地域の「もったいない廃業」を食い止めるには?事業承継プラットフォーム「relay」が示す一つの最適解

廃業する小規模な事業者の約6割は、実は経営に行き詰まっているわけではない。「後継者は現れない」という思い込みのまま、誰にも相談せず、地域に愛される店を静かに閉める。一方で「本当は後継者になりたくとも、なかなか手を挙げにくい」という、隠れた“継ぎ手候補”も少なくはない。お互いの存在が見えないまま、街のシャッターがまた増えていく。
この構造を変えようとしているのが、中小規模の事業者を対象としたオープンネーム事業承継プラットフォーム「relay(リレイ)」を運営する齋藤隆太氏だ。
中小事業者の後継者不足が加速するなか、齋藤氏は日本全国を取り巻くこの問題にどう取り組んでいるのだろうか。事業承継の現状と課題、そして地域で実践できる対策について伺った。
複数の勘違いが「事業承継」という選択肢を見えなくしている
——2020年にrelayを始めたきっかけは何でしたか?
もともと過去に地域のチャレンジを応援するクラウドファンディングサービスを運営していたんです。その延長線上で提供できるサービスを検討するなか、「事業承継」というテーマに辿り着きました。

齋藤隆太(さいとうりゅうた)
株式会社ライトライト 代表取締役
2007年、大学卒業後USEN入社。2008年株式会社サーチフィールド創業時に取締役として参画。イラストのクラウドソーシング事業の立ち上げに従事。2012年「地域×クラウドファンディング FAAVO(ファーボ)」立ち上げ。責任者として全国100以上の地域で自治体、金融機関、大学、企業やNPOと協業しながら、クラウドファンディングネットワークを構築。2016年宮崎県にUターン、サテライトオフィス立ち上げののち、2018年株式会社CAMPFIREに事業譲渡し移籍。2019年同社執行役員を経て退職、2020年株式会社ライトライト設立、代表取締役に就任。同年、事業承継マッチングプラットフォーム「relay」を立ち上げる。
たとえば私が生まれ育った宮崎県の中心地は、古くから愛されてきたお店が多く、それが地域の豊かさを醸成しているんです。いわゆる“地元の名店”は観光名所としても機能しますし、エリアの景観を作り上げるうえで重要な存在だと思います。
ただサービスを開始した2020年当時は、「後継者=親族から探す」という考え方が全国的にも主流。子どもが都市部に移り住んでいるという事業者ほど、突然シャッターを閉めてしまうケースが少なくありませんでした。
一方で地域の名店が閉まる、といったニュースが出ると、SNSでは閉店を惜しむ声が後を絶ちません。「自分が店を継ぎたかった」なんてコメントを見ることもあり、双方の食い違いを感じていたんです。
お互いに事業承継という選択を取りやすくなるようなマッチングサービスがあれば、「もったいない廃業」が少しでも減らせるのではと思いました。
——なぜ事業承継という選択肢は挙がりにくいのでしょうか?
事業承継は後継者の選定から税務手続きまで、やるべきことが多岐にわたります。そのため複雑な対応に苦手意識や抵抗感をもつ人が少なくないんですよね。
加えて地域に根付く小さなお店って、経営は成り立っているけど後継者候補の存在が見えない、というケースが多いんです。事業者を対象にした過去の調査によると「自分の事業を誰も継ぎたくないだろうから」という諦めが、廃業理由の7割を占めることがわかっています。
ある程度余裕のある状態だからこそ、譲り手側は「手間が増える前に静かに閉めてしまおう」という判断のもと、廃業を決断してしまうんです。
対する継ぎ手側は「事業の経験もない私が後継者になれるわけがない」という思い込みで、踏みとどまってしまう人が多い。経営経験が豊富な人だけが踏み込める領域、という先入観が、継ぎ手になり得る人たちの一歩を阻んでいるように思います。
——双方の思いこみが、事業承継が浸透しない原因になっているということですね。
しかも継ぎ手側には「チャンスさえあれば地元に帰りたい」と思っている都市部の人が、案外多いことも分かってきました。Uターンに踏み込めない理由の多くは、給与テーブルの格差。事業承継という道であれば、その差を埋められる可能性だってあります。
そうした構造を変える手がかりとなったのは、ある事業承継での経験からでした。譲り手と継ぎ手、双方に共感や安心感を生みだすために、オープンネーム(実名開示)の事業承継プラットフォームであるrelayをスタートしたのです。
「自分にもできる」と未来の継ぎ手に気づいてもらうには?
——relayが提供するサービスの特徴について、詳しく教えてください。
relayは社名や経営者の想い、事業承継の動機などをオープンにし、共感をベースにしたマッチングを実現する取り組みです。譲り手へのインタビュー記事を公開し、興味を持った継ぎ手が問い合わせすれば、より細かな企業情報にアクセスできるようになります。

一般的な事業承継では、風評被害への懸念から、名前を非公開にする、という暗黙のルールがあります。仲介サイトなどに会社名が掲載されると噂がたち、従業員や取引先が離れ、事業承継どころではなくなってしまうリスクがある、とされていました。
確かに規模の大きい会社では、情報をクローズドにすることでリスクヘッジができると思います。しかし従業員が数人、取引先も限られる小規模なお店では、オーナーが後継者を探していることが周知されても、雇用や取引が崩れるリスクはほぼありません。
むしろ何も情報がないことで、継ぎ手側が手を挙げにくい環境が生まれてしまうことの方が問題だと判断しました。
——では、オープンネームをはじめるきっかけとなった事業承継というのは?
宮崎の中心地で19年ほど経営されていた、飲食店の事業承継に携わった時のことでした。
店主さんはまちづくりに長年関わってきた、起業家の先輩。単に店を手放すのではなく「次に継承する人にも飲食店として活用してほしい」「できれば地元資本の事業者に継ぎたい」という気持ちがありました。
私はクラウドファンディングのサイトを運営していたこともあって「共感をベースに人が動く」ということはある程度わかっていました。そこで店主さんにも了承をもらい、顔と名前を出したインタビュー記事を公開。事業者としての想いを発信することにしたんです。
実際にやってみると、危惧していたようなことは起きませんでした。オープンネームはリスク管理を重視する立場にある、融資や事業承継支援に関わる方々にとっても、未知の取り組み。前例がないからこそ不安が募る、というのは大きかったのだと思います。
——最適な継ぎ手に情報が届くよう、どういったことを意識して発信していますか?
「何者でもなかったとしても、事業承継によってこれから何者かになれる」ということは、継ぎ手へ積極的に伝えようとしています。
もちろん経験があることに越したことはありませんが、彼らのサクセスストーリーだけを発信していると、「この人だから成功したんでしょ」という話になってしまいます。しかし我々の事例の中には、もともと主婦だった人が事業承継の継ぎ手となり、成功しているケースもある。「自分にもできる」という気づきこそが、プレイヤーを増やすポイントなんです。
現に事業承継を「すでに土台が用意されている起業」と捉え、サービスを利用する人も増えつつあります。我々も掲げているように、事業承継は「あたらしい起業」の形なんですよね。今後は継ぎ手側のスター選手のストーリーも発信していくことで、より事業承継という選択を身近にしていきたいです。
「あたらしい起業」で、地域が明るくなった
——冒頭で「古くからの名店が地域の景観を作る」とお話しされていましたが、事業承継が成立した店の周辺では、どんな変化が起きていますか?
具体的な事例で言うと「ジャリパン」という宮崎発祥の菓子パンが有名な「ミカエル堂」というパン屋さんの事業承継によって、地域にフォーカスが当たるようになりました。
継ぎ手となった大津伸詠さんは、もともと法人を立ち上げて融資を受けたこともある、いわば“経営経験者”。従来のジャリパンの価格を見直し、潔く単価を上げながらも、オープンからたった1年間で15万本を売り上げる人気店へと成長していきました。


またrelayでは2020年10月から、全国の自治体・公的機関と連携して事業承継を支援しています。その先駆けとなった宮崎県・高原町では、複数の事業承継が成立したことが呼水となり、relayが直接携わっていないところでも若い世代の創業が増えたそうです。
しかもこの地域では、事業承継によって生まれた「cafeみなづき」を起点とし、自治体と連携しながら地域のお祭りを復活させるなど、若手が地域活動へ積極的に取り組むようになりました。
ちなみに高原町には、事業承継のために家族ごと千葉からUターンし、再オープンした「Cafe and Delicatessen VOTE」がヒットした例もあります。
継ぎ手の「自分の店を持ちたい」という長年の夢が、事業承継によって叶った。relayの創業当初から私が思い描いていた、理想的な事業承継の姿でした。SNSで「予約の取れないカフェ」と話題になり、賑わっているのを見た時は感慨深かったですね。

——1つのエリアで複数の事業を成立させることが、地域の活性化に直結する好例ですね。
まだまだ「1エリアで複数の事業承継」を増やすには時間がかかりますが、事業承継の社会的意義を示せる可能性はあります。
それに最近は「創業したい人が来たら補助金を用意する」という受動的な施策ではなく「事業承継をしたい創業者を呼び込む」という能動的な対策をする地域が増えました。「シャッターを閉める店が増えていくけど止められない」というのは全国共通の悩みなんですよね。
——では、これから事業承継という選択肢をより浸透させていくために、relayとして強化していきたいことはありますか?
大規模なM&Aでは上場会社のM&Aコンサルタントが、中規模になると地銀の担当者が担っているのに対し、小規模はビジネスとして成り立ちにくいこともあり、支援者層が薄いことが課題。だからこそ、次のステップとして「新しい支援者層を作る」ということを目指しています。
小規模事業承継の支援者が少ないもう一つの理由に「専門性が高そうに見える」ということがあります。でも、事業承継で一番大事なのは、「後継者を探している」という声を現地で拾えることなんです。
地域の声を拾える人がいると、相談しにくい状況も解消されます。具体的には、ライターやカメラマンなど現地でさまざまな仕事をするフリーランスの方々に、副業の一つとして担ってもらうイメージ。皆さんがモチベーション高く取り組んでいただけるような仕組みをつくり、現地の事業承継支援者層を創出していきたいです。
そして、我々が全国の支援者の皆さんの現地での活動をバックアップする体制をつくり、マッチングを成立させていく。そういった生態系を目指し、全国へ“事業承継の輪”を拡大させていこうと思います。
(取材・文:高木望 画像提供:株式会社ライトライト)