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【飛騨】人口2万人の過疎地に大学新設。「地域」をキャンパスにしたCoIUの現在地

2026.10.20(火) 12:56
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【飛騨】人口2万人の過疎地に大学新設。「地域」をキャンパスにしたCoIUの現在地

2026年度に入学者が定員割れした四年制私立大学は全体の46.2%(出所:日本私立学校振興・共済事業団)におよぶ。

約半数の大学が定員割れする時代。そんな時代の流れを尻目に、人口約2万人の岐阜県飛騨市に2026年4月、コー・イノベーション大学(以下、CoIU)が開学した。1期生は50人。全国15都府県から中山間地域の過疎地に入学者が集まった。

POTLUCKマガジンでは、発起人であり学校法人CoIU 理事長の井上博成さんに、まだ開学前の2023年に取材している(弱冠33歳の研究者・井上博成が地元・飛騨高山の大学設置構想にいたるまで)。

高校生の頃から地元への大学設立を思い続けた井上さんの約20年越しの願いは、どのような形で結実したのか。また、開学から半年が経った現在、大学の存在は地域にどのような変化をもたらしているのか。現地での取材と関係者の言葉でたどる。

制約から生まれた新しい大学像「まちなかキャンパス」

年間数百万人の観光客でにぎわう高山の中心部から車で20分。CoIUのある飛騨市古川町は素朴で古い町並みが残る、情緒溢れる街だ。

CoIUはこの街の未活用物件に分散してキャンパスを構えている。飛騨古川町の街全体が学びのフィールドであり、キャンパスになる。飛騨古川町は街の端から端まで、歩いて15分ほど。この「まちなかキャンパス」を、CoIUの髙木朗義学長は「岐阜大学のキャンパスよりも小さい」と冗談まじりに話す。

飛騨市の人口は約2万1,000人。大学のなかったこの地域では、高校を卒業すると若者は街を出ていくのが通例だった。都竹淳也 飛騨市長はCoIU開学前の地域の様子を次のように話す。

飛騨市長 都竹淳也さん

「もともとは大学がなかったので、10代後半から20代前半にかけての世代が、この街にはほとんどいなかったのです。学生がアルバイトをしている姿など、他の地域では当たり前の光景が飛騨市にはありませんでした」(都竹)

隣の高山市出身の井上さんも以前の取材で、同じ課題について語っている。「18〜25歳の世代が、街からごっそり抜け落ちてしまっている」「大学進学=地元を出ていくこと」。自身が高校生の頃に感じた違和感が原動力となり、井上さんは大学設立への思いを抱くようになる。

井上さんは京都大学在籍時に、当時の高山市長に大学誘致を提言。その後は飛騨高山小水力発電株式会社、実家の工務店を事業承継した飛騨五木株式会社など、地域に根ざした事業を行いながら、大学設立に向けて水面下で活動を続けた。

大学設立の動きが本格化したきっかけは、飛騨市の都竹市長と話す機会を得たことだった。大学設立の構想を聞いた都竹市長は「飛騨市に良い土地がある」と協力を申し出た。2020年6月には支援協定の締結へ至った。

当初の案は、町はずれの工場の空き地に、大きな校舎を建てる計画。「当初は大きな校舎を新設する計画で、数十億円規模のプロジェクトでした。ただ、その資金を集めるのは簡単ではなかったようです」と都竹市長は振り返る。

私立大学であるCoIUの設立にあたっては資金を寄付に頼らなければならない部分が大きく、限りがあった。しかし、その制約が地域の新しい大学像を生み出すことになった。地域の未活用物件を校舎として再生する「まちなかキャンパス」だ。

Co-Innovation University学長 学校法人CoIU 理事 髙木 朗義さん

「地域には未活用の空き物件があり、リノベーションでの対応は財政面でも合理的でした。さらに、地域づくりの担い手を育てるというCoIUにとって、まちなかキャンパスは非常に相性がよかったのです。街に出れば、さまざまな教材がある。海外では街全体が大学になっているという例も珍しくありません」(髙木)

こうして、料理旅館を改修した1号館、駅前の元ホテルを改修した3号館など、市街地に点在する既存の建物を使う「まちなかキャンパス」が生まれた。

旧料理旅館を改装した1号館キャンパス
飛騨古川駅から徒歩1分にあるホテルを改装した3号館キャンパス

都竹市長は「まちなかキャンパス」を新しい大学運営のあり方として評価する。

「多くの大学には巨大な校舎が建っていますが、おそらく多額の維持費がかかっているでしょう。CoIUは建物を賃貸していて、自前の不動産を持っていません。しかも空き物件をリフォームして再利用している。極めて低コストで持続可能な形で運営できるのです」(都竹)

地域と学生が共に学ぶ、カリキュラム

CoIUは共創学部地域共創学科の単科大学だ。1期生は50人。個性豊かな学生たちが揃っているという。

「入学した学生は50人いれば50通りです。やる気に溢れていて、授業とは別に、学生が自発的に始めたプロジェクトがすでに10個ほど動いています。地域の方と一緒にマルシェを開いたり、小学校で探究学習の授業をさせてもらったり。教職員は『4年間かけて学ぶプログラムだから落ち着いたら?』と言っているのですが、学生たちは待っていられないみたいで」(髙木)

キャンパスに貼り出されていたプロジェクトシート

プログラムの核は、理論、対話、実践の循環だ。CoIUでは1年次は講義形式の座学中心で理論を学ぶ。

「地域に入れば、その地域ごとに独特の事情があります。それを理解するには、視点が必要であり、その視点こそが理論です。有名な絵画を見るとき、背景を知っていればその良さがより深くわかるのと同じです」(髙木)

3号館の講義室

そして2年次にはボンディングシップというカリキュラムで、学生を全国の連携地域へと送り出す。学生は1年間、地域に住み、現地のコーディネート団体が組んだプロジェクトに取り組む。いわば地域留学である。

「多くの大学にも実践教育はありますが、理論と結びつかないまま実践だけを行うことも多い。CoIUは理論をしっかり据えたうえで、理論と実践をつなぐ。そしてそのために対話を重視しています」(髙木)

ここでいう対話は、単なるコミュニケーションにとどまらない。プロジェクトマネジメント、コーチング、リーダーシップなど、チームワークに欠かせない力までを含む。

1号館のグループ演習室

3・4年次は自分でテーマを立てるマイプロジェクトか、実践者でもある教員のプロジェクトへの参画かを選ぶ。

将来的には3年次に立ち上げたプロジェクトがそのまま生業になったり、ボンディングシップで取り組んだプロジェクトを事業承継したり、といったことが起こるかもしれない。

CoIUが育てようとしているのは、地域の課題を起点に問いを立て、チームで解決に向かうことのできる人材。地域のスペシャリストであり、あらゆる地域の課題に対応できるゼネラリストでもある。

本格的にプロジェクトベースで地域との連携がはじまるのは、今の新入生が2年生になる来年度以降となるが、すでに講座ではCoIUと飛騨市の取り組みが、はじまっている。

都竹市長は自ら「地方政治入門」の講座を全8コマ受け持ち、市職員も観光、農林、福祉とテーマをリレー形式でつなぐ講座を持つ。地元の古川祭を研究する授業では、学生が関係者を訪ね歩き、「100年後の古川祭を維持するにはどうすればいいか」をグループで提言した。

学生との距離は非常に近く、市長がキャンパスを歩いていると、学生が気兼ねなく声をかけてくるという。学生が企画したマルシェのPRを頼まれ、当日会場に顔を出したこともある。市の総合政策審議会には20人以上の学生が傍聴に来た。「まちなかキャンパスだからこそです」と都竹市長は語る。

教員と学生の関係も同じように近い。CoIUでは教員を「先生」と呼ばないと決めていて、学生は学長を「髙木さん」と呼ぶ。

「学生は育成の対象ではありますが、私たちは共に未来をつくるパートナーだと考えています。大学の4年間だけではなく、生涯にわたって一緒に未来をつくっていくパートナーとの、最初の出会いなのです」(髙木)

大学から生まれる飛騨市の関係人口

開学の準備をしていた頃、地域の人々にCoIUの構想について話すと、賛同は得られるものの、「本当にこの過疎地に大学なんてできるのか」と懐疑的な目を向けられることも少なくなかった。

開学から半年。かつて街中で若者を見かけることなどほとんどなかった通りに、今では当たり前のように学生が歩いている。1期生50人のうち、地元から通う4人を除く46人は一人暮らしで、半数ほどは大学が用意した学生マンションに住み、残りは飛騨市内や隣の高山市に分散して暮らす。

「最近、街で買い物をしている学生やアルバイトをしている学生の姿を見かけますが、そうした風景はこれまでこの街にはありませんでした。過疎地ですから、若者がいるという事実だけでも、市民は大いに勇気づけられています」(都竹)

地域経済という観点では、CoIUの存在はどのような影響をもたらすだろうか。過疎地に大学が新設されたといっても、1年目は総勢50人。直接的な経済効果は、現状そこまで大きくないかもしれない。

都竹市長は大学が地域にもたらす効果について、次のように話す。

「学生が卒業後も飛騨市に定住するという期待は持っていません。一般的にも、大学のある街にそのまま住み続ける人はほとんどいないですよね。ただ、学生が関係人口になってくれることは間違いない。自分の出身大学があった街は、気になって、時々訪れたりするものでしょう。母校の街として関わり続けてくれることが、一番ありがたいのです」(都竹)

飛騨市は関係人口づくりの先進地域でもある。市外の人が地域の困りごとの手伝いに訪れる「ヒダスケ!」には、昨年は約1,500人が参加した。

「そうした一人になってくれてもいいし、ふるさと納税をしてくれてもいい。年に一度訪れて、懐かしい人に会って観光するのでもいい。関わりを持ち続けてさえくれれば十分です」(都竹)

都竹市長はCoIUから生まれる事業や卒業生の起業への期待についても、「飛騨のために事業をはじめる人が出てくれば最高に素晴らしいことです。ただ、それだけを期待しているわけではありません。とにかく、学生の皆さんに充実した4年間を過ごしてもらえれば」と言う。

「行政としては、経済効果がどれだけあるか、定住者が何人増えるか、といった下心を持たないことが大事だと思っています。そのうえで、学生や大学のためになるならば、何でも手伝う。CoIUは私立大学であり民間の法人ですから、行政がやるべきはその法人が目指す教育をとにかく応援することです。それが地域と大学が連携していくうえで最も大切な姿勢ではないでしょうか」(都竹)

人口減少社会の地域と大学の新しい関係

まだCoIUが開学して半年。大学経営の観点からも、地域経営の観点からも、まだその成否までを論じるのは時期尚早だろう。

しかし、人口約2万人、交通の便も決して良いとは言えない中山間地域に新たに大学ができた。この事実は大学というものがやり方次第で、さまざまな地域で設立し得る可能性を示している。

「国も大学の地方分散に力を入れてきましたが、キャンパスを丸ごと移転するという選択肢しか持っていませんでした。CoIUの『まちなかキャンパス』は、キャンパスのあり方そのものを根底から変えています。もしかすると、大きな施設を抱える既存の大学が、今後こうしたあり方を模索していくかもしれません。人口10万〜15万人程度の中規模都市であれば、街中の建物を生かしながらそうした大学を受け入れられる可能性はあると思います」(都竹)

髙木学長は「まちなかキャンパス」の他地域での再現性について次のように話す。

「できると思いますし、ぜひ真似してほしいとも思います。都市も地方も関係なく、世界中どこにでも地域には課題があります。たとえば、過疎地域だけでなく、都市部ならではの地域課題に取り組む『まちなかキャンパス』があっても面白いですよね」(髙木)

都竹市長が話すように、大学設立による地域への経済効果や定住というのは期待し過ぎなのかもしれない。一方、髙木学長はある地元企業の経営者との対話の中で改めて地域における大学の役割を考えさせられたという。

「最初は、学生と新製品の販路を広げたい、という相談でした。ところがよく話を聞くと、今の社員が決められた仕事をこなすだけになっているそうで。そこに学生が入って提案を重ねれば、社員も『新しいことをやってもいいのだ』と前向きになり、会社全体が変わっていくのではないか、と考えているというのです。学生の存在が、企業文化そのものを変えていける可能性があるのだと、改めて教えていただきました。

地域にいると『どうせ飛騨なんて』『どうせ私たちなんて』という声を聞くことが少なくありません。飛騨には魅力的な地域資源がたくさんあります。ただ、今はまだ原石です。学生が関わることで、自分たちにはもっと可能性があるのではないか、と地域のみなさんに思ってもらえる。そうしてみなさんの生業がもう一段広がり、飛騨全体が明るく元気になっていけばいいですね」(髙木)

「地元に大学を設立したい」。井上さんが高校生の頃から思い続け、さまざまな人の協力を得ながら実現させた、地域と学生が共創する大学、CoIU。数十億円の校舎ではなく、街の空きホテルと料理旅館からはじまったこの大学は、人口減少を前提にした地域と大学の新しい関係のモデルとして、いま最初の1年を歩いている。

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