アニメは「第2の外貨獲得手段」。名物公務員とエンタメ社会学者が語る地域×コンテンツの可能性

群馬県が主催し、地域の新たな価値創出を目指して各界のトップリーダーが議論を交わす「湯けむりフォーラム」。
「湯けむりフォーラム2025」のDAY2で開催されたトークセッション「コンテンツはローカルに経済圏をつくれるか~推し活、ファンダム、その先へ~」では、「コンテンツ×ローカル」をテーマに、熱狂的な盛り上がりを見せるアニメ産業の最前線が語られました。
登壇したのは、エンタメ社会学者として産業を分析する中山淳雄氏と、群馬県館林市でアニメ『宇宙よりも遠い場所』とのコラボレーションを主導してきた中村智仁氏。モデレーターは群馬県出身のNewsPicks・金井明日香氏が務めました。

中山 淳雄 氏(エンタメ社会学者/Re entertainment 代表取締役)
事業家やベンチャー企業役員をしながら、大学での研究者・政策委員などを兼任し、日本エンタメの海外展開をライフワークとする。著書に『エンタメビジネスの教科書』『キャラクター大国ニッポン』『推しエコノミー』など。

中村 智仁 氏(館林市役所 つつじのまち観光課 係長代理)
館林市役所入庁後、広報・企画部門や群馬県への出向を経た後、現担当。「アニメ×地域×行政」による様々なトライアルを展開。現在は、アニメツーリズム事業の傍ら、官民連携によるリトリートツーリズムやフィルムコミッションにも取り組む。
アニメは自動車に次ぐ第2の外貨獲得手段
セッションの前半、中山淳雄氏は「アニメとインバウンド」をテーマに、最新のデータを用いて日本経済におけるエンタメ産業の立ち位置の変化を提示しました。
「日本のアニメ・ゲーム産業は、いまや自動車に次ぐ輸出産業になりつつあります」

中山氏がスクリーンに映し出したのは、産業別の輸出額を示すグラフでした。一番上の突出した線は自動車産業で、20兆円規模を誇ります。しかし、注目すべきはその下で急激に伸びている赤い線です。
「2015年頃まで、コンテンツ産業の輸出額は約1兆円程度でした。しかし、直近では6兆円に届こうとしています。かつて日本経済を支えた鉄鋼や半導体の輸出額を抜き、コンテンツ産業は日本2位の輸出品になっているのです」
特に中山氏は、2010年代と比較し、近年のアニメ製作市場の変化を「異常なほどの急成長」と表現します。かつて国内市場で10割稼いでいた構造が、今や国内は横ばいであるにもかかわらず、海外市場が約7倍に膨れ上がり、総市場規模を押し上げているのです。

「国内のアニメ市場は2010年頃から2000億円規模で頭打ちでしたが、海外輸出は現在1.8兆円に達しています。日本のアニメブームというのは、実態としては『海外でのブーム』なのです」
この海外での熱狂は、そのままインバウンド(訪日外国人観光客)の動機に直結しています。中山氏によると、世界の観光客数の推移と類似して、アニメの海外市場も2010年代に突出した伸びを見せていました。
「日本に来るには飛行機に乗る必要があり、地理的なハードルが高い。それにもかかわらず、これだけの人が押し寄せているのです」

「何も言わずに『ラブライブ!』を見るために沼津に行き、そのまま帰る」といった、純粋な聖地巡礼目的の観光客も年間数百万人に上ると推測されます。
中山氏は、この潮流を「第2の自動車産業に次ぐ外貨獲得手段」と位置づけ、地域自治体にとっても無視できないチャンスであると強調しました。
では、地域はこのブームをどう活かすべきか。中山氏は京都市で開催されているマンガ・アニメ見本市「京まふ(京都国際マンガ・アニメフェア)」の成功事例を挙げ、イベント継続の重要性を説きます。
「多くの自治体主催のアニメイベントが1〜2年で消えていく中、京まふは10年以上続き、来場者も約2万人から4万人規模へ成長しました。成功の要因は、版元(出版社やアニメ制作会社)との関係構築を丁寧に行ったこと。担当者が変わってもノウハウを引き継ぎ、単なる『コラボ』ではなく、作品へのリスペクトを持ち続けた結果です」
また、アンパンマンミュージアムのような「体験型施設」の経済圏にも触れ、モノ消費からコト消費、トキ消費へと移り変わる中で、地域に「体験」を作ることの重要性を訴えました。
館林市が起こした「よりもい」の奇跡
続いてマイクを握ったのは、館林市役所の中村智仁氏です。群馬県の東部に位置する館林市は、つつじや童話・分福茶釜で知られる静かな街でした。その景色を一変させたのが、2018年に放映されたアニメ『宇宙よりも遠い場所』(通称:よりもい)です。
「最初は市役所主導のコラボではありませんでした。放映が始まってから、ファンや職員の間で『この背景、館林じゃないか?』と噂になり、そこから舞台探訪が自然発生的に始まったのです」

そこから中村氏を中心としたつつじのまち観光課の取り組みが始まります。 アニメツーリズム協会が選定する「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」に、群馬県内で唯一7年連続で認定。ニューヨーク・タイムズ紙のベストテレビ番組にも選出されるなど、作品評価の高まりとともに、市の取り組みも加速していきました。
館林市の取り組みで特筆すべきは、その徹底した「作品への没入感」と「部署横断的な展開」です。
「キャラクターを『館林アニメアンバサダー』に任命しました。これにより、観光課だけでなく、教育委員会や商業振興などの部署も、彼女たちを『市の広報マン』として活用しやすくなりました。庁内の縦割りを、キャラクターが飛び越えていったのです」
街中にはキャラクターの看板が立ち、路線バスがラッピングされ、民間企業とのコラボ商品は次々と生まれる。中村氏は、行政の役割を「地域プロデューサー」と定義します。
「行政だけでやるのではなく、市民、ファン、地域企業との『掛け算』を意識しました。例えば、聖地認定の授与式を会議室ではなく公開イベントにしてファンと喜びを分かち合ったり、公共施設にファンの展示コーナーを常設したり。私が個人的にオフ会に参加することもありました」

その経済効果は、関連商品の売上や推計できる消費額だけで1億円以上。しかし中村氏は、数字以上の変化を実感しています。
「かつて館林の観光客層は高年齢層が中心でしたが、アニメをきっかけに若い世代が明らかに増加しました。そして何より、ファンの方々が館林を好きになり、街の宣伝をしてくれたり、イベントを手伝ってくれたりするようになった。『交流人口』を超えて、もはや『住民』に近い存在になっています」
ここからは、モデレーターの金井氏を交え、中山氏と中村氏によるクロストークが展開されました。

「推し」を守るために1億円が集まる
金井:中山さんのデータのお話は衝撃的でした。観光客数以外の観点でコンテンツ産業が地域にもたらすインパクトについて、どうお考えですか?
中山:そうですね。象徴的なのが、足利市の事例です。人気ゲーム『刀剣乱舞』に登場する刀剣「山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)」が所有者から手放されるという話が出た際、足利市が購入するためにクラウドファンディングを実施しました。結果、どうなったと思いますか? 5000人から約1億2000万円が集まったんです。
金井:5000人で1億円以上……一人あたり数万円ですね。
中山:そうです。これは単なる消費ではなく、「推しを守りたい」「この文化を残したい」という投資に近い行動です。館林の事例も同じで、来場者数以上に、そこにどれだけの「熱量」があるかが重要です。供給者と消費者という従来の区分けは、エンタメの世界ではもう古いのかもしれません。
地域での盛り上がりをどう持続させるか
中山:重要なのは「イベント性」です。どんな人気コンテンツのコラボカフェでも、1ヶ月半もやれば客足は落ち着きます。人間には周期性がある。「毎日やってます」ではなく、「今年もこの季節が来たね」という祭りが必要です。館林が素晴らしいのは、それを7年間、途切れさせずに何かしらの燃料を投下し続けている点です。
中村:まさにそうです。ただ漫然と続けるのではなく、地域の事業者さんに主体的に商品を作ってもらったり、常に「動き」を作り続けることを意識しています。

成功のカギは「オタクな若手」と「理解ある上司」
金井:コンテンツとのコラボレーションがうまくいかないという地域も多いと思います。館林のようにうまくいく地域は何が違うのでしょうか。
中山:企業のコラボ案件でもよくある話ですが、決定権を持つ部長クラスはアニメを知らないことが多い。「ラブライブ? なんだそれは」となる。そこでプロジェクトが動くかどうかは、そのおじさん役員の娘がファンであるか、あるいは部下の20代の熱意を信じられるかにかかっています。
金井:個人の熱意が組織を動かすのですね。
中山:静岡の「うなぎパイ」で有名な春華堂さんの事例が面白いんです。老舗企業ですが、中途入社の役員と若い社員がタッグを組んで、『ゆるキャン△』に登場した架空のお菓子を忠実に再現した『うなうなパイ』というコラボ商品を仕掛けました。最初は社内でも「大丈夫か?」と言われたそうですが、それが大ヒットして、今では浜松全体のアニメコラボを牽引する存在になっています。
中村:すごくわかります。館林市役所でも、私が7年間担当させてもらっていること自体が珍しいのですが、上司や他部署が「中村が言うならやってみよう」と許容してくれる環境があったのが大きいです。最初は提案をしてもまともに取り合ってもらえなかった版元さんも、我々が本気で作品を愛していることを伝え続けることで、信頼してくれるようになりました。
中山:中村さんのように、同じ部署に7年いて、作品への愛を持ち続ける「守り人」がいるかどうかが、地域コラボの成否を分ける最大の要因ですね。

地域からコンテンツ側にどう働きかけるか
金井:自治体側から仕掛けられることとして、どんな可能性がありますか?
中山:鉄道会社との連携はもっと深掘りできるはずです。JR東海さんが展開している「推し旅」キャンペーンは非常に上手い。新幹線の中だけで聴けるボイスドラマなど、移動そのものをエンタメ化しています。最近では『負けヒロインが多すぎる!』という豊橋が舞台のアニメとコラボしていましたが、あれはアニメ化が決まった段階からJR側が仕込んでいた。そのスピード感が必要です。
中村:館林市としても、東武鉄道さんとの連携は大きな鍵だと思っています。東武線沿線には、春日部の『クレヨンしんちゃん』、久喜の『らき☆すた』など、強力なコンテンツを持つ街が並んでいます。これらを点ではなく線で結び、広域的なアニメツーリズムの回廊を作れれば、もっと面白いことができるはずです。
金井:群馬県全体としてのポテンシャルはいかがでしょうか。
中山:実は群馬には世界的なキラーコンテンツがあります。『頭文字D』です。これは2000年代の作品ですが、海外での人気が根強い。インドネシアやアメリカ、中東でも知られていますし、アーケードゲームはいまだに稼働しています。今はリバイバルブームですから、伊香保温泉などを中心に、改めて世界に向けて仕掛ける価値は十分にあります。
中村:『菜なれ花なれ』や『前橋ウィッチーズ』など、新しい作品も生まれています。ただ、まだ「点」での盛り上がりに留まっている印象があるので、これらを県全体でどう繋げていくか。今日のような場で横の連携が生まれることに期待したいです。
愛なきコラボに未来はない
約1時間にわたるセッションを通じて浮き彫りになったのは、「コンテンツ×ローカル」の成功に必要なのは、作品への愛であるということ。
館林市のように、行政職員が自ら楽しみ、ファンと共に聖地を育てていく姿勢があれば、それは「関係人口」という資産に変わります。
巨大産業に成長した日本のアニメ・ゲーム。その恩恵を地域が享受できるかどうかは、現場に「中村さん」のような熱量あるプロデューサーがいるか、そして組織がその熱量を信じられるかにかかっているのかもしれません。