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なぜ急成長スタートアップは47都道府県を目指すのか? 「地域から勝つ」新戦略とは

2025.09.22(月) 15:36
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なぜ急成長スタートアップは47都道府県を目指すのか? 「地域から勝つ」新戦略とは

地域の企業にとって、ファイナンスの選択肢は極めて限られている。デットは実績主義で、エクイティに関しても投資家の目は地域に向いていない。そんな地域の企業に、「補助金」というもう一つの選択肢を提示するのが、株式会社Staywayだ。

同社は、金融機関などを通じて中小企業を支援するSaaS「補助金クラウド」を展開。2023年には本社を東京から大阪へ移転し、「47都道府県ローカルスタートアップ戦略」を掲げて全国の地域経済に深く入り込もうとしている。

Stayway 代表取締役の佐藤淳氏に、同社が解決しようとしている地域課題と、地域×スタートアップの可能性について聞いた。

「伸びない売上」「人手不足」地域経済が抱える構造的な課題

──改めて、Staywayが展開する「補助金クラウド」について教えていただけますか。

地域の中小企業が生産性を上げていくには設備投資が不可欠ですが、その原資を確保するのが難しいという課題があります。国は、その投資を後押しするために公的な制度として補助金を用意しています。しかし、実は年間で数兆円規模の補助金予算があるのですが、多くの中小企業はそもそも補助金の存在を知らないし、申請方法も複雑で分からない。うまく提案してくれる人もいない状態でした。

「補助金クラウド」は、地域の中小企業にとって身近な存在である金融機関や士業・商工会などを通じて、最適な補助金の提案から申請支援までを一貫して行えるようにするBtoBtoBモデルのSaaSです。全国3000種類以上の補助金・助成金情報をデータベース化し、AIを活用して企業と最適な補助金制度をマッチングします。

申請書類の作成支援機能も搭載しており、金融機関や士業・商工会の担当者は専門知識がなくても、顧客企業に適切な補助金を提案し、申請までサポートできる仕組みです。

──佐藤さんは補助金申請や経営支援の現場で地域の企業と接することが多いと思います。佐藤さんから見た地域経済が抱える課題について教えてください。
 
地域の中小企業がもっとも悩んでいるのは、やはり労働生産性が上がらず、売上が伸びないことです。
 
一方で、最近はかなりインフレが進んでいて、従業員の生活を考えれば賃上げは待ったなしの状況です。しかし、儲かっていないので賃上げの原資がない。結果、給与を据え置くと人が辞めてしまい、深刻な人手不足に陥るという悪循環が起きています。
 
さらに根深いのが、日本の労働法に起因する構造的な問題です。一度上げた給与は、業績が悪化しても柔軟に下げることができません。これは、業績の波が大きい中小企業の経営者からすると、非常に大きなリスクです。
 
好調な年に思い切って賃上げをしてしまうと、翌年不調になった際に固定費が経営を圧迫し、会社が赤字に転落しかねない。この恐怖心が、賃上げに対する慎重な姿勢を生み出しているのです。
 
──何らかの形で地域の中小企業も資金を調達しなければならないわけですが、地域のファイナンス環境についてはどのように捉えていますか。
 
典型的な地方の中小企業は、2代目、3代目が継いでいて、何十年も同じビジネスモデルでやっています。利益が出ている企業であれば銀行からの融資は受けられますが、小規模で利益が出ていない企業には、金融機関も貸しづらいのが現実です。
 
また、エクイティ調達も、そもそも地方の中小企業には馴染まないと思っています。地方企業でエクイティ調達をするという発想自体が少ないですし、エクイティを受け入れて伸ばせるようなビジネスモデルになっている会社もほとんどありません。利益が少なく、業績が横ばいという状態では、エクイティ投資をしても投資家にリターンを返す方法がないんです。
 
──だからこそ「補助金」が重要なのですね。現在「補助金クラウド」は地域にどれくらい浸透しているのでしょうか。
 
現在は提携先の金融機関が50行超に増えており、網羅率はかなり高まってきました。本来補助金を受給すべき企業が受給できる環境を、「面」で広げられているという実感があります。
 
中小企業にとって、普段からお付き合いのある地元の金融機関から提案されることの安心感はとても大きいんです。加えて、実際に補助金が採択されれば、それを使って設備投資をして、生産性を上げていける。本来受給すべき企業が受給できる環境を作ることができたと思います。
 
実際、成果も出ています。「補助金クラウド」を通じて申請された補助金の採択率は、一般的な採択率を大きく上回っています。これは、AIによる最適なマッチングと、申請書作成の支援機能が効果を発揮している証拠です。
 

なぜ、急成長スタートアップは「地域」に溶け込めた?

──Staywayも東京から大阪に本社を移転し、地域経済の一端を担う、スタートアップとしては珍しい存在になっています。その決断の背景をお聞かせください。

直接的な理由は、当社の事業モデルにありました。Staywayは「補助金クラウド」というサービスを地域の金融機関や信用金庫、士業・商工会などに提供し、その先にいる中小企業を支援する「BtoBtoBモデル」です。当社のお客様は全国に分散しているため、必ずしも東京に本社を置く必要がなかったのです。

それに加え、私自身が関西出身で、東京よりも物価が安く、広い家に住めるような生活面のメリットも考えて、関西に移りたいという思いがありました。代表である私がそう思えば移転できるのがスタートアップの良さですし、役員からも特に反対はありませんでした。

結果的に大阪への移転は、会社の業績に大きくプラスに働きました。もともと関西圏の金融機関との連携は全くなかったのですが、移転後2年半ほどで、ほとんどの金融機関にシステムを導入いただくまでになったのです。関西のマーケットは、移転を機に大きく成長しました。

──地域に拠点を構えたことで、ビジネスの進め方に変化はありましたか? 東京との違いを感じた点があれば、教えてください。

大阪に移転して感じたことの1つは、関西圏の企業はオンラインよりもリアルな対面でのコミュニケーションを好む傾向が強いということです。もちろんオンラインでも仕事はできますが、自分たちが直接お客様のもとへ足を運ぶことで、顧客満足度がより高まり、自社のプレゼンスも上がったと感じています。物理的に「近くにいる」ということが、オンラインだけの関係性を超えた信頼につながっているのだと感じます。

──とはいえ、新参のスタートアップが地域コミュニティに入っていくのは難しいように感じます。

たしかに、単に地域にオフィスを構えるだけでは意味がありません。その地域に深く入り込むには、地域のキーパーソンが集まる「良いコミュニティ」に身を置くことが極めて重要です。

私たちにとっての大きな転機は、大手銀行の元副頭取から「経済同友会に入ったらどうだ」とすすめられたことでした。

「若い経営者はあまりいないから、とりあえず立食パーティーみたいな場に毎回顔を出したほうがいい」という助言をいただき、半信半疑で参加してみたんです。すると、そこには日本を代表する企業のトップの方々ばかり。周りを見渡しても同世代のスタートアップ経営者は誰もいませんでした。

「これはチャンスだ」と思いました。ある種の逆張り的な発想ですよね。失礼のないようにしながら名刺交換を重ねていったら、それが本当に大きな取引につながっていったんです。

銀行のような大きな組織は、現場レベルで話を進めつつも、最終的にはトップダウンで物事が動くことが多いんです。経済同友会は、そのトップダウンのアプローチを可能にする非常に有効な機会だと考えています。

「47都道府県ローカルスタートアップ戦略」で全国に支援網を構築

——現在、Staywayでは「47都道府県ローカルスタートアップ戦略」を掲げて、全国への拠点展開を加速させています。どのような狙いがあるのでしょうか。

Staywayは今後の事業展開として補助金支援から、いずれは地域の中小企業の経営全般のパートナーへと進化していくことを考えています。そのとき、オンラインだけの関係性には限界があると感じました。中小企業への手厚いサポートを突き詰めていくためには、リアルな支援が不可欠です。

だからこそ、全国に物理的な拠点を置くことが、他社には真似のできない当社の強みとなり、最高の差別化戦略になると考えました。

幸い、当社の直接的なお客様である金融機関は全国に分散しているため、各地域に拠点を置いて金融機関の支援体制を強化することには、十分な経済合理性があると判断しました。他のスタートアップがやらない、かつ、当社のビジネスモデルだからこそ成立する勝ち筋があると確信しています。

——現在の展開状況を教えてください。

現在は8拠点まで広がっています。仙台、新潟、東京、名古屋、大阪、福岡に主要拠点があり、サテライトオフィスが神戸、岡山にあります。今後は札幌、静岡、北陸、香川などに広げていく予定です。

最近だと新潟にオフィスを出したのですが、新潟大学出身で新潟の商工会出身という、「ド新潟」の人材を現地採用で支社長として迎えました。「支社長」というポジションは、なかなかできない経験だと思いますし、実際すぐに良い人材が見つかりました。

興味深いのは、新潟にオフィスを作ってすぐに、新潟の金融機関と業務提携をすることが決まったことです。「新潟にオフィスを作るんですね。じゃあぜひ提携を……」と、とんとん拍子で話が進みました。

新潟は東京から新幹線で2時間ほどなので、多くの企業は東京の担当者が出張ベースでカバーします。しかし、当社では現地にオフィスを構え、地元の人を採用した。その本気度が信頼につながり、圧倒的なスピードで当地の金融機関と提携できたのだと思います。

スタートアップ×地域が生み出す成長機会

——改めて、スタートアップが地域に進出するメリットは何だと思いますか。

まず、人材採用の優位性があります。地方に行けば行くほど、伸びているスタートアップは少ない。東京だと競合が多くて埋もれてしまいますが、地域だと「あの成長企業」として認知されやすいのです。

しかも、地域には優秀な人材が埋もれています。家庭の事情で地元を離れられない、けれど能力は高いという人材が結構いるんです。そういった人材に、地元で働きながらスタートアップで成長できる機会を提供できるのは、双方にとってメリットがあります。

実際、当社では大阪に移転後、書類選考も含めると東京にいたときの50倍くらいの応募をいただいています。

次に、顧客からの信頼獲得です。地域に物理的な拠点があることで、「この地域に根を下ろして事業をやっていく」という姿勢がより伝わり、地元企業や金融機関の信頼を得やすくなります。

社内的にもメリットがあります。東京だけに拠点があって、「全国350万社の中小企業を支援する」と言っても、どこか抽象的になりがちです。

でも、実際に全国に仲間がいて、それぞれの地域で中小企業を支援している姿を見ることで、社員一人ひとりが「本当に全国の中小企業をサポートしている会社なんだ」という実感を持てる。多様な地域、多様な価値観の仲間と働くことが、当社のミッションを具体的で身近なものにしてくれると考えています。

——最後に、今後の展望をお聞かせください。

まずは、「47都道府県ローカルスタートアップ戦略」を徹底的に進めていきたいと思っています。カバーできる地域が広がってきたものの、まだサポートが薄い地域もあるので、47都道府県にむらなく、質の高いサポートを届けられる体制を完成させたいです。

これまで、地域とスタートアップは縁遠い存在でした。でも私たちが証明したいのは、スタートアップこそ地方で成長できるし、地方こそスタートアップを必要としているということです。

この新しい関係性を、全国47都道府県で実現していきます。テクノロジーとリアルな支援を融合させ、中小企業と共に成長していく。それが我々Staywayの挑戦です。

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