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地域に新産業誕生!?「人工太陽」が日本のエネルギー問題と地域を救う

2026.03.27(金) 16:24
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地域に新産業誕生!?「人工太陽」が日本のエネルギー問題と地域を救う

日本のエネルギー自給率はわずか15.3%(2023年度)。多くを海外からの輸入に頼るこの脆弱な構造を根本から変えようとしているのが、「核融合」という次世代クリーンエネルギーだ。

株式会社Helical Fusionは、「核融合」技術を用いた発電所の実用化を目指す、日本発のスタートアップ。同社が描く未来は、日本のエネルギー問題の解決にとどまらず、地域の産業地図をも大きく塗り替える可能性を秘めている。

国内のものづくりの技術を結集する発電所の建設費は1兆円規模にのぼり、メンテナンスを加えると経済効果はその倍以上にもなるという。この先端技術と地域経済はどのように交差するのか。同社代表取締役CEOの田口 昂哉さんに話を聞いた。

「核」だけど原子力とは違う? 「核融合」とは何か

──まず、「核融合」とはどういうものなのか教えてください。原子力発電所とは違うのでしょうか。

「核融合」と聞くと、原子力発電所を想像する方が多いんですが、全然違うものなんです。

太陽などの恒星が自ら光り輝いているのは、原子核同士が「合体」して巨大なエネルギーを生み出しているからです。

実は、私たちが普段使っている石炭や石油といった化石燃料も、太古の植物が蓄積した太陽のエネルギーがもとになっています。つまり、人類が使ってきたエネルギーは、源流をたどればほとんどが核融合由来と言っても過言ではない、実はとても身近な存在です。

私たちが取り組む「核融合」は、言わば「人工太陽」を作るための技術なのです。

原子力発電所はウランやプルトニウムが「分裂」するエネルギーを使います。この「分裂」は連鎖反応が起きるので、制御できなくなると暴走事故になる。核融合は逆に、一定の条件下にないと自然に「合体」の反応が止まってしまうため、原理上、暴走しません。むしろ、発電のためにずっと続けることが難しいくらいの技術なんです。

さらに、燃料として代表的な水素の仲間の物質などは海水から実質的に無尽蔵に採取できるうえ、発電時にCO2を一切排出しません。原子力発電所のように1万年単位で管理が必要な高レベル放射性廃棄物も出ないため、「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれています。

──メリットばかりの夢のような技術に聞こえますが、実用化の目処は立っているのでしょうか?

実は、研究の歴史自体は原子力発電と同じくらい古く、1930年代から世界中で進められてきました。「地球上に人工の太陽を作る」という非常に難易度の高い試みですから、これまではなかなか思い通りにいかなかったんです。

しかし近年、その「太陽を作る」技術がようやく確立されてきました。我々も、2030年代には初号機となる発電装置「Helix KANATA」を建設し、実際に発電を開始するというスケジュールを引いています。

今、AIの普及に伴うデータセンターの増設などによって、世界的に電力需要が伸びています。持続可能な新しいエネルギー源の確保が急務となる中、アメリカは莫大な民間資金を、中国は国家予算をつぎ込んで猛スピードで核融合の開発を進めています。

核融合はもはや遠い未来の話ではなく、「商用化・実用化」を競うリアルなビジネスのステージに来ているんです。

──社名に入っている「ヘリカル」は、核融合炉の方式だそうですね。どういった特長があるのでしょうか。

ひと言で言うと、「発電所に一番向いている方式」です。二重螺旋状のコイルで磁場を作り、その中で人工太陽を維持する方式なんですが、発電所として必要な「十分な出力」「安定稼働」「保守性」という3つの条件をすべて満たせるのは、今ある技術のなかでヘリカル方式だけだと考えています。

机に置かれているのがヘリカル型核融合炉の模型

ヘリカル方式はもともと京都大学で発明され、直近では岐阜県の核融合科学研究所を中心に、人工太陽を発生・維持する研究などを積み重ねてきました。弊社は2021年、核融合科学研究所からスピンアウトして生まれたスタートアップです。

欧米は過去にこの方式の開発から撤退してしまった歴史を持ちます。だから日本がこの技術を押さえているのは、非常に大きなアドバンテージなんです。

オールジャパンでエネルギー自給率の改善に挑む

──核融合が「日本にとって重要」と言われる理由は?

エネルギー自給率の問題です。アメリカはシェールガスなどの資源があり自給率100%を超えていますが、日本はわずか15%ほどしかありません。石油も天然ガスも中東などに頼りきりで、もし輸入が止まれば即座に日本の経済は立ち行かなくなるという、非常に脆弱な構造にあります。

さらに、年間のエネルギー赤字は20数兆円規模。これは、日本の自動車産業などが世界で稼ぎ出している貿易黒字とほぼ同じ金額なんです。つまり、日本がいかに一生懸命に産業を作って稼いでも、その利益が原料と燃料を買うためだけに海外に流出してチャラになっているわけです。

だからこそ、この自給率を少しでも上げることが、単なるエネルギー政策にとどまらず、国の存続に関わる「経済安全保障」の観点からも極めて重要なんです。

これについては、「太陽光などの再生可能エネルギーを増やせばいいのでは」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし実は、現在の太陽光発電パネルなどはそのほとんどが中国製なんです。いくら日本国内に太陽光パネルをたくさん建ててエネルギーを作ったとしても、設備投資としての富は海外に流れてしまっている。つまり、本当の意味での「自給率の向上」や「国内経済の循環」にはなっていないんです。

翻って、核融合発電所はどうかというと、高度な日本のものづくりや建設の技術が活きる分野です。我々は国立大学や国の研究所で培われてきた技術をベースにしていますが、これをいかに「オールジャパン」に近い形で国内で仕上げるかが鍵になります。

プラント建設や部品製造のかなりの部分を国内企業で賄うことができれば、「1兆円・2兆円という建設費や維持費が、そのまま国内経済に跳ね返ってくる」ことになります。エネルギーを自給しながら、同時に経済も内側から大きく回すことができる。これが他のエネルギー源との根本的な違いです。自給率を少しでも引き上げられれば、日本の経済循環は大きく変わるはずです。

核融合発電所は地域に何をもたらすものか?

──核融合の発電所が地域にできることで、どれくらいの経済効果が期待できるのでしょうか。

我々が設計している初号機「Helix KANATA」だけでも、建設費だけで1兆円規模になります。当然そこに年間のメンテナンス費用なども入ってくるので、もたらされる経済効果はその倍以上になるはずです。

まず建設や製造のフェーズでは、建設系の企業はもちろん、鉄や配管の工事、電気系の配線工事など、実に多様な業種の力が必要になります。さらに、メンテナンスの段階でも、定期的に部品の交換などが発生します。すると、その保守や点検を担う業者さんがプラントの周辺に年間を通じて必要になります。

地元の企業に仕事が生まれるのはもちろんですが、メンテナンスのために新しい企業が地域に入ってきて、そこでまた地元の方の雇用が生まれることもあるでしょう。そうやって人が呼び込まれ、10年、20年という時間をかけて、そこに関わる産業そのものが地元に根付いて育っていくのです。

予備試験用核融合炉「Helix HARUKA」と初号機「Helix KANATA」のイメージパース図

──そうした施設は、どのような場所に建てられるのでしょうか。特別な条件はありますか?

技術的な制約は実はあまりなくて、理論上はほぼどこでも作れると思っていただいていいです。もちろん物を運んだり排熱処理をしたりする都合上、海の近くの方が便利ではありますが、それ以外に大きな制約はありません。

個人的には、「東京に作りたいな」と思っているくらいです。核融合発電所を都心に作ってこそ、胸を張って「安全だ」と言える。これは将来的な理想の一つですね。

現実的に日本のエネルギーインフラとして考えると、災害対策や送電時のロスを減らす意味でも、消費地に近い各地域に分散して複数作っていくのが理にかなっていると考えています。我々の初号機は比較的小さな出力で設計して、その後のニーズに合わせてスケールアップできるような柔軟な展開を考えています。

核融合先進国であり続けるための「丈夫な生態系」づくり

──2030年代の商用化に向けては、どのようなハードルがあるのでしょうか。

大きく分けて「技術開発」「資金」、そして規制や立地などの「社会受容性」という3つの課題がありますが、現在実質的に最大のハードルとなっているのが「資金」です。

アメリカや中国は莫大な資金をつぎ込んで開発を加速させており、日本がこの巨大なプロジェクトを前に進めるためには、官民を含めた支援体制が不可欠です。

その体制づくりの一環として、株主構成は意図して幅広くしています。生物の生態系と同じで、「多様であることって丈夫」だと思うんです。例えば、特定の1社が80%の株を握っていると、その会社が何かの都合で撤退した瞬間に事業が終わってしまいます。

個人投資家からメガバンク系、そして事業会社まで幅広く分散していれば、1社や2社が抜けても全体として動き続けられる。そういったレジリエンスの高い、生態系として丈夫な構造を作りたいんです。

──事業会社との連携として、愛知県のアオキスーパーが株主として参画していますね。

アオキスーパーさんは株主として加わってくださっているだけでなく、核融合電力の売買契約も結んでくださいました。実はスーパーマーケットって、ものすごい電気を使う施設なんです。社長さんの言葉を借りると「家庭に例えると冷蔵庫・冷凍庫の扉を開けっ放しで生活しているようなもの」。良い食品を届けるためにCO2を排出し続けているという葛藤をお持ちで、次世代のクリーンエネルギーに賭けようと参画してくださったそうです。

発電所を作る側にとっても、「本当に使ってくれる出口があるのか」という不安は大きな壁になります。アオキスーパーさんのように「できたら電気を使う」と具体的に示してくれる存在は、産業として非常に重要です。

また、「一緒に作る側」として、北九州の岡野バルブ製造さんなど、地域の事業者とも資本業務提携を結んでいます。これだけ大きな誰もやったことのない事業を作るとなると、うまくいかないこともたくさん出てきます。

単なる受発注の関係だと難しい壁にぶつかったときに諦めてしまいがちですが、資本関係を結ぶということはもう「ファミリーになる」ということです。うまくいかなくても、「じゃあどうやったら次に進めるか」を一緒に考えられる。同じ船に乗って最後まで粘り強く走るためには、こうした関係性が最も向いていると考えています。

核融合を日本の基幹産業へ

──地域との共存共栄について、どのようなビジョンをお持ちですか?

長く事業を続けるには、地域に溶け込まないといけないと思っています。弊社が資本提携などでご一緒している、数十年、百年と続く会社さんって、必ず何らかの形で地域に溶け込んでいるんですよね。一緒に防災活動に参加していたり、雇用を生んだり、教育を地域と連携して行っていたり。やり方はさまざまですが、環境に馴染まないと事業は長く続きません。

どこで発電所を建てさせていただくにしても、そこの地域で仲間になっていただいて、応援してもらえる関係性を築いていきたいですね。

──これから一緒に核融合の未来を作っていく仲間として、地域の企業にどのようなことを期待しますか?

今はまだ開発して技術を仕上げる段階ですから、「一緒に誰も作ったことのないものを作ってみたい」と手を挙げてくださる会社さんは大歓迎です。

ただ、難しい壁にぶつかったときにすぐ諦めてしまうと最後まで走れません。「なんとか日本でこれを最初に仕上げるんだ」「自分たちも見てるだけじゃなくて一緒に進むんだ」という思いを持って、同じ船に乗って粘り強く取り組んでいただける方々とであれば、必ず目的地までたどり着けると思っています。

日本の一番の強みは、ものづくりの力と、それを支えている「人」です。いろんな工場を拝見してきましたが、その丁寧さや継承されてきた技術は簡単に真似できるものではありません。ものづくりで日本に勝てる国はないと、本当に確信しています。

一方で、多くの企業が「いまある産業だけでは生き残れない」という危機感を持っておられます。だからこそ、今ある技術と技術者がより生きるような、次の100年につながる「新しい産業」を用意することが絶対に必要なんです。

日本が産業経済で世界一を取り戻すなら、ものづくりは一番筋がいい。自動車に次ぐ新しい産業として、核融合には間違いなくその可能性があります。日本の強みを最大限に引き出しながら、地域の皆さんと一緒に次の100年につながる産業を起こしていきたいですね。

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