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まだ、「江戸幕府」をひきずっているの?「東京一極集中」がもたらす日本の不合理な構造

2026.02.03(火) 16:01
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まだ、「江戸幕府」をひきずっているの?「東京一極集中」がもたらす日本の不合理な構造

地域エコノミストの藻谷浩介氏は、現在の日本を江戸幕府に例え、東京一極集中がもたらす不合理な構造を鋭く批判する。なぜ日本の人口減少は止まらないのか。住宅価格が高騰を続けるなかで、なぜ多くの人が「東京を離れられない」と考えてしまうのか。そして、江戸幕府のシステムに依存しない、これからの生き方とは。藻谷浩介氏へのインタビューから、東京一極集中の本質を明らかにしていく。

人口減少の原因は「東京一極集中」

──まず、現代の日本の地方が直面している課題について教えてください。

そもそも、ほとんどの人は「地方」と「東京」の二分法で、「地方の課題」は「東京の課題」ではないと思っています。

今日本では地方の課題よりも、国全体としての課題の方がはるかに大きくなっています。ほとんどの人はそのことに気が付いていません。

私は子どもの頃、地理が異常に好きで、世界の国の人口と日本の行政区の人口を暗記していました。それから、日本の各地の人口がどう変わってきたかをずっと見てきました。

東京都の2020年から25年の人口増加率を見ると、わずか1.2%です。さらに日本国籍の人だけを取り出すと、この5年間に0.2%しか増えていません。

「東京は人口が増えている」と言うのは幻想なんですよ。減少していない場所という程度で、一昔前の地方都市と同じ状況です。つまり、日本全体が同じ傾向なんですよ。

藻谷 浩介

1964年生まれ。日本総合研究所主席研究員。地域経済・人口動態・産業構造を長期統計から読み解く分析で知られる。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など。現場調査を重視し、人口減少時代の地域再生や日本経済の構造課題について、データに基づく実践的な提言を続けている。

──人口減少は地方だけでなく、日本全体の課題だということですね。

そうです。原因は国全体の少子化です。そしてその少子化の原因は「東京一極集中」です。出生率が1に近い水準しかない東京に、地方から若い人を送り込み続けている。これは「ねずみ講」にお金を預け続けて、財産が半分になっているのと同じです。

このまま地方から東京に人を送り続けていると、国が消滅するのは当然ですよね。

──東京はなぜ出生率が低いのでしょうか。

最大の理由はシンプルで、物理的な「部屋の広さ」です。東京の狭い家で子ども部屋を作れば親の居場所がなくなる。過疎地に移住した若いご夫婦は、急に子どもが増えるじゃないですか。それ、部屋が広いからです。この物理的な制約が、少子化の最大の原因です。

江戸幕府(東京)による「中抜き」の構造

──東京に人が集まる理由として「地方には仕事がないから」という言葉がよく聞かれます。

嫌なことを言いますが、東京にしかない仕事というのは、基本的には「中抜き」です。例えば、ふるさと納税のプラットフォームが手数料を取るように、そこにバリューアド(付加価値)はありません。東京は「中抜き」のためだけに存在するビジネスがあまりにも多すぎます。

江戸幕府なんですよ。東京は何も生産していないのに、江戸城に座っていれば諸藩の納めた年貢が集まってくる。そんな壮大な中抜きシステムに自分も加わって、幕臣(企業人)になりたいと思って東京にやってくるのはバカバカしい話です。

また、東京の人口を支えているのは安い報酬で働く非正規労働者です。彼らは高い家賃を払わされていますが、同じ仕事なら田舎でやったほうがずっと楽なはずです。

「中抜き」をする人は給料は良くとも社会の役に立っていない。あなたがやらずとも、同じことのできる代わりはいくらでもいる。それが「いい仕事」でしょうか。

稼げる仕事が「いい仕事」なら外国に行った方がいいし、それでも日本で稼ぎたいというなら、自分で勉強して外貨投資でもした方がいい。お金儲けがしたいならね。

でも、何か後に残る仕事がしたいのであれば、東京にいる必要はない。地方で何かを承継したり生み出したり、生きた「爪痕」を残した方がいいでしょう。

──地方創生のための国の予算についても、同様の中抜きの構造が見られるのでしょうか。

正にそう。地方創生の予算と言いながら、結局はその金の多くが東京の大企業へと流れてしまっているのが実態です。国が細かく用途を決め、地方側に霞が関を向いた膨大な申請書類を書かせること自体、全くの時間の無駄ですよ。そんなことをするくらいなら、さっさと地方交付税として配分し、使い道は現場に任せてしまうべきなんです。

現在の仕組みは、国が税金を集めて地方に下ろす過程で、その中間部分に群がる「中抜き」の人々を大量発生させているだけ。それが一極集中を加速させている。

日本全体の経常黒字は史上最高を記録しているのに、国民が豊かさを享受できていないのはなぜか。それは、稼いだお金が皮下脂肪のように中抜き企業に溜まり、本来回るべき所に循環していないからです。

人間で言えば、たくさんカロリーを摂取しているのに、栄養が筋肉にならず皮下脂肪として一部に溜まっているせいで、体そのものはガリガリに痩せ細っているようなもの。この東京の中抜き企業に溜まった皮下脂肪こそが、日本経済の停滞の正体なのです。

トップクラスの才能は地方から生まれている

──地域側では移住を促進していますが、「東京一極集中」の状況は変わっていません。なぜでしょうか。

これだけネット社会になっている中で、東京にこだわる必要なんてないんですよ。たまたま「絶対に潰れない終身雇用の一部上場企業」に入社し、役員にでもなれそうな位置にいるなら、わかります。でも、それ以外で、「東京でなくては」と思っている人は勘違い。地方出身で東京に家を買わされるなら、なおさら大損です。

あともうひとつ残っているのは「中学受験」のために東京に残らなくてはいけないと思っている人たち。

今のグローバル化したご時世に、わざわざ日本語しか話せなくなる学校に受験させるなんて、賢い選択とは言えません。ましてや男子校や女子校に行かせるのがいい教育だと思っているなんて。江戸時代が終わろうとしているのに、幕府の藩校で一生懸命勉学に励んでいるようなものです。

世界の人は日本の学校に通わせたいと思っていません。日本に来ている中国人ですら、ほとんどは東大に行かせようとは思わない。東京の教育がいいとう考えは、江戸幕府の残骸です。

──今の日本を牽引している才能は、どこから生まれているのでしょうか。

日本の教育システムからズレたところから、トップクラスの人材が排出されています。フィギュアスケートの坂本花織や羽生結弦、野球の大谷翔平や佐々木朗希を見てください。トップ選手は最初は地方、後には世界を転戦して育ちます。料理人も職人も建築家も、東京の「名門大学」を経由せず、地方から世界に飛び出した人の中から世界的な才能が生まれていますよ。

まさに幕末にペリーが日本を見て感じた通り、「トップは愚かだけど庶民は優秀」なのが日本です。職人芸や製造業の領域で、日本に勝てる国はない。実際、勝っているんです。日本は過去数十年、世界3位の経常収支黒字国家なのに「国際競争に負けた」と言っているでしょう。これがペリーの言う「日本のトップは愚かだ」ということですよ。

今の日本のトップ層は、人が言っていることを編集するだけの「生成AI」みたいな人たちです。統計数字も確認せず、現場も見ず、「国際競争に負けた」といった他人の言葉をそのまま自分の考えにしている。

地方で「後世に残る」生き方をする

──これから地方に関わろうとする人、移住を考える人に必要な視点は何でしょうか。

これは逆にね、「地方を出入り自由にする」べきです。東京の唯一の長所は「出入り自由」だということ。東京に来た人に「骨を埋める覚悟があるのか」とか、誰も言わないじゃないですか 。

昔はまだ「田舎者」なんて言うことがあったけれど、今は東京で「田舎者」と言って差別している人はいないですよ。それが自分たちの「食い縁」だって全員が分かっているからです。地方も、そういう東京のよいところは見習って、出入り自由にすべきなんです 。

──「定住」にこだわらず、もっと流動的でいいということですか。

そう。「ウェルカム・イン、ウェルカム・アウト」という気持ちになることがすごく重要です。別に3年いて役に立ってくれたら「ありがとう」でいいじゃない。20年いてくれたら、さらに「ありがとう」ですよ 。

──地方で生きることの最大の価値とは何でしょうか。

ぜひ「東京でできないこと」をしてほしい。それは、あなたがやったことが「残る」ということです。東京に来て、企業の役員になっても、結局何も残らないんですよ。東京に大豪邸を建てても、子孫はいずれ税金を取られて手放し、解体される運命です。

でも、田舎ならば何か残せる可能性がある。田んぼ一枚、用水路一本を残す。神社を掃除して残す。地蔵さんの祠を守る。企業は50年も経てばほぼ残りませんが、街や祠は1000年残ります。

東京の人は「砂粒のように生きて、砂粒のように死んでいく」と言った人がいますが、その通りです。不合理な学歴やお金といった「身分」の錯覚にこだわり続けず、田んぼ一枚、用水路一本を残すことにエネルギーを割いた方が、よほど未来のためです。私はそういう人を徹底的に応援したい。それが私の仕事です。

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