、新しいコラボの可能性を発掘するという意味で、民間企業との“他流試合”や“交流”を積極的に推奨しています。

先ほど申し上げた劣化東京を作らないために、限られたリソースのなかで費用対効果を最大化する「ワイズ-スペンディング(賢い支出)」、政府の補助金や民間投資を引き込み「投資のパイ自体を大きくする」の2つが必要です。アクセンチュア様との取り組みはこれにあたります。

さらに申し上げれば首長と経営者によるトップセールスも重要な視点です。群馬県には私が直接経産省からリクルートしてきた全国最年少の副知事(前・経済産業省政策企画委員 宇留賀敬一氏)がいますが、彼と2人で東京の企業にトップセールスをかけています。民間と行政がWin-Winの関係を築くには、トップ同士で目的を共有することが非常に大事だと思います。

木村氏:なるほど。決められない人同士で話をしても時間がかかるばかり。そこにかけた労務もムダになるかもしれなません。決められる人同士で話せば、それをやるのにどれくらいのリソースが必要なのか逆算することから入れるためモノゴトが早く進みますよね。内藤市長からは先ほどメルカリとの協業についてご紹介いただきましたが「民間×行政でつくるチームのあり方」についてどのようにお考えですか。

内藤氏:徳島市では、古くから地元で事業を展開してきた多くの中小企業の皆様がいらっしゃいます。働き方改革・ウェルビーイング・男性育休など世相を賑わせていますが、30~50名規模の中小企業だと実現していくことは大変です。

徳島市は、こうした地元中小企業の悩みを共有できる場として、2023年2月「とくしまダイバーシティフォーラム」を開催しました。自治体フォーラムの多くは、理想論で終わってしまいがちですが、このフォーラムでは、各々の企業が抱える切実な悩みを共有したうえで、まち全体として、どのような取り組みが必要なのかといった解決策を考えることができました。

このことを「民間×行政」におきかえると、『その関係性は、もはや「民間」「行政」という区切りがあるものにあらず。民間・行政の分け隔てのない”融合”である。』と言えます。

地域経済創発を実現するための次なるアクション

木村氏:3つ目の問いは「地域経済創発を実現するために必要な次のアクションとは?」。最後のトピックとして、直近の取り組みとともに今後の展望をご紹介ください。

東氏:私たちが今掲げているのは循環型社会構築に向けた「サーキュラーヴィレッジ構想」です。最近ではユニ・チャーム株式会社と連携し、使用済み紙おむつ由来の再生プラスチックを配合した「紙おむつ専用回収袋」の活用を進めており、大崎町の構想は共感くださる大勢の方々に応援いただいています。

これからも積極的に民間企業と連携をしながら循環型まちづくりを達成していきたいです。同時に大崎町として長年取り組んできたリサイクルの取り組みを“世界標準”として国内外に送り出していきたいです。

内藤氏:徳島市では、民間主導で「徳島イノベーションベース(TIB)」を開設しています。「起業家が起業家を生み育てる」をコンセプトとした”起業塾”のようなところで、国内で活躍する起業家を講師とした講演やワークショップなどの学習機会を提供しています。

これまで地方には、そうしたコミュニティがありませんでしたが、実際に参加した徳島の多くの企業も新たな成長の場として刺激を受けています。

徳島市としては、これからも「徳島市、また何か面白そうなことをしているな」と取り上げてもらえるような情報を発信しなから、地域の課題解決のための新しいアクション・取り組みにつなげたいと考えています。

山本氏:やりたいことがたくさんあるのでどれを話そうか迷ってしまいますが、例えば群馬県は漢方薬に使われるトウキの生産拡大を開始し、県としても今春からトウキの新規生産・生産拡大の費用の一部を補助する方針です。

これまで群馬県のトウキ栽培量は北海道に次ぐ2番目でした。私は日本の漢方薬シェアの6〜7割を占める株式会社ツムラの社長に会い「群馬県として2032年までに70トンの生産量を140トンまで上げたい」とお話ししました。

群馬県の特産品といえばこんにゃくですがトウキ栽培はこんにゃく生産の裏作にもなります。うまく導入すればこんにゃく農家の経営が安定する、ということでここでもトップセールスを行いました。

そうした県域の活動は国内企業だけでなく外資企業ともつなげられる可能性があると思います。今後も地域の強みを外部につなげていくことがますます重要になっていくと考えています。