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“半導体特需”に沸く熊本。阿蘇くまもと空港からはじまる「街づくり」構想

2026.08.27(木) 17:00
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“半導体特需”に沸く熊本。阿蘇くまもと空港からはじまる「街づくり」構想

熊本地震からの「創造的復興」を契機に、ターミナルを一から建て替え、生まれ変わった阿蘇くまもと空港。

空港の運営を民間企業に委託するコンセッション方式が導入され、三井不動産を代表企業とする民間企業12社が「熊本国際空港株式会社」を設立した。

三井不動産のほか、メディア、交通、電力など、多様なプレイヤーが空港運営に携わることで、空港を「地方創生の拠点」へと再定義しようとしている。

今、熊本では空港を起点にどのような構想が描かれているのか。空港の運営に携わる熊本国際空港 営業推進部の相澤 仁さん(三井不動産より出向)と、空港周辺で「サイエンスパーク構想」を進める三井不動産の島田 清仁さんに話を聞いた。

空港を熊本地震の創造的復興のシンボルに

阿蘇に代表される豊かな自然環境と観光資源に恵まれた熊本県。近年では、台湾の半導体メーカー・TSMCの進出をきっかけに、産業分野でも注目を集めている。

半導体産業の地域経済への波及効果が見込まれるなか、空の玄関口である阿蘇くまもと空港は、2023年にターミナルビルをゼロから立て直してリニューアルを果たした。高まるビジネス需要の受け皿として、期待が高まっている。

その転機となったのは、2016年の熊本地震だ。当時、空港のターミナルビルは地震の影響で大規模な被害を受けることになった。しかし、熊本県は空港を単なる復旧の対象で終わらせようとはしなかった。

熊本国際空港 相澤 仁さん(三井不動産より出向)

「熊本県は阿蘇くまもと空港を創造的復興のシンボルと位置付け、空港を活性化させ、交流人口を拡大させて地域を発展させる構想を強く掲げました。ただ元に戻すのではなく、熊本の未来を支える拠点にしようと考えたのです」(相澤)

ターミナルビルを建て替え、地域創生の戦略的拠点にするには、民間の資金とノウハウが必要になる。そこで選ばれたのが、民間に運営権を委ねる「コンセッション」という手法だった。

運営に名乗りをあげた三井不動産は、九州電力、九州産業交通ホールディングス、テレビ熊本などの地元企業を含む、計12社のコンソーシアムを組成した。専門性もバックグラウンドも異なる企業が一つの空港を運営する、異例の座組だ。

「異なる企業文化や事業領域を持つ12社が集まっているからこそ、時には考え方や価値観の違いから難しさを感じる場面もあります。ただ、それは裏を返せば、多様な視点から空港のあり方を議論できるダイバーシティ的な環境でもあります。

地域や九州の特性を深く理解する地元企業に加え、空港運営の専門性を持つ企業、航空分野に知見を有する総合商社など、それぞれが持つ経験やノウハウが融合することで、一社単独では実現できない発想や価値創出につながっています。

また、この挑戦は新たなメンバーだけで成り立つものではありません。これまで空港を支えてこられたプロパー社員の皆さまが培ってきた知見や経験が重要な基盤となっています。

異なる強みを持つ12社と現場の知見が一体となることで、空港を単なる交通インフラとしてではなく、地域経済や交流を生み出すプラットフォームへ進化させていく――そうした点に、このコンソーシアムならではの大きな価値があると感じています」(相澤)

日本初、内際一体型の「滞在型ゲートラウンジ」

これまで空港コンセッションでは、部分改修やリノベーションの事例はあったが、ゼロからの建て替えは熊本が国内初だった。新設されたターミナルビルには、更地から新築するからこそできるコンセプトが採用された。それが、保安検査後のエリアを充実させた「滞在型ゲートラウンジ」と、国内線・国際線を一つに集約した「内際一体型ターミナル」だ。

日本の空港の多くは、店舗や商業施設が保安検査場の「外」に集まっている。一方、阿蘇くまもと空港では、それを大胆に「中」へ入れ込んだ。

「日本の空港は、海外、特に欧米の主要空港と比較すると、飲食店や商業施設が保安検査場の手前に配置されているケースが多く、利用者の方も時間を気にしながら保安検査へ向かわれる傾向があると感じていました。

そこで阿蘇くまもと空港では、従来の『待つだけ』になりがちだった搭乗前の時間を、旅の満足度を高める時間へ変えることを目指しました。

余裕を持って空港へ来ていただき、保安検査後も出発ギリギリまでゆっくり食事や買い物を楽しみながら、熊本らしさを感じていただく。そのために、飲食や滞在機能を搭乗ゲート側に充実させた“滞在型ゲートラウンジ”という考え方を採用しています」(相澤)

さらに、「内際一体型ターミナル」にすることで、この充実した空間を国際線の搭乗客にも楽しんでもらうことができる。

「これまで国内線と国際線でターミナルビル自体が別々でした。それを一つに集約し、動線のレイアウトを工夫することで、国際線のお客様が保安検査場を通過した後でも、国内線の商業エリアへ行き来できるような仕組みを取り入れました。海外の方に最後まで熊本を楽しんでいただくための熊本空港独自の仕組みです」(相澤)

お客様には少しでも早く保安検査場を通過してもらい、余裕を持って食事や買い物を楽しんでもらう。この発想を支えているのは、「ららぽーと」などを運営してきた三井不動産のノウハウが活かされている。

「空港は、最初に熊本に触れ、最後に熊本を感じる場所であり、重要なタッチポイントです。だからこそ、館内の店舗は熊本ゆかりのお店で揃えました。三井不動産のノウハウ、そしてコンソーシアムに参画する各社のノウハウを集めてつくり上げたエリアです」(相澤)

そして熊本空港は、半導体産業の発展とともに、旅客数を大きく伸ばしていく。リニューアルした2023年に週7便だった国際線は、現在週46便(2026年6月15日現在)にまで拡大した。2025年度の旅客数は385万人と過去最多を更新し、国際線はほぼ倍増。2024年度の決算では民営化後初の黒字も達成した。

「空港は、単なる商業施設ではありません。人・モノ・地域を結び、新たな交流や経済活動を生み出す交通インフラの拠点です。

商業施設であれば、来館者を増やし、施設内消費を高めることで成長を描くことができます。しかし空港は構造が異なります。航空機が就航し、その路線がお客様に選ばれ続けて初めて、空港としての価値も収益も拡大していきます。

だからこそ、私たちが目指しているのは『施設運営』ではなく、『航空需要を継続的に創出するプラットフォーム』の構築です。地域とともに需要を育て、航空会社にとって魅力ある市場を形成し、新たな路線や増便を呼び込み続ける。その循環をつくれるかどうか——ここから先が、空港事業における本当の勝負だと考えています」(相澤)

熊本に誕生する新しい半導体の街。サイエンスパーク構想とは

TSMC進出による新たな人の流れの受け皿となった阿蘇くまもと空港。空港周辺で、「地方創生の先進地域」の実現を目指していた熊本県は、この高まるビジネス需要を受け止め、空港のすぐそばに新たな半導体産業拠点を生み出そうという動きを本格化させている。

その代表例が、熊本県が打ち出したまちづくり構想に、三井不動産が県の公募に応じる形で参画している「くまもとサイエンスパーク」構想だ。空港に近接するエリアに、半導体関連企業の生産拠点だけでなく、研究開発(R&D)やオフィス機能までを集約した新たな産業の街を生み出そうというものである。

このサイエンスパーク構想を担当するのが、三井不動産 産業ソリューション開発部の島田清仁さんだ。島田さんはTSMC進出の動きを受け、2024年4月に開設された「熊本分室」に立ち上げから携わってきた。島田さんもまた、熊本のポテンシャルの高さを強調する。

「今回TSMCが進出したエリアは、もともと東京エレクトロンやソニーの工場があった場所です。かつて『シリコンアイランド九州』と呼ばれたように、この地域には半導体産業が成立しやすい土壌がすでにありました。そこにTSMCという台湾企業が進出してきたことで、状況はさらに加速しています。九州は台湾をはじめとするアジア圏に最も近いエリアでもあります。この地の利を活かして新たな産業拠点を構築していくことに、我々としても非常に大きな勝機があると考えています」(島田)

ここで効いてくるのが、三井不動産が空港を運営しているという事実だ。

「地方で新しい事業に取り組むとき、空港というインフラを担っている事実は、地元でのネットワークを広げる強力な後押しになります。『三井不動産が空港をやっているんだ』と、地元の経済界や産業界の方々に広く認知していただける。そこで生まれる信頼感は非常に大きいと感じています」(島田)

空港は、交通のハブであるだけでなく、情報とネットワークのハブにもなる。その土壌の上に、サイエンスパーク構想は立ち上がろうとしているのだ。

サイエンスパークが立ち上がれば、いずれ地域に多大な経済効果をもたらすだろう。

「雇用は、サイエンスパークの中だけで数千人規模になると思います。県外から来る人もいれば、周辺地域の働き手もいるでしょう。経済効果の部分が一番大きいと思っています」(島田)

人が増えれば、飲食店、宿泊施設、そして住居などさまざまな需要が生まれる。そこでもまた、三井不動産の「街づくり」のノウハウが生きる場面が出てくるだろう。熊本に今まさに新しい街が立ち上がろうとしている。

空港が、地方創生の起点になる

鉄道会社が駅を中心に街をつくるように、これからは空港をハブにして産業と暮らしが広がっていく。島田さんは、この動きを一過性のものとは見ていない。

「空港は人が集まる場所です。県外から熊本を訪れる人の多くが、この空港を利用します。だからこそ、空港の存在をフックにして、デベロッパーとして周辺地域の活性化にコミットしていく。これは極めて普遍的なアプローチだと思っています。日本の空港民営化はまだ始まって10年ほどの新しい動きですが、そこに私たち不動産企業が参画し、街づくりを担っていくことには、大きな面白さと可能性を感じています」(島田)

サイエンスパーク構想の存在は、阿蘇くまもと空港の運営にも大きく影響を与える。相澤さんはサイエンスパーク構想を踏まえ、空港の展望を次のように語る。

「サイエンスパークによってビジネス需要が拡大すれば、ビジネスクラスを備えた中型機・大型機の誘致にもつながります。一方で、阿蘇や天草という豊かな自然資源を生かした観光ルートもさらに創出していく。産業と観光、その両輪を回していくことが私たちの役割です。人が増え、新たな交流が生まれ、それが空港利用の拡大につながる。そうして空港事業が発展すれば、さらに地域へと還元していくことができます」(相澤)

単なる通過点に過ぎなかった空港が、人と情報、そして産業が交差する「地方創生の拠点」へと変わっていく。

阿蘇くまもと空港が示しているのは、交通インフラの再定義であり、地域が生き残るための新たな選択肢だ。空港を起点にした街づくりの波は、日本各地へと広がっていくかもしれない。

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