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エグジットしないエクイティファイナンスが沖縄経済を活性化する

2023.04.18(火) 10:00
エグジットしないエクイティファイナンスが沖縄経済を活性化する

日本の観光地として絶大な人気を誇る沖縄県。しかし、ビジネス拠点というイメージはあまり持たれていないのではないか。そんな沖縄で、中小企業に特化して投資をする会社を立ち上げた3人がいる。目標は中小企業に勤める人たちの所得を上げること。他にあまり例を見ない独自のファンドを組成し、中小企業の経営改善に取り組むSCOM株式会社の藤本和之氏、上間喜壽氏、比嘉良寛氏に、沖縄の地域経済を活性化させる方法について伺った。

藤本和之(ふじもと・かずゆき)
SCOM株式会社代表取締役/ROS株式会社代表取締役

大阪府出身。1998年、情報通信系商社(東証一部)入社。2004年、同社グループ企業3社の代表取締役就任。2006年 、同社関連の沖縄法人に出資、同社 常務取締役就任。2008年、同社子会社を設立、代表取締役就任。2010年に独立し、ROS株式会社(旧:琉球オフィスサービス)を設立、代表取締役就任。2019年10月、ROSのグループ会社としてSCOM株式会社を設立。

上間喜壽(うえま・よしかず)
SCOM株式会社取締役/株式会社上間フードアンドライフ代表取締役会長

1985年、沖縄県うるま市生まれ。法政大学経営学部卒業後、2億円の負債を抱え、財務トラブルに陥った家業の立て直しのため代表に就任。就任から9年で売上を1億円から6億円に成長させ、弁当を軸にケータリング、沖縄そばなど事業の多角化を推進。U&I株式会社では、事業立て直しの経験から得た実践的なノウハウを、セミナー活動やマネジメントコンサルティングを通じ経営者に伝えている。

比嘉良寛(ひが・よしひろ)
SCOM株式会社取締役/株式会社Payke CFO

1990年、沖縄県生まれ。2014年に琉球大学卒業後、株式会社沖縄銀行に入行。2014年、琉球インタラクティブ株式会社に転職し、法人営業を主に担当。訪日外国人向けのショッピングサポートアプリを運営するスタートアップ株式会社Paykeの創業に関わり、2016年3月から取締役CFOに就任。

中小企業の経営を改善し、地域全体を豊かにしていく実験的な試み

──SCOM(エスコン)は、沖縄県の中小企業に出資する会社だと聞きました。どのようなことを目指して会社を設立されたのでしょうか。

藤本:SCOMのビジョンは「沖縄に10年で強いSMBを100社生み出し、3000人の従業員所得を引き上げ、10,000人の生活を豊かにすること」です。2019年末に総額1億円のインキュベーションファンドを設立し、出資を始めました。現在は石鹸の会社や整骨院、給食事業の会社など5社に投資しています。投資先には、業績に応じて給料を上げてほしいということを伝えているんです。

──ビジョンにも「従業員所得を引き上げ」と明記されていますね。

藤本:沖縄の問題は貧困、所得が低いことだと定義したんです。スモールビジネスへの投資に特化しているのは、沖縄には小規模事業者が多く、そこに勤めている人も多いから。その人達の所得で相対的な貧困が発生しています。いまだに、沖縄の中小企業では「月給15万」といった条件の求人が多く見られます。

──大企業や成長しているスタートアップでは、そのような求人は見られません。

藤本:そうなんです。ではなぜ、小規模事業者は給料が低いのか。商品力がなくて利益が上げられないから? 小規模事業者をよく見てみるとそうではないんです。問題は、経営技術に乏しいこと。経営者がどうすれば企業を成長させられるのかを知らないんです。給料も、本来は上げたほうがマネジメントしやすいんですよ。従業員のモチベーションがアップしますし、辞めなくなる。採用もしやすくなります。でも、「人件費はなるべくおさえたほうがいい」という思い込みで、最低賃金で雇おうとしてしまう。

──どういった経営が良いのかを知らない社長が多い、と。

藤本:大企業やスタートアップでは、KPIを設定して月次、ひいては週次のデータを元に戦略を決めていきますよね。でも、小規模事業者では1年に1回、税理士から決算書を出してもらってはじめて、その年が黒字か赤字かがわかる、という会社も少なくないんです。また、小規模事業者はピラミッド型の組織ができるほど従業員がいないため、トップの社長と現場で働く従業員が10名といった、文鎮型の組織になっている。多くの社長は一人で経営について考えています。

そこで、僕たちが出資をした上で、ハンズオンで経営を支援する。そうすれば、本来その企業が持っている商品力がロスなく利益に転換できるのではないか、という仮説を立てました。

上間:小規模事業者は企業全体で言えば多数派なのに、経営の質が向上しないまま放置されてきた。そこにクオリティを持ち込めば、日本社会や地域社会に大きな変化が起きるのではないか、という実験的な試みです。

IT、天ぷら屋、スタートアップ。経歴も年齢も違う3人が集まった

──SCOM3名はどのようにして集まったのでしょうか。

藤本:最初は僕が一人でエンジェル投資家として、地元の中小企業に投資するところから始めたんです。でも、すぐに壁にぶつかってしまった。僕自身はキャリアの中でBtoBの仕事しかしてこなかったんですよね。ハンズオンで支援しようにも、沖縄の中小企業はBtoCが多く、なかなかきめ細かなアドバイスができなかった。

さらに言うと、僕は沖縄に来たのが2006年。沖縄出身ではありません。以前勤務していた会社で、沖縄の現地法人を立ち上げるというプロジェクトがあり、そのために移住してきたんです。結構長く住んでいるので、現地の人間ではないことはもう関係ないかと思ったんですけど、エンジェル投資家をやってみたらやっぱり関係ありましたね(笑)。

──そこで、地元出身者と一緒にやろう、と。

上間:僕は沖縄生まれ沖縄育ちで、親から継いだ中小企業を経営してきました。スタートアップや大企業では当たり前ですが、中小企業でエクイティファイナンスはほとんどない。東京でもあまりないと思うんですけど、地方だとゼロに近い。基本的に、資金を調達する方法が銀行借入れしかない。だから、藤本さんがやろうとしていることは、新しいと思いました。比嘉さんも含めて3人で話していたら話がはずんで、藤本さんが勢いのままにSCOMの構想の資料を作って持ってきたんですよね。

比嘉:沖縄で財務や経営の話をして盛り上がれる人は、なかなかいないんですよね。この3人ははじめから話が合ったので、いけそうな雰囲気がありました。

藤本:上間さんは、沖縄で上間さんの会社の「上間天ぷら」を知らない人はいないというくらいの存在感がありました。比嘉さんは沖縄で訪日外国人向けのショッピングサポートアプリの会社の取締役として、2018年に10億調達していた。沖縄のスタートアップ界隈の有名人なんです。二人は沖縄県内の評判という部分で、僕では足りない部分を埋めてくれました。

スモールビジネスに投資するという新しいリスクマネーのあり方

上間:スタートアップというとITのイメージがありますが、地方で成長するビジネスはITに限らないと思うんです。例えば、伊勢名物の「赤福」を売る会社は売り上げが大きく財務状況も安定しているんですよ。あんころ餅のビジネスも十分成功できるポテンシャルがある。このように、地方の文化や経済条件に合わせた成功モデルがあるはずです。

僕がやっている沖縄天ぷらはローカルのB級グルメで、意外とマーケットが大きい。数店の小さなプレイヤーが細々とやっている中で、僕は親から会社を継いでから、組織化し、「上間天ぷら」としてブランディングし、事業の多角化をして……と経営をアップデートしていったら、収益が伸びていったんです。これは、全国各地のいろいろな事業で起こりうる変化だと思います。新しい時代の地方の中小企業をつくっていくことには、大きな意味がある。

写真提供:上間フードアンドライフ

藤本:沖縄の行政はIT系のスタートアップや観光業に、地方創生の期待をかけているようです。でも、成長できる会社ならITや観光でなくてもいい。シリコンバレーを中心にIT産業で成長したアメリカを参考にしているんでしょうけど、ドイツ的な経済発展の仕方もあります。僕の会社ROS(旧:琉球オフィスサービス)も、ホームページ制作の会社ですからね。それでも毎年成長できています。

シリコンバレーで真似したほうがいいのはエコシステムがあること。スタートアップが急成長できるのは、VCも含めたエコシステムが存在していて、成長の方法をフォーマット化して再現性を高めたからだと思います。これは、同じ株式会社なので小規模事業者にも応用できるはず。

ではいま、エコシステムの要素として何が足りないか。リスクマネーの供給者やGP(General-Partner)になる人だと仮定しています。実はファンドって、金融庁にGPの登録をすれば簡単につくれるんですよ。でも、47都道府県に民間のファンドがぶわーっとできてこないのは、地方に数多あるスモールビジネスに出資して、バリュエーションを上げていく実例がこれまでなかったからだと思います。

それは、スタートアップができ始めた頃もそうだったはず。そこから、2005年にシードアクセラレーターのY Combinatorが設立されたりして、このアクセラレータープログラムに採択されたスタートアップは成功し、スタートアップに投資することでVCも儲かり、お金を入れたLP(Limited-Partner)も儲かるというイメージがつくられていった。業界全体が盛り上がっていったわけです。こうしたエコシステムを地方のスモールビジネスでもつくっていきたい。SCOMは、YCOM(Y Combinator)のもじりでつけたんですよ。

──だから読み方が「エスコム」ではなく「エスコン」なんですね。

藤本:小規模事業者はスタートアップと違ってIPOを目指さないし、M&Aも活発ではない。出口がないから、リスクマネーを入れづらかった。でも、出口のデザインさえすれば、リスクマネーを供給できるはずなんです。僕らは、エクイティを買い戻してもらうことで出口にしています。

上間:この方法だと投資先のバリュエーションが減ると、僕らも減損する。コンサルティングフィーをもらうのではなく、一緒にリスクを負う投資なので、投資先にとって納得感もあると思います。

藤本:また、中小企業はバリュエーション自体が難しいことも、投資しづらい理由の一つだったと思います。これについてSCOMでは、純資産+利益3年分というシンプルな計算で考えています。キャッシュフローが出ている会社であれば、3年後にバリュエーションは数倍になる。スタートアップへの投資は「千三つ(0.3%)」と言われるくらい成功確率が低いですが、想定通りに時価総額が上がるのであれば中小企業へ投資するファンドは悪くないと思うんです。このやり方が機能すると証明できたら、沖縄の法人1万5000社のうち、約1万4000社が投資対象になる。リスクマネーのあり方に大きな変化が生まれる可能性があります。

上間:出資を受けることで、エクイティの話ができる中小企業の経営者が増えることも、また大きな変化ですよね。株式会社の経営者なのに、株式のことがわかっていないのは不便だと思うんです。エクイティを使って資金調達をするのは、株式会社の機能そのものなのに。

藤本:株は極力渡しちゃいけない、と思っている中小企業の経営者は多いですよね。株式会社ならば武器として使ったほうが会社のためになると思います。

「沖縄の中小企業はやたら強い」と言われる未来を目指して

藤本:僕らの活動が実を結んで、「沖縄の中小企業、やたら強くない?」と言われるようになったらいいですよね。沖縄の中小企業の利益率の統計をとってみたら他の地域の会社よりも5ポイント高い、扱っている商売は普通なのにやたら経営効率がいい、といったことが数字で出てくるようになればいいなと。

上間:中小企業なのに、経常利益10億円以上出している会社がいくつもある、とかね。

比嘉:そうしたことがメディアに取り上げられるようになると、ブレイクスルーが起きますよね。

上間:さらに、沖縄で起業して、日本に展開せずにそのままアジア展開して急成長するといった事例が出てきたらおもしろいですよね。沖縄でテストして、グローバルマーケットの感覚を掴んで、世界に出ていくという場所になるかもしれない。そういった意味で、他とは違う独特な経済素地ができていく可能性がある、エキサイティングな地域だと思っています。

(編集:野垣映二 執筆:崎谷実穂 撮影:ヤマミヤトシアキ)