三井不動産

沖縄と共に成長する。オリオンビールが示した、これからの地域と企業の循環モデル

2026.08.07(金) 17:01
この記事は約5分で読むことができます。
沖縄と共に成長する。オリオンビールが示した、これからの地域と企業の循環モデル

沖縄には年間1,000万人を超える観光客が訪れる。しかしその消費の多くは、本土から進出してきた企業へと流れ、地域の中でお金が循環しない「ザル経済」の構造が長年指摘されてきた。

一方で、2024年にオリオンビールは県内製造業として初めて株式市場に上場した。同社は今、「沖縄と共に循環成長するビジネスモデル」を掲げ、沖縄経済の構造的課題に挑んでいる。

同社のモデルは、補助金や外部資本への依存から脱却し、自立した経済圏を築こうとする沖縄を変えるきっかけになるのか。コーポレートバリュー・クリエーション部長の齋藤伸太郎さんに話を聞いた。

「沖縄体験」がオリオンブランドを広げる原動力に

──オリオンビールでは現在、「沖縄と共に循環成長するビジネスモデル」を掲げています。上場後、あらためて地域との成長を志向した背景を教えてください。

齋藤:今回、県内の製造業として初めてIPO(上場)を果たしたことは、創業時の思いに深くリンクするものがありました。

1957年当時、私たちの創業の思いは「郷土の若者に勇気と希望を与えたい」というものでした。一次産業が中心だった沖縄に、二次産業をしっかり育てることが持続的な産業基盤の形成につながる。その使命感が、創業者の原動力でした。

IPO及びその前に行ったMBO(経営陣による自社買収)は、ある意味、自分たちが何者なのか、競争力の源泉が何かを見つめ直すプロセスでした。その中でより原点に回帰したように思います。

ビール業界には大きな会社がたくさんあり、我々のシェアは1%ほど。では、我々の差別化要因は何かというと、「オリオン≒沖縄」というところに行き着くんです。

沖縄に訪れた観光客の皆さんが、オリオンビールを飲み、ロゴ入りのTシャツを来たりバッグを持ったりしてくれるのも、私たちのブランドが沖縄のブランドとして刷り込まれているからこそ。この「オリオン≒沖縄」ブランドをどう守り、育て、世界に広げていくか。それが我々のビジネスモデルの真ん中にある問いです。

そしてその一丁目一番地は、沖縄の県民に愛されること。これが、すべての循環の出発点です。沖縄の県民146万人というのは、マーケットとして見れば決して大きくはありません。しかし、この小さなマーケットで圧倒的に愛されることが、次の循環を生む力になるのです。

──土地に根ざしたビールブランドは他にもありますが、ローカルブランドとしての強さと市場のサイズは、反比例するように感じます。

確かに、規模を大きくしていくにつれて、地元のブランドとしての求心力が薄まっていくケースも少なくありません。でも我々の戦略は、ローカルの濃度を濃くしながら広げていくということなんです。

観光客の方々のオリオンビールに対する認知度は96.9%、飲酒経験率は71.7%という数字があります。沖縄に来たら、居酒屋でオリオンビールを飲む。ここで「オリオン体験」が刷り込まれるからこそ、沖縄から帰った後も飲みたくなるのです。

県民の皆さんに愛されるブランドであり続けることは、単なるローカル戦略ではありません。海外展開を含めたすべての成長の土台なんです。沖縄という場所が、我々のビジネスモデルの真ん中にある理由はそこにあります。

齋藤 伸太郎(さいとう・しんたろう)

オリオンビール株式会社 コーポレートバリュー・クリエーション部長。沖縄県で製造業初となるオリオンビールのIPO実現に携わり、現在は沖縄の社会課題解決に貢献するインパクト創出にも取り組んでいる。

ホテル・工場・フェスが生む「オリオン体験」の連鎖

──オリオンビールでは飲料の提供だけでなく、イベントも積極的に展開しています。これもオリオンブランドの体験価値を高めるためなのでしょうか。

そうですね。私たちは沖縄に訪れた人がオリオンビールを「飲む」だけでなく、「体験」できる場をいかに作るかを、非常に重視しています。

年間で6万人以上の方にお越しいただいているビアフェストは、まさに「オリオン体験」を象徴するイベントです。音楽と食とビールが一体となって、沖縄の熱狂を全身で感じてもらう。この体験が、参加した方々の心の中に深く刻まれる。そして帰った後も、スーパーでオリオンビールを見かけると、あの夏の夜を思い出してくれる。そういう連鎖を意図して設計しています。

また、本部町にある「オリオンホテル モトブ リゾート&スパ」も同じ考えで運営しています。美ら海水族館の目の前、エメラルドビーチを一望できる全室オーシャンビューのリゾートホテルで、目の先には伊江島に夕日が沈んでいく絶景があります。ここに泊まり、オリオンビールを飲みながらその景色を眺める。そういう体験が、お客様の記憶に深く刻まれるんです。

オリオンホテル モトブ リゾート&スパ(写真提供:オリオンビール)

──沖縄北部といえば、名護市に工場もありますね。名護工場での取り組みも、体験設計の一部になっているのでしょうか。

そうですね。名護工場のオリオンハッピーパークでは、醸造工程の見学や試飲を楽しんでいただけます。やんばるの豊かな自然の水を使って、どのようにビールが作られるのかを実際に見ていただく。ビールの味だけでなく、その背景にある沖縄の自然や文化まで含めて体験してもらうことが、ブランドへの愛着を深めることにつながっていると思っています。

そもそも、名護に工場を構えたのは、ビール作りに最も適した水がやんばるにあったからです。やんばるの自然資本を借りて事業を営む企業として、この地域の未来をどう守り、育てるかは我々の大きな責任です。

オリオンハッピーパーク(写真提供:オリオンビール)

だからこそ、2026年7月に立ち上がった沖縄やんばるDMOにも社員を派遣し、参画しています。本部町、今帰仁村、名護市、大宜味村といった自治体は行政単位では別々ですが、地域を訪れるお客様にとってそんな区画は関係ありません。

沖縄県北部地域の行政機関、民間事業者、教育機関が一体となり、やんばる全体の魅力を面として届けるために、地域のプレイヤーたちと一緒に10年先、20年先の議論が進むことを期待しています。沖縄北部地域全体が豊かになることが、我々の成長の土台であり、自然への恩返しでもあると考えています。

グローバル展開の起点も、「沖縄体験」から

──海外展開についても伺えますか。どのような市場を中心に展開されているのでしょうか。

現在、韓国・台湾・アメリカを中心に展開しています。海外売上は年平均成長率(CAGR)13.8%という成長を計画しており、特に昨年はアメリカ市場が大きく伸びました。

アメリカでの強さには、少し独特な背景があります。日本にある米軍基地の約7割が沖縄に集中していますよね。沖縄に駐留した軍人やその家族は、生活の中でオリオンビールに自然と触れ、沖縄の文化や暮らしに馴染んでいく。

任期を終えてアメリカ本土に戻った後も、スーパーやバーでオリオンビールを見かけると、あの沖縄での日々を思い出してくれる。現在、沖縄に住んだことのある方がアメリカ本土に約1,000万人いると言われていて、南カリフォルニアやハワイなど基地周辺都市で特に強いのはそういう背景があるんです。

韓国・台湾は飛行機で1〜2時間という近さもあって、沖縄への観光客がとても多い。沖縄でやっているビアフェスと同じことを現地でもやって、オリオン体験を届けていく。それがブランドの根付き方を大きく変えてくれています。

ヨーロッパはこれまで攻めきれていなかった市場でしたが、昨年からイギリスの醸造所にレシピをお渡しして現地生産・販売してもらうライセンス生産モデルを立ち上げました。テムズ川のほとりのパブで、イギリスの方々がオリオンビールを飲んでいる。その光景は、我々のミッション「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」が体現された、シンボリックな光景です。

──市場ごとに異なるアプローチを取りながらも、共通している考え方はありますか。

どの市場においても、起点は「沖縄でのオリオン体験」なんです。沖縄で体験したオリオンビールへの記憶や愛着が、帰国後の消費行動につながっていく。アメリカの元軍人も、台湾や韓国の観光客も、イギリスの醸造パートナーも、みんな何らかの形で沖縄との接点がある。

だからこそ、沖縄でのブランド体験の質を高め続けることが、海外展開の土台になる。それが、我々のグローバル戦略の本質です。

 「ザル経済」の構造から抜け出す、企業と地域の成長の循環

──オリオンビールほど、地域に投資することの合理性を株主に説明しやすい企業はないですね。

そうだと思います。我々のブランドの価値は沖縄と不可分です。だからこそ、沖縄が豊かになることは、株主へのリターンを最大化することと矛盾しない。地域への投資が、経済的な合理性を持つ。これは、我々が地域企業としての強みであり、責任でもあります。

国であったり地方行政がやるべきことだという考え方もあるかもしれません。でも、我々のような事業会社が地域に投資すれば、その恩恵は循環して我々に戻ってきます。地域が元気になれば、ビールが売れる。ビールが売れれば、また地域に還元できる。この循環を、これからも回し続けていきたいと思っています。

──沖縄経済全体の自立という観点から、オリオンビールはどのような役割を果たせると考えていますか。

沖縄はまだまだ経済を成長させることができると思っています。観光客がこれだけ来て、これだけ恵まれた自然と文化がある。それなのに、地域の中でお金が循環せずに外に出ていってしまう、いわゆる「ザル経済」の構造から抜け出せていない。

その構造を変えるためには、我々のような地場の企業が稼ぎ、その収益を地域に還元し、また地域が豊かになることで我々の事業も伸びていく、という好循環を意識的に作り出すことが必要だと思っています。

沖縄という小さな島から生まれたビールが、世界の人々を笑顔にする。その循環を大きく、力強くしていくことが、我々オリオンビールの使命です。そして同時に、その循環が沖縄の大地に還ることで、この島がもっと豊かになっていく。私たちができることは、まだまだたくさんあると信じています。

イベント情報はこちら